第23話 魔族と英雄②
「ふぅ……助かりましたサラスティさん」
「私程度のお力添え、必要はなかったでしょう」
レオンが剣を鞘に仕舞いながらサラスティへと視線を向ける。
レオンの放った技は己の持てる技の中でも最高峰のものだった。
爵位級であっても防げる魔族は数少ない。
そこに加えてサラスティの渾身の一撃が入れば、男爵級魔族はひとたまりもない。
「"銀の月"のみんなもありがとう。結界のお陰で十分魔力を練ることができたよ」
「爵位級の魔法を防ぐのは流石に疲れるわね」
スノウ達も正直レオン一人いれば何の問題もなかったのではないかと思っていた。
レオンの最後に放った技は次元が違ったのだ。
それこそ英雄に相応しいほどに。
「これで魔族討伐は完了したか……では村の方に戻りましょうレオン殿」
「ええ、そうですね。村の亡くなった方々を弔わないといけませんし」
八人の精鋭は来た道を戻り村に残してきた者達と合流し、村の後始末を手伝う事にした。
「……ふぅ。これで全部かな」
「ああ……ありがとうございます。これで家族も静かに眠れます」
レオンが最後の墓を建て終わると生き残った村人は泣きながら感謝を口にする。
全部で五十人ほどいた村人も今では数人しか残っていない。
これからが大変だろうがレオン達にはこれ以上手助けできる事はない。
「領主様に報告は上げておく。それまで頑張って生きてくれ」
「はい……はい、ありがとうございます騎士様」
サラスティも渋い表情で村人と握手を交わし、踵を返した。
彼女も何か助けになりたかったが、真っ先に領主へと報告する事こそ彼ら村人にとっての手助けになる。
そう思いサラスティはレオン達と目配せし、討伐隊は村を後にした。
「それにしても男爵級魔族が現れるなんて、ここ十年はなかったのに」
「そうですね。最後に魔族の目撃情報があったのは十二年前でしょうか」
ミーシャとアリシアは帰りの道中、爵位を持つ魔族が現れた事に不審感を抱いていた。
魔族自体殆ど人の世に姿を見せることなどなく、存在だけは知っている程度のものだった。
アリシアは神官でもあるため、ある程度の知識はあるが実際に見たのは今回が初だ。
「レオンが強すぎて霞んでたけど男爵級魔族ってかなり強いんじゃないの?」
「んーどうだろう?僕はそれほど脅威に感じなかったけど」
レオンは英雄級の冒険者であり、他の冒険者に比べて力量差がある。
本来爵位級魔族と対等に戦うには最低限白銀級の実力がなければならない。
しかしその二つ上のランクである英雄級のレオンからしてみれば男爵級程度相手ではない。
伯爵級魔族が出てこれば流石に全力で戦う必要があるが、爵位は上にいけばいくほど魔族の数は減る。
そもそも爵位が高い者が人間の国に訪れるなどまずありえない。
自身の領地から出てくることすら稀なのだ。
「男爵級魔族は強い。ミーシャ殿の言葉は間違っていないぞ」
「あ、やっぱりそうですよね!ほらーレオンが強すぎて参考にならないって!」
サラスティもまさか男爵級魔族が出てくるとは思っていなかった為、多少の驚きはあったのだ。
ただ、そこまで危惧していなかった。
自身の強さがあれば男爵級魔族であろうと対等以上に戦えると自信があったからだ。
「……サラスティさん、もう少し急ぐことはできますか?」
「む?それはどういった理由でしょうかレオン殿」
「いえ、何となく嫌な予感がするので……これといった理由はないのですが」
レオンほどの実力者が言う勘というものは無視できない。
サラスティも他の者が今の言葉を口にした所で相手にしなかっただろうが、英雄級であるレオンが言うのだ。
英雄級というのはただ努力しただけでは辿り着けない境地であり、第六感が備わっていると言う者までいる程だった。
サラスティは少し悩んだ後、口を開いた。
「いいでしょう。討伐隊の足を早めましょう。誰でもない貴方が言うのです、恐らく街になんらかの危険が迫っているかもしれません」
「ありがとうございますサラスティさん」
実際この時点で既に街には魔物が入り込みマルが大立ち回りをしていたのだが、討伐隊が帰還するまで少なくとも一日半は掛かってしまう。
街が近付いてくると、遠くからでも分かるほど異様な光景が広がっていた。
「これは……やはり何かあったみたいですね」
「むむ……地面には無数の足跡。これはゴブリン、こっちはオーク……ふむ、全隊に告げる!最速で街まで帰還せよ!」
サラスティも異常な光景に険しい表情で指示を飛ばした。
街に向かう用に無数の足跡が地面についていたのだ。
その数は数十ではなく百を超えている。
魔物の群れが来たのだと理解するのにそう時間は掛からなかった。
馬車が全速力で駆け、街へ入るとそこは出発した時とは様変わりした建物が視界に入った。
一部が崩れた建物や完全に崩壊し瓦礫と化した建物。
それに至るところに落ちている破損した武器や鎧が物語っている。
「私は先に領主様の下へ向かいます!レオン殿は冒険者ギルドに!」
「分かりました!」
サラスティは馬車を飛び降りると足に強化魔法を掛けて一歩踏み出す。
領主の屋敷の前は街の入口ほど悲惨な事にはなっていなかった。
屋敷に繋がる門こそ傷だらけだったが、それでも敷地内は綺麗なままだ。
サラスティは門前を掃除している騎士へと声を掛けた。
「おい、何があった!」
「え?こ、これは団長!!」
騎士は掃除道具を放り出して敬礼する。
まさかこんなに早く帰ってくるとは思っていなかった末端の騎士は緊張した面持ちで続きを話した。
「数日前魔物の群れがこの街を襲いました。何とか全て撃退しましたが現在は復興中でございます」
「魔物の群れだと……被害者の数は」
「私は末端の騎士ですので……把握できておらず申し訳ございません」
「そうか、分かった。掃除を続けてくれ」
サラスティは領主の屋敷の呼び鈴を鳴らす。
中から執事が出てきてサラスティの姿を視認すると、少し目を見開いたがいたって冷静に屋敷の中へと案内した。
「こちらでお待ちください」
「うむ」
案内された部屋で待つこと数分。
パスィーユ伯爵が部屋へとやってくるとサラスティはソファから即座に立ち上がった。
「楽にしてくれたまえ」
「ハッ」
楽な姿勢、といっても背筋を伸ばした状態ではあるがパスィーユ伯爵がソファに腰掛け対面に座るよう促す。
サラスティは一礼して対面に座ると伯爵が重々しく口を開いた。
「見ての通りだ。君達騎士団の主力が魔族討伐に出ていってすぐ魔物の群れがこの街を襲った」
「やはり……どの程度の被害でしょうか」
「ロナルド副団長がこの屋敷を中心に守ってくれたからこの辺りは問題ないが、冒険者ギルドの方は悲惨な状況だと聞いている」
冒険者もそれなりに残ってはいたが、一番上のランクでも上級だった。
ハイオーク辺りまでなら対応可能だが、一対一であればの話だ。
今回のように群れで襲ってこれば上級冒険者も太刀打ちできない。
「まさか我々が不在を狙うなど……」
「明らかに作為的なものを感じる。そうは思わないかサラスティ団長」
サラスティも険しい表情で頷く。
不運だったとは言い難いほどに今回の襲撃はタイミングが合わせられていた。
二人が思うのは全く同じ感情。
「この街に魔族に与する者がいる、という事ですね?」
「理解が早くて助かる。それが冒険者なのか騎士団の中にいるのか、はたまた住人の一人なのかは分からんがな」
「調査が必要でしょう。我々が討伐した魔族も男爵級、滅多に姿を見せない爵位級の魔族だったのも恐らく何か意味があったのかもしれません」
「なんと……爵位級魔族だったのか?……すぐに王都へ報告した方が良さそうだな。いくらこのパスィーユが優秀な者ばかりといえども限界がある。"夜明けの青雷"がいてくれるとはいえ、な」
レオンが英雄に相応しい力を持っていたとしても街一つ守るのはいくらなんでも無理があった。
数百の魔物がきてもレオンならば撃退できるだろう。
しかし、四方から街を襲われればレオン一人で対応はできないのだ。
「まさか……魔王の復活が近いのかもしれんな」
「魔王ですか!?……いえ、確かに此度の件は明らかに作為的なもの。これほど大々的に魔族が動いたのもそれであれば説明がつきます」
「うむ……サラスティ団長は今後できる限り街に滞在していてくれ。討伐依頼に関しては冒険者ギルドに一任する」
「ええ、それがいいでしょう」
二人の話し合いは夜遅くまで続いた。
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