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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 名前以外にも彼の情報は少し知っている。

 谷沢徹。元々サッカー部だったらしいけど、今は帰宅部。今は違うクラスだけど、どこの学年でも女子から「カッコいい」とよく言われている。身長も高く、健康的に焼けていて、運動もできれば、モテる理由も分かる。

「よし! そうと決まれば行こ~~!」

 宮川さんの声で、皆がぞくぞくと教室を出て行く。

 加奈子のことは気がかりだったが、たまたま今日は休みだったのだろうと思うことにした。何かあったら、連絡が来るはずだし……。

 別に一日ぐらい、クラスメイトたちと遊ぶことは悪いことじゃない。今までずっと加奈子としかいなかったのだから、女子高校生っぽくなったっていい。

 私は自分にそう言い聞かせながら、宮川さんたちを追った。




「恵美、もう少しそっち寄って~」

「もうこっち超狭いよ。後は皆が痩せるしかない」

「全員でダイエット会開くか~」

 小さなカラオケボックスに八人がぎゅうぎゅうで座っている。まだ誰も歌い始めていないのに、騒がしい。

 私は端っこに座って、その隣に谷沢くんが座った。シトラス系の香りがふわりと漂う。香水じゃなくて柔軟剤っぽい匂い。それだけで好印象だった。

「隣、俺でも良い?」

 その聞き方が、高校生なのに大人っぽいなと思った。無邪気な笑顔を見た時は少年みたいって思ったけれど、こうして近くで話しかけられると、落ち着いているし、表情も穏やかだし……、なにより、声が良い。

 男は目で恋をして、女は耳で恋をする、ってよく聞くけれど、結構当たっていると思う。

「もちろん」

 私がそう言うと、「良かった」とクシャッと笑う。

「受験生だけど遊びに徹してる俺らに乾杯~~!」

 同じクラスの宮川さんとよく一緒にいる男の子がオレンジジュ―スの入ったコップを上に掲げた。

 それに続いて、かんぱ~い、と各々ジュースの入ったコップを持ち上げる。受験勉強の息抜きにこれぐらいしないといけない。

……多分、私以外は専門学校に行く子がほとんどだけど。

「は~~、ついに、まつりんを誘うことができて我々は嬉しいよ~~」

 マイク越しに宮川さんが私の名を呼ぶ。

 私は少し恥ずかしくなりながらも「そんなに?」と軽く笑う。宮川さんは口を尖らして「そんなに!」と大きな声で返答する。

「だって、まつりん高嶺の花だったんだもん」

 宮川さんが私のことをそんな風に認知していたことに驚いた。私なんて普通の女子高校生の一人にすぎないのに……。

 どちらかと言うと、宮川さんの方が高嶺の花だ。

「カラオケとかって来たりするの?」

 谷沢くんに話かえられたのと同時に、カラオケが始まった。最近流行りの恋愛ソングを宮川さんが歌い始める。 

 高音の出し方が歌いなれている人だった。

「最近は全然。なんか懐かしいかも」

「へぇ、意外。……友達と?」

 友達、だったのかな。分からない。トモダチとカタカナで書く方がしっくりくるような関係だった。

「たぶん」

 谷沢くんは「たぶんってなに」とまた笑う。その笑顔を見ながら、私はこの人とは住んでいる世界が違うのかもしれないと思った。

 汚れのない綺麗な笑顔を見る度に息苦しくなる。

「あ、ピアス開けてるんだ」

 谷沢くんの耳たぶにキラリと光る何かが視界に入り、彼がピアスを開けていることに気付いた。シルバーの小さなピアス。

「これ? 小学生の時に開けたんだ」

 彼は耳たぶを触りながら教えてくれた。

「私も」

「え、けど、まつりちゃん、耳開いてないよな?」

 ちゃん付けで呼ばれたことに少しドキッとしてしまう。

「もう塞がっちゃったんだ」

 小学生の時の私は、ただこの世界が現実だということを知りたかった。……それと。

「「大人になれると思って」」

 私と谷沢くんの声が重なった。


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