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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 あ、向日葵。

 大学近くの本屋さんに向かい、扉の近くにある花壇に黄色い大きな花が咲いていることに気付いた。

 普段、花など気にも留めないが、向日葵だけは特別だ。

「向日葵だ」

 その聞き覚えのある声に反応して、振り返る。

 島崎順子がそこにいた。僕が想像していた表情と違った。その歪んだ表情に僕は「え」と思わず声を出してしまう。

 花に興味がなくとも、花を見て嫌悪感を抱く人は珍しい。

「沖原くん」

 僕と目が合い、島崎は一瞬驚いたが、すぐに表情を緩めた。

「向日葵、嫌いなの?」

「……嫌いだよ。大っ嫌い」

 僕の質問に彼女の表情は少し曇ったが、それでも笑顔のままだった。あまりの圧に僕は何も言い返せなかった。「どこが?」と言えるような空気ではない。

「今一人?」

 島崎は話を変える。

「うん」

「じゃあ、デートしようよ」

 そう言って、強引に僕の手を掴み、本屋へと入っていく。断る間もなく、彼女のペースに巻き込まれる。

「島崎さんって」

 引っ張られたまま、僕は彼女の後姿に話しかける。

「順子」

「え?」

「順子って呼んで」

「……順子」

「たいへんよくできました」

 彼女はクルッと僕の方を振り向き、嬉しそうに笑った。その笑顔に僕は暫く釘付けになった。

 なんて幸せそうに笑うんだろう。僕が名前を呼んだだけで、こんな風に笑ってくれるなんて……。

「それで、何を言おうとしたの?」

「島……順子って、岡峰さんといつから仲良いの?」

「やっぱり沖原くん、さゆり狙い?」

「違うよ、ただの疑問」

「大学入ってからかなぁ……。けど、さゆり、彼氏いるよ」

 島崎の言葉に僕は耳を疑った。僕は何も言い返せないまま、その場に固まる。

……彼氏がいる? さゆりに?

「やっぱり、さゆり狙いじゃん。知ってたけど。……食堂でも、さゆりしか見てなかったもん」

「……あれは、知り合いに似てただけで」

 そう返しながら、僕は頭の中でさゆりの彼氏についてずっと考えていた。

 恋人がいて全く不思議じゃない。僕は忘れられたのだから、彼女が新しく恋愛していて当たり前だ。そんなこと、覚悟していた。

「ショックそうだね」

「そんな風に見える?」

「うん、とっても」

 言葉に詰まる。どんな感情で島崎は僕の手を繋いでいるのだろう。いたたまれない気持ちが湧いてくる。

「とりあえずさ」

「うん」

「私とデートしよ!」

 島崎の明るい声に僕は頷く。

 この手は手放しちゃいけない気がする。僕は彼女の手をギュッと握り返した。



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