第5話 冒険だー!
「はい、丁度十枚の薬草確認いたしました。これ以降は自分のランクに合った依頼を受けて頂いて結構ですよ」
受付嬢は淡々と依頼完了手続きを済ませていく。
もう少し称賛して欲しかったのは言うまでもない。
なんたって日が暮れるまで薬草を採っていたんだからな!
「ではこちらが報酬となります」
十銅貨を渡され俺は大事にポケットへと仕舞う。
なけなしの俺が稼いだお金だ。
この世界に来て始めた稼いだお金ともいえる。
日本の時でいえば初任給ってやつだ。
これほど嬉しいものはない。
「終わったかい?」
受付から離れレオン達の元へと戻ると俺はポケットからなけなしの銅貨を三枚取り出した。
「これ、手伝ってくれたから」
レオンに手渡そうとすると彼は首を振り受け取ろうとはしなかった。
「君が初めて稼いだお金だろう?それは自分の為に使うべきだよ」
「いや、手伝ってくれたからさ。アンタらからすればはした金かもしれないが手伝ってもらった以上は多少なりとも恩を返すのが俺の信念だ」
正直レオンからしてみれば一銅貨ずつ渡された所でカスみたいなお金でしかない。
でも俺は気持ちの問題だと思っている。
「うーん、それでも受け取れないよ。どのみちそれを貰った所で串焼きが一本買える程度さ。マルの真面目な部分が見れただけでも十分だ」
そう言ってレオンは頑なに受け取ろうとはしなかった。
じゃあ仕方ないと俺は横にいる二人に視線を向ける。
しかし二人共首を横に振った。
「アタシもいらない」
「私も必要ありませんよ」
やはりレオンと同じく受け取る事はしなかった。
まああまりにはした金すぎたか。
とはいえこれ以上渡せば俺が路頭に迷ってしまうしな。
「マル、代わりと言ってはなんだけど君の人柄を見込んで明日僕らの依頼に付いてこないかい?」
レオンからの提案に俺は首を傾げた。
ついて行けば当然足手まといになる事は必至。
何故俺を誘うのか疑問に思っているとレオンは続きを話す。
「実は変わった依頼を受けていてね……それが、特殊なダンジョンの中にある花を一輪取って来て欲しいという内容なんだ」
「花?そんなの簡単だろ?レオン達なら」
英雄級にまで登り詰めた冒険者がそんなお使いみたいな依頼を受けているというのも変な話だが、内容だってあまりに簡単すぎる。
「それが少し、いや、かなり変わったダンジョンなんだ」
「ふむふむ……でもなぁ、俺役に立たないヨワヨワだからなぁ」
俺が渋っているとレオンは用意していたのか言葉を詰まらせることなく即答する。
「もちろん手伝ってくれるなら相応の謝礼は出すよ」
「話を聞こうか!」
俺は即答した。
当然だ。
十銅貨じゃ飯を食ったらなくなったしまう程度しかなく、今夜の寝床をどうしようかと悩んでいたところだったのだから。
「本当かい!?」
「ああ、報酬も出るなら俺が断る理由はないな」
「それは助かるよ!じゃあ明日ギルド前に待ち合わせでいいかな?あとマルの泊まっている宿を教えて貰っておいてもいいかい?」
待ち合わせも何も俺には泊まるところすらないが?
泊まっている宿なんてないが?
「いや、その、何ていうか……金がないから俺ギルド前のベンチで寝ようと思ってたから」
「あ……」
やっと理解したのかレオンは申し訳なさそうに眉をへの字に曲げた。
俺も言うのが恥ずかしかったわ。
「じゃあ僕らの泊まっている宿に来ないかい?」
「いやいや、金がないって」
「それくらいは僕が出すよ。明日一緒にダンジョンに潜ってもらうんだし最高のコンディションで挑んで欲しいから」
レオン達の泊まっている宿って多分高級宿なんだろうな。
と思っていた俺の勘は当たっていた。
宿は五階建てで玄関口がかなり広い。
絨毯まで敷かれていて高級ホテルかと思える見た目だった。
レオンが受付で一人追加で支払いは自分の所につけてくれと言っているのが聞こえてきて、懐の大きさに俺は感激してしまった。
「マル、これ部屋の鍵だよ」
「あ、ああありがとう。……でもこんな宿に泊めてもらってもいいのか?結構高いだろ」
「構わないさ。この程度はした金さ」
少なくとも俺にとってははした金ではない。
さっきチラッと受付に置いてある料金表が見えてしまったが、金貨の文字だけは覚えているぞ。
……一泊百万円かな?
まあここはレオンの優しさに甘えておこう。
明日には依頼の手伝いが待っているしわざわざ俺に頼んでくるくらいなんだ。
多分雑用程度だろうが、頼まれた以上は全力でやる。
与えられた部屋に入るとあまりの広さに俺は呆然と立ち尽くした。
ベッドも三人は寝れそうな大きさに、風呂までついている。
ウェルカムドリンクとでも言うのか机の上には果実ドリンクや果物がいくつか置かれてあった。
食べていいのか?
タダなのか?
後で怒られたりしないよな。
恐る恐るドリンクを手に取り口に運ぶと、俺は一様満たされた。
もうあまりに美味すぎて。
意識が飛ぶかと思ったわ。
風呂に入りベッドにダイブするとふかふかすぎて身体が包みこまれているような感覚だった。
ああ、やっとこの世界にきてゆっくりと眠れる。
俺は気絶するように意識を手放した。
――――――
朝だ。
とても気持ちのいい朝だ。
こんな寝心地がいいなら俺はずっと寝ていたい。
まあそういう訳にもいかないから、起きるけど。
朝食を済ませロビーまで行くと既に三人は装備を整え待っていた。
俺が一番遅起きだったらしい。
でもミーシャは眠そうな顔をしてるな。
「ごめん、遅れた」
「構わないよ。十分休息は取れたかい?」
「バッチリだぜ」
こんだけいい宿に泊まらせて貰ったんだ。
今から行く依頼ってやつも張り切ってやってやる。
気合は十分だ。
「じゃあ行こうか」
三人と共に宿の外へと出ると、宿の前に五人乗りの豪華な馬車が停まっていた。
事前に予約していたようだ。
準備は万端ってやつか。
馬車に乗り込むと揺れを殆ど感じさせない事に驚いた。
俺は日本で車に乗った事があるから分かるが、殆ど自動車と変わらない揺れ。
馬車もなかなか捨てたもんじゃないらしい。
馬車に揺られる事およそ一時間。
これ以上先へは歩いていってくれと御者から言われ、俺達は馬車を降りる。
目の前には洞窟の入り口があった。
「さて、ここからは気合を入れていこうマル」
「言っておくけど俺はガチで弱いからな」
「分かっているさ。下級冒険者に無茶な真似はさせないよ」
レオンはニコッと笑いかけてくるが、俺の緊張はMAXだ。
何せ初めてのダンジョンってやつだからな。
隣にいるミーシャとアリシアは慣れているのか、スンとした表情をしている。
俺もそんなスンとしてぇよ。
洞窟の中に入ると、少し肌寒く感じる風が外へと吹き抜けてきた。
ちょっとだけゾクッとしてしまったが、ツヨツヨ冒険者に囲まれている俺は安全だと自分に言い聞かせ気合を入れる。
「この辺りはブラックバットが出てくるけど、マルは真ん中から動かないように」
レオンとミーシャ、アリシアに囲まれた俺は剣の柄に手を掛け辺りを見回す。
警戒はしているが多分何の役にも立たない。
気配なんて感じ取れる訳ないからな。
「来たよ」
ミーシャが呟くと全員が武器を構えた。
「前方二匹」
「分かった。勇猛なる一閃!」
レオンが剣を抜き放つと同時に技名を口にする。
俺の目には見えなかったが一瞬目の前が光ると、遠くの方で悲鳴が聞こえてくる。
魔物の断末魔だろうか。
「よし、これで安全だ。行こうか」
レオンは剣を仕舞いながら振り返るとニコッと微笑んでくる。
男じゃなかったら惚れてたぜ……。
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