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カエル味のあめ玉  作者: 大木戸いずみ
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 学校に行くのが億劫だ。

 加奈子と会う。連絡は無視されてるし……。

 あの時、喫茶店でカエル味の飴玉の話を「そんなの信じてるの?」って、笑ってしまったのが原因だ。けど、自分の都合のいい記憶を消せるなんて飴玉がこの世に存在するわけがない。それなら占いの方がまだ信憑性がある。

 門をくぐり、上履きに履き替え、教室に入る。いつもの日常なのに、何故か緊張した。私は加奈子の席へと視線を移す。

 ……あれ?

 いつもならもう既に席にいるはずなのに、加奈子の姿が見当たらなかった。

「加奈子、まだ来てない?」

 私は近くにいたクラスメイトに話しかけた。

「そう言えば、今日はまだ見てないかも~」

「そう、ありがとう」

 私は自分の席へとつく。

 加奈子が学校に来ないなんてあり得ない。この高校生活三年間で初めてのことだった。体調が悪くても、怪我をしても、必ず学校には来ていた。

 学校で彼女がいない日を送るのは初めてだ。

 もう、今日は来ない気がする。登校時間ギリギリで現れる、なんてことはあり得ない。この時間に来なければ、もう彼女は現れない。

 …………ねぇ、加奈子。貴女は私を忘れたい?




 やっぱり来なかった。

 全ての授業が終わり、加奈子のいない学校のつまらなさを実感した。

 生物の授業でキリンの睫毛の長さの理由を知った。首が長くて、太陽に近いから、目に入る太陽光を出来るだけ減らすために、睫毛が長いらしい。

 そんなことを知った瞬間、私は加奈子と「ギャルってキリンになりたかったんだ」なんて馬鹿な話をしていたに違いない。

 私たちもつけまつげ付けてみようよ、って加奈子は言う。

「ねぇ、まつりん」

 下校準備をして、教室を出ようとした時にクラスメイトに声を掛けられる。朝、私が声を掛けた女子生徒。

「ん?」

 まつりん、と呼ばれたことに対して驚きつつも、私は振り返って彼女の方を見る。

「これから皆でカラオケ行くんだけど、まつりんもどう?」

 まさかカラオケに誘われるなんて思わなかった。ほとんど会話したこともないのに……。

 私が不思議がっていると、彼女は言葉を付け加えた。

「いきなり誘われてびっくりするよね。けど、うちらまつりんと話してみたくて……」

 そう言って、彼女は友達の方へと視線を向ける。いつの間にか、他のクラスの子たちも教室にいて、男女六人グループが私の方を見ていた。

 これが俗に言う一軍グループ?

「いっつも加奈子と一緒にいるし、喋りかけるタイミング分からなくて。まつりん、可愛いし、うちらの間で、話してみたいってよく言ってたんだ。だから、一緒にどうかな~って」

 宮川恵美、このクラスで一番ムードメーカー。明るくて、積極的で、優等生ってわけではないけれど、しっかりしているイメージ。

 彼女のピンク色がベースのキラキラと光るネイルに目がいく。平気で校則違反しているけれど、先生も彼女に注意することはない。それぐらい先生受けがいいのだ。

「もし無理だったら断ってくれても大丈夫だから」

 数年前の私なら「お姉ちゃんに連絡しないと」って言っていたんだろうなと思いながら、「行こっか」と微笑んだ。

「いいの?」

 私の返答が意外だったのか、宮川さんは目を丸くする。

「え、まじ?」

「よっしゃ!」

「激アツじゃん~~」

 近くで宮川さんの友達の声が耳に入ってくる。

 私、どういう存在だと思われていたのだろう。加奈子としかほとんど絡んでこなかったから、他のクラスメイトといる感覚は新鮮だ。

「あいつなんて、高校三年間、まつりんのファンだったんだよ~」

 そう言って、宮川さんは楽しそうに身長の高い男子生徒を指差した。……高校二年生の時に同じクラスだった男の子。

 彼の印象はそれぐらいで、一度だけ一緒に図書委員をしたことがある。図書委員の雰囲気じゃないなぁ、って思った記憶がある。

「えっと、谷沢くんだっけ?」

「……俺の名前覚えてくれてたの?」

 むしろ、忘れる方が難しい。

 驚いた表情をした後に、「嬉し~」と顔を綻ばせた彼を少し可愛いと思ってしまった。なんて無邪気に笑うのだろう。


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