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『あのさ』
「なんだい、清一くん」
『沖原は記憶なくしたいって思ったことある?』
「最愛の人を消したいって?」
『そう』
「あるよ。けど、僕が忘れちゃだめなんだ」
『……忘れさせる方だった?』
清一はきっと勘付いているのだろう。僕がさゆりの記憶を消したということを……。
お互いに少しずつ探りながらも、決定的な質問をしない。この絶妙な距離感が、僕らの関係を保っているのかもしれない。
「だったのかも」
『俺も一緒。……後悔した?』
ここで「していない」と断言できれば良かった。それぐらいの覚悟をもって、彼女から僕の記憶を消したはずなのに……。
もう一度再会するとは思いもしなかった。
あの時は、お互いに一番苦しくて、一番愛していたから……、彼女に僕を忘れさせた。それで全てがおさまると思っていた。なかったことにするのが楽だった。
けど、実際はなかったことになど到底できない。僕が覚えている限り、それは現実だったのだ。
「僕も消せば良かったのかな、記憶」
『……沖原は飴玉をどこで手に入れたんだ?』
清一はもう僕がカエル味の飴玉の存在をずっと前から知っていたということに気付いている。
「とある場所にハガキを送ったら、家に箱が届いたんだ。……けど、そのとある場所がどこだったのか分からないし、どうやってその場所を知ったかもいまいち思い出せなくて」
『……俺も』
「なんの変哲もない日常のはずだったのに……」
『けど、楽しくね? 平凡な人生送るより、非凡の方が断然面白い。……だからさ、俺らで飴玉の呪いを解く方法を探してみねえ?』
清一なら絶対に言い出すと思った。
そして、僕はそれに「乗った」と反射的に答えた。




