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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ


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「ごめん、遅いから見に来ちゃった」

 宮川さんの言葉に莉子が「あ、恵美」とどこか気まずそうな顔をする。私は谷沢くんの方を見ることができなかった。

 どこから聞いていたにせよ、いずれ知られてしまう。それをわざわざ必死に隠そうとも思わなかった。ただ、彼には軽蔑の目で見られたくない。

 そんな葛藤とともに私は男の方へと視線を移した。

「そろそろ部屋に戻ったら?」

「そんな反抗的な目を俺に向けるのかよ。……ああ、新しい男か」

 男は谷沢くんを一瞥し、そう言い放った。

谷沢くんを、新しい男、という括りになんてしないでほしい。彼は違う。もっと綺麗で、私と関わってはいけない人だから。

眉をひそめて「なに?」と谷沢くんは男を睨む。男は「お~、こわ」と茶化しながら、私の腕を思い切り掴んだ。

「こいつ、汚れてるよ」

 その冷たく悪意のある声に私は身震いした。そこまで彼に恨まれるようなことをした覚えはない。

「中学生の時にレイプされたところを俺らが助けてやったのに、その恩忘れちゃったのかな~? おい、なぁ、優しくしてやっただろ?」

 どんどん私の腕を握る力が強くなってくる。……痛い。腕よりも心がずっと痛い。

 容赦なく心臓にナイフが刺しこまれていく。思い出したくない過去が掘り出されていく。

 私は俯くことしかできなかった。彼に縋りついた昔の自分が悔しかった。

「お前は顔が良いだけ。それ以外なんの取り柄もねえんだよ。それなのに一緒にいてやった俺らに感謝しろよ?」

 その瞬間だった。水しぶきが私の顔に少しかかった。

 コーラの匂い。

「さっきからうるさい」

 どこかで聞いたことのあるような声だった。それと同時に「つめてえ」と私の耳元で叫び、男は私から手を離した。

 気付けば、男は頭からコーラをかぶっていた。……私がさっき入れたコーラ。

 その場にいた全員が驚いていた。視線が一人の男性へと集まる。

 背が高く、鍛えているんだろうなと素人でも分かるほどしっかりした体をしている男性がそこに立っていた。

 男らしいのに、顔はどこか人懐っこい雰囲気があった。……けど、今は容赦なく私の腕を握っていた男に対して敵意をむき出しにしている。

「女子高校生の腕掴んで何してんの?」

 穏やかにそう言って笑う彼の表情が怖かった。

 男はコーラを被ったまま「は?」と顔を顰める。

「自分のプライドをちょっと傷つけられたからって、そこまで攻撃的になるの、クソだせえよ」

   男の前に立ち、突然現れた男性はそう言い放った。その圧に男は怯えた表情を浮かべる。

さっきまでの威勢はどこに行ったのだと思うほど、男が弱々しく見えた。

 絶対に勝てないと思ったのか、コーラを被ったまま男は「お前ら全員きめえよ」と最後に吐き捨ててその場を去った。

 なんとも格好の去り方……。こんな品性のない男に散々言われて傷つく自分が馬鹿らしく思えてきた。

「大丈夫? コーラ、かかったよね」

 男性は申し訳なさそうに私へと視線を移した。「いえ」と私は首を横に振る。そんなことよりも助けてもらったお礼を言わないと……。

 そう思っているのに、言葉が上手く出てこない。

「名前は?」

 その優しい声に「まつり」と反射的に答えた。

「俺は清一」

「清一、くん」

 …………思い出した。この声と名前。


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