第31話 警鐘が鳴ったぞ!
一旦落ち着き俺はボロボロの椅子に腰掛ける。
カレンは昨日の時点でヘレンの正体に気づいていたらしい。
魔族とバレれば殺されるのではないかと危惧していたが、案外そうでもないようだ。
「バカねぇ。魔族は確かに憎い相手かもしれないけれどこんな小さな子まで手にかけるわけがないでしょう?」
「いや……それは、まあそうなんだけど。でももしかしたら殺されるかもしれないと思って焦りましたよ」
「イヤねぇ……アタシがそんな怖い人に見えたのかしら?」
見えるだろ誰が見ても。
ムキムキの上腕二頭筋でチョークスリーパーからのバックブリーカーかけてくるかもしれない見た目だよ。
とは流石に本人に向かって言う勇気はない。
「ハァ……心配したぞヘレン」
「人間の街案内してもらった」
「そうか、楽しかったのか?」
「うん」
ヘレンも満足気な顔をしていた。
まあ無駄に疲れたけど結果無事だったしいいか……。
「で、話してくれるんでしょう?どうして魔族の子供が貴方と一緒にいたのかしら?」
俺はヘレンと下水道で出会ったことを話した。
カレンさんは興味深そうに頷いて聞く。
匿おうとしていたのは魔族が人間と対立しているからと伝えるとカレンさんに鼻で笑われた。
「もっと早く教えなさいよ。アタシがヘレンちゃんの正体に気づいたから他の人に見られないよう観光してこの人目につかない場所まで来たのよ?感謝して欲しいわ」
「いやほんとに助かりました。ちなみにレオンには?」
「レオンは気づいていなかったわ。鈍感ねほんと!」
気づいていたのはカレンさんだけだそうだ。
冒険者ギルドにいた連中もヘレンはただの孤児だと思っていたようで、俺が心配するようなことにはなっていない。
「本当は新しいお洋服で街を観光させてあげたかったけれど、流石にアタシ以外に見つかると不味いかもしれないわ」
「カレンさんはヘレンが子供だから黙認していただけですか?」
「いいえ、アタシにも昔魔族の知り合いがいたのよ。普通の人なら子供であろうと手にかけていたかもしれないわ」
知り合いに魔族、か。
魔族に対して悪感情を持っていなかったのは助かった。
もしもカレンさんと戦うことになっていたらと思うと背筋が凍る。
ワンパンで沈む自信があるぞ。
「カレン……良い人間」
ヘレンも満足気にポソッと呟く。
まあ俺もカレンさんが悪い人とは思っていないけど、怒ったら怖そうだなとは思う。
「それで?ヘレンちゃんをどうするの?」
「また元の場所に連れていきますよ」
「地下道に?あんな不衛生でばっちいところダメよ」
そのばっちいところにほぼ一日潜ってる俺はどうなんだ。
「アタシの家にこない?ヘレンちゃんなら歓迎よ?」
「いや流石にそこまで迷惑はかけられませんよ。そもそも俺が見つけたんですし、なんとか住む所は探します」
「無理よぉ貴方じゃ。だってまともに稼げないでしょう?」
俺は口を噤んだ。
カレンさんの言う通り俺は殆ど稼げない。
というより俺ができる仕事なんて限られているし、下水道掃除程度じゃ住むところを用意するなんて厳しすぎる。
「アタシなら十分この子を養えるわよ」
「まあそうでしょうけど……おんぶに抱っこってのがどうにも申し訳なくて」
「気にしなくていいわよ。貴方は下級冒険者、アタシは白金級よ?後輩の面倒を見るのは間違っているかしら?」
カレンさん……見た目はちょっとアレだけどめちゃくちゃ人がいいな。
俺が女だったら惚れてたよ。
「分かりました、ヘレンはそれでいいか?」
「……地下から出られるならなんでもいい」
「そうか。悪いな、俺がもっと力を持ってたら話は違ったんだけど」
「別にいい。私を見つけてくれたから」
結局カレンさんの家に転がり込む形でヘレンを引き取ってもらった。
帰路についた俺は日課の筋トレをこなす。
毎日腕立てしてスクワットして黒龍丸を振ってるけど、全然成長がみられない。
まだまだゴブリンに苦戦する程度の力しか無い。
ふと窓の外を見ると月明かりが街を照らしている。
よく考えてみれば月明かりってのもおかしいよな。
だってここ地球じゃないんだから。
そもそも俺がこの世界に呼ばれた理由が未だ分かっていない。
何か意味があるんだろうけど、まさか本当に占い師の言葉通り魔王を倒すことが俺の使命だというんだろうか。
いやいや、そんなバカなことがあるもんか。
俺なんて何の取り柄もない大学生だ。
このまま冒険者として名を馳せる、なんて無理だろうし魔王とやらを倒す手段を模索した方がいいかもしれない。
そろそろ眠りにつきかけた時、突然大きな鐘の音が響き渡った。
空襲の時のサイレンのような、街全体に聞こえるほどの音量だ。
何かが起きたのは俺でも分かる。
すぐに着替えを済まし外に出ると、俺と同じように家から飛び出してきた人達が沢山目に入った。
「あのすみません。この音ってなんですか?」
俺は近くにいたおばちゃんに尋ねた。
俺はこの街にきて数ヶ月。
パスィーユの住民であれば恐らく知っているはずだ。
「あんた、知らないのかい?ああもしかして外から来た人かい?」
「そうなんですよ。こんな音初めて聞いたので……」
「これは警鐘さ。この街に危険が迫っているってこと。さっさと避難するよ!」
「えっ?危険が迫ってるって魔物ですか?」
「知らないよ。魔物なのか他国からの侵攻か……どちらにせよアタシ達ができることは冒険者や騎士団の邪魔にならないよう避難することだけさ!」
避難するべきか俺も戦うべきか。
いや、悩んでる暇はない。
咄嗟に飛び出したが黒龍丸は背中に背負ってきてる。
戦おうと思えば戦える状態だ。
「ちょっと!あんた!そっちは逃げる方向じゃないよ!」
「おばちゃんは逃げてくれ!俺はこれでも冒険者なんだ!」
「そうかい!死ぬんじゃないよ!」
俺は駆け出し背負った黒龍丸を手でポンポンと叩くとおばちゃんと冒険者だと理解したのか激励の声をかけてくれる。
とりあえず防壁の方へ向かえばいいか。
最弱と名高い俺だってやれることはあるはずだ。
防壁へと向かう道中、避難住民と何人もすれ違った。
彼らは戦うことができない守られるべき存在だ。
俺も今までだったら即逃げていたかもしれない。
でもこの世界に来て俺のやるべきことは定まった。
魔王の討伐。
占い師が言う魔王を倒す者――それが誰なのかはわからないが、もしそれが俺だった場合他の者では魔王は倒せないということになるんじゃないかと思う。
ゲームとかでもよくある話だ。
魔王を倒せる者は限られた存在だけ。
それがたまたま俺だったんじゃないか。
そう思うと居ても立っても居られなくなった。
誰かが犠牲になるくらいなら俺が代わりになってやる。
なんと取り柄もない俺を快く受け入れてくれたこの街の人達には感謝しかない。
「おい!お前!早く逃げろ!」
俺の姿を見つけた騎士が声を大にする。
それでも俺の足は止まらない。
防壁の近くまで行くと色んな冒険者や騎士たちが勢揃いしていた。
ある者は斧を、またある者は弓を。
騎士団は剣を、魔女の被っているようなとんがり帽子は魔法杖を。
そして俺は黒龍丸を。
「マル!?どうして来たんだい!?」
「レオン、俺も手を貸すぞ」
レオンは俺を見て目を丸くする。
まさか俺がこの場に来るなんて思ってもいなかったのだろう。
「マルさん、ここは危険です。早く避難を」
「おいおい、アリシアさんまで。俺だって冒険者ですよ?覚悟はとっくにできてますって」
アリシアさんにまで心配される。
おっとりとした雰囲気の金髪美女に心配されるほど男は廃れていない。
「ヨワマル、悪いことは言わないから逃げなさいよ」
「ミーシャ、俺はとっくに覚悟ができてるぞ。魔物の一匹や二匹、逃げはしねぇ!」
ミーシャは呆れた様子で俺に逃げるよう促してくる。
だがここまで来た以上、逃げるつもりは一切ない。
「分かってるのかい?今回ばかりは僕もマルを守れる自信がないよ」
「随分と弱腰だなレオン。英雄級がそんなんじゃ士気は上がんねぇぞ」
レオンほどの実力者なら魔物が数百匹いても負けることはない。
俺にとっての心の支えはレオンだ。
コイツがいればなんとかなる、そんな謎の安心感があった。
「マル……今回は守れる余裕がない。聞いてないのかい?」
「何が?」
「押し寄せてきた魔物の数はおよそ三千。スタンピードが起きたんだよ」
俺はレオンの言葉に固まった。
……何だよ三千って。桁がちげぇよ……。
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