第29話 胡散臭いやつだ!
宿の前まで走ると既にサラスティさんが腕を組んで待っていた。
顔はちょっと険しい。怒ってるのかな。
「お待たせしました!」
俺はサラスティさんの目の前まで走り込むとその勢いで土下座を敢行した。
待たせてしまった申し訳なさと普通に怖い顔してたから土下座が最適解だ。
「む、やっと来たか」
「す、すみません……色々あって遅れました」
「私を待たせるとはなかなかいい度胸をしている。まあよかろう、行くぞ」
許されたぜ。やっぱ土下座こそ最強だわ。
サラスティさんに連れて行かれた店はちょっと小洒落た居酒屋のような店だった。
料金表を見る限り俺が一人で来ることはないであろう価格帯。
流石は騎士団長をやってるだけはある。
それなりに懐が温かいようだ。
「今日は私が奢ろう。さぁ、好きなのを選べ」
「そうですね……じゃあ、これとこれとこれとこれ」
「思ったより食べるな。まあいい、店員!」
好きなのを選べなんて言われたらそりゃあバンバン食いますわ。
だって人の金で食べる飯がこの世で一番美味いから。
料理が運ばれてくると俺の腹が鳴った。
今日もバタバタしてたからそりゃあ腹も減る。
しかもめっちゃ美味しい。
俺がガツガツ食べまくっていると、サラスティさんも自分の料理が運ばれてきて食べ始める。
意外、と言っちゃ失礼だがサラスティさんの食べ方は凄く綺麗だった。
なんというか料理のマナーってやつかな。
一つ一つの動作が洗練されている。
「なんだ、ジッと見つめて」
「あ、いや。食べ方が綺麗だなと思いまして」
「それは当然だ。私が子爵なのを忘れたか?」
言われて思い出した。
騎士団長のイメージが強いから貴族だったの忘れてたわ。
そりゃあ食事のマナーもしっかりしてるよな。
「その顔は忘れていたな?……まあよいが」
「すみません。あ、そうだ。どうして今日食事に行こうなんて言い出したんですか?」
そう、俺は今回の急な食事の誘いは何か意図があったのではないかと考えた。
サラスティさんは割と強引なところはあるが、今回は違うような気がする。
思い切りで誘ったわけではないような、そんな気がしていた。
「ふむ……そうだな。本題に入ろう」
サラスティさんの表情が真剣なものへと変わる。
ちょっと緊張してきた。
吐きそうだ。
「我がクリステル王国には占い師という職の者がいる。それは知っているか?」
「いえ初めて聞きました」
「占い師というのは未来予知の魔法を使える特別な者のことを言う。こないだ私が王都に行った際占い師から言われたのだ」
何を言われたんだ?
やべぇ、聞くのが怖いんだけど。
神妙な顔つき辞めてほしいなぁ。
「魔王……と呼ばれる存在は知っているな?」
「いやまあ……それは知ってますけど」
アニメとか漫画の中ではな。
こっちの世界に来てからたまに聞くが随分昔に倒されたとかって話じゃないのかな。
「魔王を倒す者……黒い棒にて心臓を突く」
「な、なんですかそれ?」
「占い師に言われた言葉そのまま伝えた。意味が分かるか?」
「なんとなく。黒い武器で倒すってことですよね?」
「そうだ。そしてお前の武器は何だ」
「黒龍丸です」
「そういうことだ」
いやぜんっぜん分からねぇよ!
なんだよそういうことだって。
まさかとは思うが俺が黒龍丸で魔王を倒すってか?
そんな馬鹿な話があるものか。
と思っていると、サラスティさんは真剣な表情で俺の目をジッと見つめてくる。
「え……?本気で言ってるんですか?」
「うむ。剣なら刃と言うだろうし、魔法なら特異な力、などと揶揄するだろう。しかし今回は黒い棒と言ったのだ」
「でもそれって槍の可能性だってありますよね?」
「まあその可能性もなくはないが……私はお前なのではないかと思っている」
サラスティさんの勘か。
でも騎士団長にまで上り詰めた人だしな。
勘も鋭いかもしれない。
「でも流石に……飛躍しすぎじゃないですかね?だって俺ですよ?ゴブリンがやっと倒せる程度の」
「うむ……そうなのだ。魔王はそこらの魔物と比較にならんからな。私も勝てるかと言われれば唸らざるを得ない」
「占い師も外すことあるんじゃないですか?」
「今まで一度もない。彼らが言うには神託というものだそうだ。だから当たる外すという概念ではなく、神からのお告げらしい」
うさんくせぇなぁ。
神なんているのかほんとに。
いや待てよ。
俺がこの世界に転移したのも神のいたずら……。
そう考えれば一概に俺なわけがない、とは言い切れない。
「いやでもなぁ……俺が魔王を倒すなんてあり得ないでしょ」
「ううむ……確かに。マルの弱さは私がよく知っている。魔王に触れるどころか近づくことすらできないだろう」
めっちゃディスってきた。
それはそうだけどはっきり言われると傷つくんだけど。
「それでその話をどうして俺に?」
「マル、お前のことが分からん。どこで生まれてこの街に来るまで何をしていたのか、教えてくれないか?」
ははぁ、なるほど。
占い師の言葉を疑うわけではないが、確証が持てないために俺の素性を知りたいってわけか。
教えてもいいけど多分理解されないよなぁ。
どうしたものか……。
「言いにくい話か?」
「いや、そういうわけじゃないんですけどね」
理解してもらえるかどうかなんだよ。
俺が悩んでいたせいでサラスティさんが不安そうな顔になる。
「えーっと、信じてもらえるか分からないんですが――」
俺はこの世界に来る前の話から始めた。
最初は疑心暗鬼な表情だったサラスティさんは徐々に真剣な表情へと変わっていく。
「――というわけでして、端的に言うと俺はこの世界の人間ではありません」
「ふむ……なるほど。その話が本当なら更に信憑性が高くなる」
「というと?」
「占い師の言葉には続きがある。魔王を倒す者……黒い棒にて心臓を突く。その者異界から来たる。だ」
めちゃくちゃ俺じゃねぇか。
……いやまだ決めつけるのは早い。
もしかしたらどこかの国で勇者が召喚されたとか有り得る。
「他の国で異世界から召喚した、みたいな話はないんですか?」
「少なくとも私は知らんな。もしかしたらいるのかもしれんが、そうそう異世界から人が来ることなどないだろう」
それはそう。
俺だってこの世界に喚ばれた意味が分かってないし。
「別の世界から来て、黒い棒の武器を持っていて……マル、お前じゃないか」
「いやいやいや。よく考えてくださいよ。俺の弱さを」
「……そうなのだ。そこが引っ掛かる。なにか特別な力を隠しているとか、ないか?」
あったら使ってるわ。
なんにも貰えなかったよ、この世界に来る時に。
そこんところどうなんですかね神様とやら。
「うーむ。しかしな……私は確実にマルのことだと思う。そこまで弱い人間もそうそうおらん。何か力が隠されているかもしれんぞ」
「だったら良いんですけど。悲しいことになーんにもないんですよ」
唯一の特技といえば、人を見る目、だろうか。
でもこんなの特別な力というにはショボすぎる。
「まあとにかく心のうちに留めておけ。最近は魔族が現れるし、物騒になってきている」
「そうですね。一応毎日素振りはしてますけどね」
一向に強くなれない俺は逆に才能があるのではなかろうか。
食事も終え、俺は帰路につく。
占い師の言葉通り俺がその魔王討伐者なら、せめて何かしらの力が欲しかった。
こんなヨワヨワじゃあ魔王どころか魔族一匹倒せない。
それどころかゴブリンに苦戦する始末。
まあ、念の為鍛えておくとするか。
成り行きで魔王討伐作戦とか参加させられそうだし。
レオンがいれば何とかなりそうだけど。
そうだ、良いことを考えついた。
レオンのそばを離れなければ良いんだ。
そうすれば万が一があってもレオンがなんとかしてくれる。多分。
俺はそのまま眠りについた。
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