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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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  最初に、右頬を強く殴られた。拳で殴られるってこんなにも痛いのかと声が出なかった。安っぽいラブホテルに連れ込まれて、逃げ場がなかった。どれだけ叫んだとしても、誰も助けに来ることはない。

  壁は少し黄ばんでいて、花柄模様も薄くなっていた。廃れているはずなのに、カーテンだけは一丁前にサテンの濃いピンクに黒いレースがついていた。

  大きなベッドに投げられ、恐怖で動けなくなった無抵抗な私の首を絞める。器官が圧縮されて、呼吸が上手くできない。

  鼻で息を吸おうとしても、首筋を抑えつけられる痛さに悶えて、意識が遠のく。自然と涙が出てきて、逃げる気力を失ってしまう。

  抵抗した方が苦しいことに気付き、自業自得だからしょうがない、と自分を悪者にした。

 抗わなくなった私を見て、男は薄気味悪い笑みを浮かべた。ゆっくりとざらざらとした男性の手がスカートの中へと入っていき、私の太腿へと触れた。

 私はその瞬間、心を無にして目を瞑った。

 そこからの記憶は曖昧だ。気付けば、全てが終わっていた。ラブホテルの前で乱れた髪のまま立っていた。

 男はそこにはいなくて、ただ、お腹が痛かった。ズキズキした痛みが下半身に残っている。何が起こったのか全てを理解して、その場に吐いた。

 ずっと、何も食べていなかったせいで、胃液しか出なかった。

 その時に、私は拾われた。

 カラオケでもう一度再会するとは思わなかったが、彼が「大丈夫?」と私に飲みかけの水が入ったペットボトルを渡してくれた時は救世主だと思った。

 こんな簡単に人を信じるなんて、学習能力がないのかと思われるかもしれないが、その時の私は、自分を認知してもらえているだけで良かった。

 視界に入っているだけで満足だと思った。

 姉に忘れられた、という事実に耐え切れなかった。

 私を馬鹿で間抜けだと誰もがそう思うだろう。中学生でもその判断ぐらいはできる、と。

そんなこと分かっている。分かっているけれど、あの時の私の精神状態はまともな判断など到底できなかった。


「カエル味の飴玉」


 私はその言葉にハッと我に返った。


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