第34話 絶対絶命!
「お?おお……おおぉぉぉお!?」
今俺は空を飛んでいた。
ヘレンには高いところに転移してくれと頼んだが、まさか雲の上に転移させられるなんて思ってもいなかった。
地上にいる魔物なんてゴマみたいなもんだ。
小さすぎてどれが目的の魔物かなんて判別できねぇよ。
まあ多分俺の落ちていく真下にいるんだろうけど。
そんな事より寒すぎる……。
上空は気温が低いのは知っていたが、そこを爆速で落ちていってるからな。
肌寒いなんて可愛いレベルじゃない。
寒すぎるわ。
「ヘレンのやつ!絶対許さねぇぇぇ!!」
俺の叫び声も当然ながらかき消えていく。
落ちていくスピードは加速的にあがっていき、恐らく今頃三百キロは出てるんじゃなかろうか。
新幹線だよもう。
この速度で地面に激突したら跡形も無くなりそうだ。
ああ、そう考えたら滅茶苦茶怖くなってきた。
チビりそう。
こうしている間にも俺の身体はみるみる地面へと落ちていく。
この勢いで魔物に頭を黒龍丸で貫いたとしても、俺の身体はミンチになりそうだ。
そうだ、両手両足を広げて減速すれば……。
と思った俺が馬鹿だったよ。
空気抵抗が増えるってことはバランスも崩れるわな。
今の俺は頭から真っ逆さまに落ちていた。
徐々に地面に蔓延る魔物が肉眼でも確認できる位置にまで落ちてきた。
どれだろうな……そのリーダー的な魔物は。
多分一際でっかい身体なんじゃないか?
一体だけ魔物の群れの一番後ろにいるな。
一つ目っぽい?
いや、遠すぎてまだ分からないな。
てかこの世界で一番高いところに転移した人間って俺じゃない?
そう思うとちょっと笑けてくる。
飛行機も乗ったことなかったしスカイダイビングだってやったことがない。
これがスカイダイビングってやつか……。
「二度とやるもんか!!」
誰に言うでもなく俺は叫んだ。
そんな叫び声も掻き消える。
いや、声を置き去りにしていた。
あと数十秒で地面と激突するよな、怖すぎてちょっとパンツ濡れたわ。
てか誰か気付いてくれないかな。
上空から人が降ってきてるんだから気づくだろ普通。
……って誰も空を眺めるわけないか。
ああ、目的の魔物がはっきりと確認できる所まで落ちてきたらしい。
とにかく黒龍丸をしっかり握って先端を下に向けよう。
もうこうなったら俺と共に死んでもらうぞ。
「うぉぉおおおおッ!!」
気合を入れる為に俺は一つ叫ぶ。
「死にやがれぇぇぇッ!」
「グァ?」
俺の声が聞こえたのか一つ目の魔物は空を見上げた。
気づいた時には遅いぜ。
こちとら弾丸並みの速度で落ちてるんだからな。
「速度超過ッ!」
あと数秒で黒龍丸の先端が魔物の頭を貫く、といったタイミングで聞き覚えの声が俺の耳に入ってくる。
この世界に来て一番最初に聞いた透き通った声。
一つ目の魔物は反応することもできず、俺の黒龍丸が頭蓋を砕いた。
それでも俺の落下は止まらない。
「ウォォアアアァッ!?」
「速度超過のその先へ!」
地面に激突するその瞬間、俺は目を瞑ったが耳元では聞き馴染みのある声が。
その後すぐに俺の身体は衝撃を感じ、勢いで目を開ける。
俺の目と鼻の先に鉄仮面があった。
いや、正しくは鉄仮面を被った人がいた。
「何を考えているんだマル」
その声は若干呆れを含んでいたが、心配してくれているような優しい声色だった。
「助かりましたディーナさん」
ちなみにこのやり取りはお姫様抱っこされている状態である。
めちゃくちゃダセェ……。
「私が駆けつけなければ死んでいたぞ……まったく」
「ほんとにその通りで……」
「それで?まだ理由を聞いていないが?」
「あのー……先に降ろしてもらっていいですかね?」
早くお姫様抱っこされているこの状況から逃れたい。
魔物に囲まれていて視線が集中してるんだよ。
「いや、だめだ。ここはまだ敵地だぞ」
「まあそれは理解してるんですけども」
そんなやり取りを続けていると魔物が一匹二匹……次々と引き返していく。
「魔物の群れが……」
「リーダーであった一つ目を倒したからだ。それを知っていてこんなところにいるんじゃないのか?」
イチから説明すると長くなるからディーナさんには所々はしょって説明する。
最後まで聞き終えるとディーナさんは一際大きなため息をついた。
「ハァ……上空に転移してそのまま自由落下、ときたか。とんでもないことをする」
「死ぬかと思いました」
「私が助けに来ると予想していたのか?」
「いやそんなことはないんですけどね。ただまあこの世界特有の魔力とかなんかそういった力が働いて、なんとかなるかなぁと」
「楽天家もいいところだ」
ディーナさんに抱えられたまま俺は、走り去っていく魔物の群れと反対方向へと進んでいく。
何かに追われているのかと思えるほど魔物達は必死に来た方向へと引き返していった。
「魔物は俺らに見向きもしませんね」
「統率できる魔物が死ねば何故かこうなる。恐らく頭の中に何らかの命令が下されていて、それがいきなり消えるのだろうというのが学術院の答えだった」
学術院……なんか俺とは無縁そうな単語だ。
多分頭のいい人たちの集まりだろうな。
「どこまでいってもファンタジーだなぁ」
「ファンタジー?なんだそれは」
「ああ、いや。こっちの話です」
「それはマルがいた世界の言葉か?」
「まあそうですね。意味は……えっと、幻想的な世界のことをファンタジーって言ったりします」
「ふむ。この世界はマルにとっての幻想か。魔法もない世界だったのだろう?一度くらいはそんな世界を見てみたいな」
突然、鉄仮面の女性が現れたら多分捕まるだろうな。
しかも剣まで持ってるし、銃刀法違反でお縄だ。
「む、見えてきたぞ」
「おっ。みんな無事かな」
「無事だろう。魔物の襲撃からそれほど時間も経っていない。マルのお陰でな」
「じゃあ俺も役に立てたっすかね!」
「私の手を煩わせたが」
ちょっとくらい褒めてくれてもいいのに。
「あのーそろそろ降ろしてもらえると……」
「ダメだ。お前は目を離すとすぐ危険なことをする。……やはり城で軟禁したほうがよいのか……?」
後半恐ろしい言葉が聞こえた気もするが、とりあえず聞かなかった事にしよう。
ディーナさんの口から軟禁だなんてワードが飛び出すわけが無いもんな。
透明感があって透き通っていて、心地よい響きの声をしているディーナさんが軟禁だなんてそんなそんな……。
「やはり、マルは鎖に繋いで……」
「ちょっとちょっと!聞き捨てならない言葉が聞こえてきてますが!?」
「む。気にするな。それより前を見ろ。マルの知り合いが走ってこっちに向かってきているぞ」
鎖に繋ぐとかよく分からんことを口にしたと思ったら露骨に話を逸らされた。
これは後で詳しく聞かねば。
とりあえずディーナさんに促されたため前方を見るとレオンが走り寄って来ているのが見えた。
レオンに今の姿を見られるのは超絶恥ずかしいんだけど。
「ディーナさん?そろそろ降ろして頂いても」
「危険なことをした罰だ」
ええ〜?確かに危ない橋は渡ったけどそれとこれは別じゃない?
というか大人を一人抱えて相当な距離歩いてるけど、ディーナさんって体力オバケじゃね?
「ちょっと鎧が当たって痛かったり……」
「我慢しろ。ただでさえ弱いのにあんな危険な真似をした馬鹿な自分を悔いろ」
なかなか辛辣なお言葉。
まあ確かに考えなしにやったこととはいえ、一応役に立てるかなっていう安易な考えはあったんだけどな。
「罰なら歩かせたほうがいいんじゃないですか?」
「羞恥も立派な罰だ。受け入れろ」
どう足掻いても降ろしてくれなさそうなので、俺は黙ってお姫様抱っこのままレオン達と合流した。
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