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弱そうに見えて本当に弱い俺が魔王を倒すまで  作者: プリン伯爵『虹色魔導師は目立ちたく無い』発売中!


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第33話 現状を打開せよ!

「それは本当なのか?」

「はい……私の魔法全てを識る者(ワイズマン)は知りたい情報を確実に知ることのできる魔法です」

とんでもない魔法だな。

それこそ本物の賢者ってやつじゃないか?


「ただ……欠点は魔力の殆どを使用してしまうことです。なので私はパーティーメンバーと共に行動せずここで弓を射っていました」

確かに彼女は冒険者ギルドで見た時"銀の月"と共にいた。


いや、そんなことはどうでもいい。

4080体は流石にやばくないか?

パスィーユの人口がどれほどか知らないが、一万人もいないと思う。

レオン達が戦っているけど、何千もの魔物を倒し切れるかどうか怪しいところだ。


「くそ……俺にも力があればな」

こんな時もどかしい気持ちになる。

ゴブリンに苦戦する俺が出て行ったところで、クソの役にも立たないだろう。

そればかりかレオン達の足を引っ張ることになる。


「一つだけ……ありますよ」

「なんだって?頼む!教えてくれ!」

隣から聞こえてくる小さな声に俺はいち早く反応した。


「ありますが……リスクが高いのであまりオススメできません」

「今は街がどうなるかの瀬戸際だろ?リスクなんて百も承知だ!教えてくれ!」

「……分かりました。スタンピードが起きる時、必ず群を率いる主がいます。その主さえ倒せば殆どの魔物は元いた場所に戻っていくはずです」

主、か。

大体こういう時のボスってのは後方に控えてるものだ。

てなると辿り着くことすら難しそうだな……。


「ちなみに場所は分かるか?」

「おおよその位置であれば。一際大きな魔力を持つ魔物が一体だけ奥の方にいます」

「てことはソイツを倒せばなんとかなるってことだよな?」

「はい。ですが不可能ですよ。これだけ沢山の魔物が押し寄せて来ているのに辿り着くだけでも一苦労です」

「まあその辺りはちょっと考えるよ」


俺には一つだけアテがあった。

どれだけ遠くても、辿り着くことが難しい状況でも何とかできるアテがな。


「いい情報だよ、ありがとう。っと名前を聞いてなかったっけ?俺は夜葉杉丸、マルって呼んでくれたらいい」

「……私はリザリスです。マルさん、本当にアテがあるんですか?教えた私が言うのもおかしな話ですが、止めておいた方が……」

「あーまあその辺りは何とかする。ほら、俺も一冒険者だしさ。見ているだけってのも性に合わないんだよ」

「ですがマルさんは……」

リザリスは口を噤む。

その続きは言いにくいだろうけど、本当なんだよな。


「ああ、弱いよ。ゴブリン相手に苦戦するしスライムにすら勝てなかった男だ。でも俺だけ安全圏で見ているだけなのは……恥ずかしいだろ?」

「恥ずかしくても命あってのものです。危険すぎますよ」

「大丈夫だって。俺にはコレだってあるんだから」

そう言って俺は黒龍丸を見せつけた。

リザリスは黒龍丸を見てなんとも言えない表情を作る。

いや、言わずとも分かるけど。


どう見てもモップだからな。

ただ黒いだけのモップ。


でも頑丈さは一級品だ。

何しろサラスティさんが特注で依頼した武器だから。


「よし!ここでウダウダしてる時間も勿体ねぇ。行ってくる!」

「……ご武運を」


リザリスみたいな可愛い子に応援されたら頑張れる。

男って単純だよな。




俺は防壁から降りると全速力で駆けた。

向かうはカレンさんの自宅だ。

そこにはヘレンが留守番している。

というより匿って貰っているというのが正しいか。


今頼れるのはヘレンしかいない。


転移魔法が使えるのはヘレンだけ。

馬鹿正直に正面突破なんてできるわけがないし。




しかし悲しいかな、俺の体力はミジンコレベルだ。

カレンの自宅に到着するまで十五分間走り続けた。


息も絶え絶えに玄関をノックする。


反応はない。


まあこれは予想通りだ。

恐らくカレンさんから誰か来ても開けるなと言われていたんだろう。


「ヘレン!俺だ!マルだぞ!」

息を整えて声を張り上げると家の中から小さな物音が聞こえた。


しばらく待つと玄関の扉越しに小さい声が聞こえてくる。


「……マル?」

「ああ、俺だ。助けて欲しい」

ソッと扉が開かれると俺は素早く中へと入り込む。


ヘレンはフードを深く被り出会った時と変わらぬ格好だった。


「あれ?また前のローブを着てるのか?」

「……うん」

カレンに色々買ってもらってたはずなのに、やっぱり着慣れた服の方が良いんだろうか。

まあ一応洗濯はしてくれたのか小綺麗なローブになっているけど。


「いや!そんなのどうでもいい!ヘレン!助けてくれないか!」

「……いいよ」

「いやまだ何も聞いてないだろ……ヘレン、転移魔法を使えるだろ?その力で俺を助けて欲しいんだ」

「……どこに飛ぶの?」

「今スタンピードが起きているのは知ってるだろ?その中に一際大きな魔力を持つ魔物がいるらしい。ソイツの頭上に飛ばして欲しい」

ヘレンは目を瞑り少し考える素振りを見せた後頷いた。


「うん、いる。そこに飛びたいの?」

「ああ、できれば滅茶苦茶高い位置に転移できたらありがたい」

「高い位置?」

「そう。俺って力もないからさ、真正面に飛ばされても多分まともに戦えない。だから重力を使うんだよ」

科学が進歩していないこの世界では重力がどうのと話しても理解されないだろう。

案の定ヘレンも首を傾げ不思議そうな顔をしていた。


「高いところから落ちたら死ぬよ?」

「ああ、そのへんは上手くやる。頼む」

「……分かった」

ヘレンが渋々ながらも俺に手を翳した。


途端に足元が光を放ち瞬きしたときには、もう目の前にヘレンの姿がなかった。



――――――

マルがヘレンの所へ急いでいた頃、リザリスは若干後悔の念に駆られていた。

"最弱の冒険者"

彼が巷でそう呼ばれているのは知っている。


だが既に彼は走り去ってしまった。

どこへ行くかも聞いていない。

しかし彼は何やら企みがあるような、そんな目をしていた。


「マル!おい、どこに行った!」

ふとリザリスの耳に入ってきたマルの名前。

彼の名前を叫んでいたのはパスィーユ騎士団団長であるサラスティ・ブルディウムだった。


ここで黙っていても良かったがリザリスは小さく手を挙げる。


「む、君は確か……銀の月のメンバーだったか。マルを知っているのか?」

「はい。彼はあっちに走って行きました」

「なんだと……?」

マルが走り去った方向は街のはずれ。

そんな所に何があるのか、リザリスには分からなかった。


「なぜそっちに走って行ったのだ?万が一防壁が破られた時を考えて私がそばにいるつもりだったのだが」

答えづらい質問だ。

サラスティは鬼のような苛烈な訓練を強いると聞く。

特に一人の冒険者を気に入り幾度も訓練に誘っているというのは有名な話だ。

その冒険者というのがマルだというのも周知の事実。

だからこそ余計に声をあげたくはなかった。


リザリスのやったことはマルを死地に送るための情報を提供したことなのだ。


「その……私がスタンピードを止める方法をお教えしてしまい……」

「なに?一際魔力が高い魔物の話か?」

「はい。それを聞いたマルさんがいきなり駆け出して何処かへと行ってしまいました。申し訳ございません……」

「なぜ止めなかった!アイツは実力こそ見合っていないが正義感だけは一丁前なのだ。恐らくその魔物の所へ行くつもりだぞ……クソッ!すぐに追いかけねば」

「待ってください!マルさんの走って行ったのは魔物が来ている方向とは別です。何か意図があるようでしたが……」

「確かに……その話が本当ならなぜマルは後ろへと走って行ったのだ?」

サラスティも考えたがやはりマルの考えが読めなかった。


「分からん……マルめ、何か隠しているな。これは後で問い詰めなければ」


問い詰めも何も、マルが生きて帰って来れるかどうか分からずリザリスは俯き、彼の無事を祈るしかなかった。

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