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ら、「戦わないよ」とにこやかに笑う。
やっぱり、僕らは似た者同士だ。だからこそ、清一は俺に戦うことを無理強いしない。
「俺はさ、別に人のことを利用するのは悪いと思わないんだ。それがあまりにも非道だったら止めるけど……。家族でも友人でも、利用することは悪いことじゃない」
もしかして、清一は、僕が順子を利用するのを肯定しているのだろうか。しかし、彼の口調は肯定しているようで、やっぱりどこか否定しているようにも聞こえた。
「あんまり女の子を利用するのは良くないよ」
「それは自戒?」
「そうかもな」
清一は何か誤魔化すように笑う。
女の子は、沙知のことか? ……それとも島崎?
沙知が傷ついているのを目の当たりにして、人を傷つけることは良くないと清一は悟ったのかもしれない。
「てかさ」
俺の言葉に清一は「ん?」と軽く首を傾げる。
「要は、浮気がバレたんだよな?」
俺は話を元に戻した。肝心なところが不明だった。不純だと振られたのは、何が原因だったのか曖昧なままだ。
「い~や」
首を横に振る清一に「は?」と眉間に皺を寄せてしまう。母親の前でこんな表情をしたら、一発退場だ。彼女はイエローカードというものを知らない。いきなり罵られて、殴られる。
「よくあるお決まりのパターン。まじで少女漫画の台詞だぜ」
「へぇ、沙知って、セネカ以外の台詞も発するんだ」
「意外と少女漫画の主人公だったよ」
「当て馬じゃなくて?」
「お前もなかなかひでえなぁ」
清一は苦笑する。
きっと、当て馬など存在しない。沙知も清一も主人公だ。
全員物語を持っていて、皆主人公だ。誰目線かで少し捉え方が変わるだけで、皆、この世界を傷つき、傷つけられ、精一杯生きている。
「他に好きな人がいるんだろって?」
「ノンノン」
結構、少女亜漫画のベタな台詞を狙ったんだけどな……。それも、沙知が言いそうな言葉。
「清一を幸せにするのは私じゃない、ってさ」
「思ったより少女漫画みたいな感じじゃなかった」
「そうか? 俺、少女漫画読んだことねぇから」
「少女漫画に謝れ」
「すまん。……っていうお前は読んだことあるのかよ」
「あるよ」
「え、まじ? いつ?」
……いつだっけ。そう聞かれると分からなくなる。けど、確かに読んだ記憶はある。
僕は必死に記憶を辿った。小学生の頃、僕は誰に少女漫画を読ませてもらったのだろう。女の子か男の子かも不明瞭な自分の記憶力に苛立つ。
「まぁ、どっちでもいいけど」
「その台詞を沙知に言われた時、清一はなんて言ったの?」
「俺は沙知といて幸せだったよ、って」
「うわぁ、そんなこと言われたら沙知泣いただろ」
沙知の泣き顔が簡単に想像できた。彼女は良くも悪くも、とても「女の子」だった。ほんの軽く関わった勝手なイメージだけど……。