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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 瞼を開けると、見たことのない天井だった。

 消毒液の匂いと、ベッド……、保健室?

 いつの間にか気を失っていた。誰がここに運んでくれたのだろう。人の気配を感じて、視線を天井から自分の手元へと移す。

「徹、くん?」

 驚きのあまり彼の名前を呼んだ。椅子に座っている彼を見つめながら、「どうしてここに?」と言う前に、彼は私が目を覚ましたことに気付き、「起きた」と安心の声を漏らした。

 その表情で私のことを本当に心配してくれていたのだと分かった。

「大丈夫?」

 その優しさを帯びた声色に私は彼にしがみつきたくなった。どん底に落ちている時に誰かの優しさに触れることが怖い。それに依存してしまうから。

 手を差し伸べてくれる人は沢山いても、掴む手を間違えれば地獄を見ることになる。それが中学時代の私だ。

「まつりちゃん?」

谷沢くんは私の顔を覗き込む。

「だ、いじょうぶ」

 なんとか声を発する。寝起きの声のままだ。

「良かった」

 彼は柔らかく笑った。

 目が覚めた時、一人じゃなくて良かった。谷沢くんがいてくれて本当に良かった。

「なんで……」

 いるの? まで言えなかったが、彼は私に優しく説明してくれた。

「突然意識を失ったまつりちゃんを恵美が助けたんだ。誰よりも早く彼女がまつりちゃんをおんぶして保健室に運んだんだ」

……宮川さんが?

 谷沢くんは驚いている私に気付いて「あいつ、まつりちゃんを一切他の男に触らせなかったんだって」と言って、また話を続けた。

「それで、俺が教室に着いたら恵美が俺の教室にいて、事情を聞いて……、ここに来たんだ」

「……授業は?」

「いいの、俺はサボっても」 

「起きたのなら、報告しろ」

 谷沢くんと保険の先生の声が重なった。シャッと勢いよくベッドを隠すカーテンが開き、谷沢くんは先生に頭を軽く叩かれる。

 私の学校の保険の先生は若くて可愛らしい雰囲気とは程遠い、五十代のベテランだ。ショートカットの女性がコーヒーカップを片手に私の方を見る。

「大丈夫?」

 ハスキーな声に私は「はい」と答える。初めて保険の先生と絡む。このやり取りだけで、この先生が生徒から慕われているのが分かった気がする。

 がっちゃん、と皆から呼ばれて、いつも「なんだ~?」と面倒くさそうに返答しているイメージ。たしか本名は、尾形。

「谷沢はちょっと席外せ」

「え」

 尾形先生の言葉に谷沢くんは眉間に皺を寄せた。

「女同士、聞かねばならんこともあるんだ。空気を読め」

 先生が手で彼のことを払いながらそう言うと、谷沢くんは少し不服そうにしながらも「分かりました」とその場を離れた。


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