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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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「どう思った?」

 私は率直な意見が欲しかった。同情じゃない回答を求めている。彼の瞳に「正直に答えて」と意を込めながら真っ直ぐ見つめた。

「まつりちゃんは…………、強い人だと思った」

「強い? どこが?」

 想定外の答えに私は嘲笑する。強い、と傍から思われているのなら嬉しい。けど、谷沢くんにそう思われるのは癪に障った。

 天邪鬼だと分かっている。それでも、私は全てを知っている谷沢くんには「弱い」と認識されたかった。

「強いよ、本当に」

「両親が死んで、姉に忘れられて、自暴自棄になって、犯されて、自分を見失って、今じゃ親友にすら忘れられたんだよ?」

 感情が少しずつ零れだす。谷沢くんに当たっても意味などないのに、抑えられることができなかった。

 チェリー付きの特別なクリームソーダになど到底なれない。そんなことは最初から分かっていた。だから、せめて、喫茶店のメニューに載れるぐらいの価値でいたかった。

「泥中に咲く蓮の如く、傷ついて、どん底にいても、それでも美しく咲き誇っているから。俺の目にはそう映っている」

「……そんな綺麗なものじゃない。私は沈んで、もはや蓮根にすらなれなかったよ」

 蓮根という言葉を口に出しながら、からし蓮根食べたいなと思った。こんな時にでもお腹が減るのか……。

 私の心は死んでいても、身体は生きようと必死だ。人間ってなんて不便なのだろう。

「強くないと生きていけなかったから」

 私は確かな声でそう言った。

「弱さは私の味方になってくれない。他人に傷つけられないように心に鎧を被せて、誰にも期待しないようにした。自分の身は自分で守らないといけない。誰も助けてくれないから……。だから、道を間違えても引き返すことなんてしなかった。自分を正当化するために、ただ前にだけ進んだ」

 自分の価値は自分で決めるものではない。第三者の評価によって決まる。

 変わったね、と侮蔑の意味で周りに言われていたことも知っていた。それでも、私を求めてくれる人がいるのなら、それで私の価値は保たれていると自分に言い聞かせていた。

「……けどね、その先には何もなかった。虚無と憔悴だけ」

 馬鹿な中学生時代だったと思う。高校に上がって、加奈子に出会って、私は少しずつ人生の軌道を良い方向へと修正できていたと思った。……それも今日で終わり。

「まさか加奈子を失っちゃうとはね」

 私は笑った。笑うしかなかった。笑わないとやっていられない。

 谷沢くんは何も言わず突然私を抱きしめた。何が起きたか分からず、硬直してしまう。谷沢くんの体温を感じる。

「まつりちゃんを犯した男を殺したいし、カラオケでまつりちゃんの腕を掴んだ男も殺したい」

「それじゃあ、捕まっちゃうね」

「……いいよ、それでも」

 彼がそう言ってくれたことで、私は崩れ落ちることを免れたのかもしれない。それぐらい彼の言葉は私の心を優しく包み込んでくれた。

 谷沢くんがそこまでしてくれる価値が私にあるのだと思うと、まだ大丈夫、と自分に言い聞かせることができる。

「それじゃあ、私も一緒に殺すね。共犯になろう」

 谷沢くんは静かに「賛成」と言って、私を抱きしめる力を強めた。緊張で鼓動が速くなるのと同士に、落ち着きと安心がそこにあった。

 お互いそんな勇気などあるわけない。ただ、そう口にすることで心が楽になった。

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