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同じ理由を呟いたことに感動した。谷沢くんは驚きながら「まじ?」と私の方を見ていた。
耳たぶに穴を貫通させることで、大人になれると小学生は思いがちなのかもしれない。きっと、あの時の小学生は皆大人になりたがっていた。今の私たちは年を取ることに抗っているけれど、「大人」はあの時の私たちにとって、とても魅力的に見えた。
「雲の上の存在のまつりちゃんには恐れ多いけど、俺たちって少しだけ似た者同士なのかもな」
「……なんで、雲の上?」
「手に届かない存在だと思ってたから」
私はクラスでどんな立ち位置なのだろう。あまり自分を客観視したことがなかったから、雲の上の存在なんて言われて驚いている。
「けど、意外だったな、まつりちゃんが不良小学生だったなんて」
不良小学生ってわけではない。
耳を開けた数日前、私は大好きな姉に忘れられた。
その悲しみのやり場をどこに持っていけばいいか分からなかった。大人は泣かない、そう思っていたから、私は大人になりたかった。姉に忘れられたこの世界が、現実なのだと認識するためには痛みでも実感するしかなかった。
「それを言ったら、谷沢くんもでしょ」
「たしかに。てか、徹でいいよ」
「……徹くん」
私が彼の名を呼ぶと、谷沢くんは片手で口元を抑えて「あ~、まじでかわい」と呟く。名前を呼ぶだけで照れるその姿にときめいてしまう。
恋愛なんてもうしないと思っていたけれど、谷沢くんみたいな人だったらいいかもしれない。
……いや、ダメだ。
私はもう道を間違えすぎた。谷沢くんの想いに真っ直ぐに純情な愛で向き合える自信がない。そんな最低な自分を自覚し、自己嫌悪に陥る。
「まつりちゃんって兄弟とかいるの?」
「いないよ」
私は姉の存在を隠した。私のことを忘れたあの日から、姉はいないのと一緒だ。あの時、私のクリームソーダからチェリーがなくなった。
姉は、私の全てだった。
「徹くんは?」
「大学生の兄貴が一人いるよ」
「仲良いの?」
「仲は良い方だと思う。よくサッカーも一緒にしてたし……」
サッカーに触れていいのか分からなかった。どうしてサッカー部をやめたのか知りたかったが、私は話題を変えた。
「きっと素敵な家族なんだね」
「まつりちゃんは? ご両親は何してるの?」
「何してたんだろうね」
私はそう言って、コップに入っているコーラを飲む。炭酸が口の中で弾ける。
少しだけ気まずい雰囲気にしてしまったかもしれない。過去形で話すぐらいなら、もう少し濁しておいた方が良かったかもしれない。
「小学生にあがる前に亡くなったから、あんまり知らないんだ」
そう補足すると、谷沢くんは申し訳なさそうに「ごめん」と謝る。正直、私は両親が亡くなったことよりも姉が私のことを忘れてしまったことの方がショックだった。耐え切れない切なさが私を襲った。
「ううん、全然。あんまり記憶ないし」
「……今は? どうやって暮らしてるの?」
「秘密」
私はそう言って、谷沢くんに微笑んだ。




