表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第16話 誰かを守るって素晴らしい!

レオン達との邂逅から五日が過ぎた。

俺はいつも通り下水道掃除を終わらせ、ギルドへと戻ってきた。

今日は珍しくサラスティさんが押し掛けて来ることはなかった。

まああの人も一応騎士団長だしな、仕事があったんだろう。


そう思いながら依頼報告を終え、宿に戻ると居た。

サラスティさんが腕を組み袋を背負って立っていた。

仁王立ちと言わんばかりの立ち方で通行人がギョッとした顔をしていた。



「どうも、お疲れ様です」

「む!やっと帰ってきたか」

「どうしたんですか?こんな所で」

「フッフッフ、待っていたのだマルを。これを見よ!」

そう言って袋を手渡され中を覗くとそこには真っ黒な棒が入っていた。


「なにこれ」

「む、それがこないだオーダーメイドで作ってもらっていたモップだ」

ああ、これが……。

袋から出してみると漆黒の棒が露わになり、その先にはモップです!と言わんばかりのヘッドが取り付けられていた。

少し違うのは毛先が少し固めである所だ。


「フフフ、どうだ。鋼とタングステンの合金で作られた特別製のモップだぞ」

「あ、ありがとうございます?」

モップをプレゼントされても喜んでいいのかよくわからん。

まあでも確かに手触りもいいし程々の重さだ。

これなら振り回そうと思えば振るえるぞ。


「これでいざという時は自分の身を守れるだろう。明日から私は討伐隊に参加する。数日間はこの街を留守にするからな……一応ロナルドは残っているから何かあればアイツを頼れ」

「あ、もう明日からなんですか?」

「うむ。あまり時間をおいても被害は広がるばかりだからな。マルは知らないだろうが既に小さな村がいくつも襲われている」

それはウカウカしてられないか。

街を留守にしている間に魔族がその隙を狙って襲ってくるかも知れないと思うと少し怖いな。



「上位の冒険者も討伐隊に参加するからな。万が一に備えて半分の騎士団は残しているがそれでも絶対はない。死ぬなよマル」

「大丈夫ですよ。これでも騎士団長と副団長に鍛えられたんすよ?」

「……鍛えてもそれが身に付いているかは別だが」

そんな難しい顔しないでくれよ。

不安になるだろ。

いや、流石にこれだけ鍛えたんだから逃げ回るくらいの事はできる。


「とにかく!無茶はするなよ」

「了解です!」


俺は宿に入り貰ったモップを眺める。

鋼とタングステンの合金か……相当頑丈なんだろうな。

振り回されない程度の重さだしオーダーメイドともなればそれなりに高かったはずだ。

これでポックリ死にましたなんて事になったら申し訳がない。

何とか死なないようにしないとな。


その日はモップを横目にベッドにダイブして就寝した。



朝目が覚めると外から聞こえてくる喧騒が気になり窓の外を見る。

丁度装備をしっかり整えた騎士や冒険者が街の外へと出ていく所だった。

これから討伐か、俺は参加できないけど陰ながら応援しておこう。

レオン死ぬなよ……いや、死なないか。

というか英雄級の冒険者が死ぬような事態になれば討伐隊は全滅するわ。


俺はいつも通り、朝食を済ませて冒険者ギルドへと赴く。

道中すれ違う人達は俺の持っているモップを見て何だあれはと言いたげな視線を送ってきた。


冒険者ギルドの扉を開けるとみんなの視線が俺の持っているモップへと注がれる。


「えっと、いつもの依頼を頼む」

「あのーそのモップはなんですか?」

「これか?マイモップだよ」

愛剣みたいな言い方したけどクソダサいな。

なんだよマイモップって。

自分で言ってて恥ずかしくなったぞ。


「そ、そうですか……自前の物まで用意するなんて、余程掃除が好きなんですね」

ここぞとばかりに受付嬢に馬鹿にされた気がするが一旦無視だ。

好きなんじゃなくてこれしかできねぇんだよ。



依頼を受けると俺はその足で下水道へと向かう。

臭い消しなどのアイテムは既に準備済みだ。

というか何度も同じ仕事をしているせいで俺はある程度の道具をストックしている。



下水道に降りると新品のモップを掛け始めた。

なかなか使い勝手は良く、自前の物という事もあり掃除が終わる頃には愛着も湧いてきていた。


見た目は真っ黒だし黒龍檄って名前にしようかな……?

いや、流石に厨二病すぎるか……。

でもな……自分の武器に名前を付けるのって憧れるしな。


よし!黒龍丸にしよう。

船っぽいけどモップって甲板でも使うし丁度いい名前だろ。


下水道から地上へと出る階段を登っていると、喧騒が聞こえてきた。

外は騒がしいらしいが何かあったのだろうか。


地上への扉が近付くにつれて喧騒は大きくなっていく。

たまに悲鳴みたいな甲高い声も聞こえてきて明らかに普通ではない様子だった。


「おいおい……勘弁してくれよー。今はサラスティさんも居ないってのに」

本当にタイミングが悪い。

この騒ぎは明らかに人が逃げ惑っているような騒ぎ方だ。


俺はソッと扉を開けると視界に飛び込んできたのは豚の化け物が棍棒で人を殴りつけている瞬間だった。

すぐさま扉を閉めて激しく動く心臓に手を置いて一呼吸する。


「おいおいおい……マジでやべぇぞこれ」

俺がもしも剣を持っていたとしても即座に殺されてしまう。

扉から出れば次に襲われるのは俺だ。


このままここで待っていても事態は一向に良くなりはしない。

そう考えた俺は別の出口へと走った。


下水道は地下に張り巡らされており、出口となる地上への扉は複数あった。

その中の一つ、パスィーユ伯爵のお屋敷近くにある出口へと俺は急ぐ。

そこなら少なくとも伯爵お抱えの騎士がいるはずだ。

何よりも騎士の詰所にはロナルドさんがいる。


出口の扉をソッと開けるとまだここは魔物が蔓延っていないのか、視界に一体の魔物も見当たらなかった。


俺は即座に扉から飛び出し、臭い消しを振りかける。

いくら焦っているからといって下水の臭いを撒き散らしながらロナルドさんの元へ行くわけにもいかない。



「クソッ!こっちにも来たぞ!」

「迎え討て!」

「矢を番えろー!」

騎士の声が聞こえてくる。

お屋敷の方では既に魔物が現れているらしい。

そもそもどうして街中に魔物が出てきたんだ?

いくらなんでもタイミングを見計らったかのような襲撃だ。


俺は声の聞こえる方に走った。

体力のない俺の足はすぐに止まってしまったが、騎士の声はさっきよりも大きく聞こえてくる。



「キャアアア!!」

その時俺の耳に女性の甲高い悲鳴が飛び込んできた。

声が聞こえた方へと顔を向けると今まさにゴブリンが襲いかかろうとしている瞬間だった。


「クソがッ!」

俺の足は考えるよりも早く動いていた。

スライムすら倒せない俺が助けに入った所で何の役にも立たないだろう。

だが見過ごせるはずがない。

俺は全力で走り黒龍丸を勢いよく突き出した。


「ゴブェッッ!」

汚い声を撒き散らしながらゴブリンは後方に吹き飛ぶ。

見たか!これが黒龍丸の力だ!

そう高らかに叫びたかったが、全力疾走したせいで声は掠れて情けない音が喉から漏れ出た。


「こぺぇッ……!」

クソダセェな……しかも顔を両手で覆っている女性の目の前だし。


「ゼーハー……ゼーハー……」

俺は声が出せずさっさと逃げろと手で追い払う仕草をとった。

しかし悲しい事に女性は俺を見ておらず未だ俯いたままだった。


「ゼーハー……逃げ……ろ……」

「……え?」

ようやく顔を上げた女性は俺を見て目を見開く。

ナタを振りかぶって今にも殺される瞬間だったのが、気づけば黒いモップを構えた男が目の前にいるんだから、その反応は間違っていない。


「さっさと……逃げろッ!」

やっと声が出せるようになりそう叫ぶと女性は強く何度も頷いた。

いや、頷くとかいいから早く逃げてくんないかな。

吹き飛ばしたゴブリンも額に青筋を立ててナタを構えこちらへと近寄ってきているんだから。


「早く逃げろ!騎士団の詰所があったろ!あそこに逃げ込め!」

「は、はい!!」

女性が立ち上がり走り出すとゴブリンはそれを流し見すると、俺へと視線を戻す。

ああ、相当苛ついてんな。

せっかく殺せると思ったら気づけばよく分からん武器で吹き飛ばされたんだから怒るのも理解できるぜ。



ただ、俺の額には大粒の汗が浮かんでいるけどな。

ブックマーク、評価お願いいたします!


誤字脱字等あればご報告お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ