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第9話 騎士団長は面倒見がいい!

道具屋に入ると、棚には小瓶や魔道具が置いてあった。

臭い消しの道具はどれかなと探していると店の奥から店主と思われる男性が出てきた。


「何かお探しですか?」

「臭い消しの道具ってどれですかね?」

「ああ、それならこちらになりますよ」

店主が一つの小瓶を手に取ると手渡してくれる。

白っぽい液体が並々と入っていて、ポーションみたいな見た目をしていた。



「これを頭からかぶって頂ければ臭いはすぐに落ちますよ。モップを持っているという事は下水道掃除の依頼を受けたのですか?」

「そうなんです。臭い消しはあった方がいいって言われて」

「それでしたら三本ほどお持ちいただいた方がよろしいでしょう。下水道の臭いはキツイですからね」

なるほど、一本じゃ消しきれないってわけか。

てなると騎士団長の分も合わせて六本いるな。


「あれ、そちらの方は――」

「私だ」

「ああ!騎士団長でしたか!え?モップ?」

店主も騎士団長の手に持たれているモップに目が行ったのか首を傾げていた。

そりゃそうだろう。

騎士の服でモップを握り締めているんだから。



「うむ。その臭い消しは私が出そう」

「いやいや、これくらいは自分で買えますよ」

「気にしなくていい。騎士の給金は割と高いのでな」

なんかシレッと懐事情マウント取られた気がする。

でも買ってくれるというのならお願いするとしよう。

大して高い物でもないし。


他に必要な物をあらかた揃え、道具屋を出るといよいよ下水道を目指して……って思ったけど俺場所知らないな。


「あのーすみません。下水道ってどこでしょう?」

「なに?そんなのも知らないのか。こっちだ、ついてきたまえ」

サラスティさんがいてくれて助かったよ。

俺だけだったら途方に暮れていたところだ。


サラスティさんの案内の元、辿り着いたのは街の端にある地下水道への入り口だった。


「ここから下水道へと入れる。準備はいいか?」

「はい、大丈夫です」

「マスクは着けているな、よし」

何故かサラスティさんが仕切っているがまあよしとしよう。

多分職業病だ。

俺は彼女の指示通り装備を整え地下へと降りていった。



地下水道はジメッとしていて薄暗い。

お化けでも出てきそうな雰囲気だ。


「ここからあの先に見える小さな光があるだろう?あそこまでが一ブロックだ。そこまで掃除して初めて一本の下水道掃除完了となる」

いやいや、待ってくれ。

思っているより長い距離があるぞ。

これを一時間で終わらせるのはなかなか骨が折れる。


と、まあブツブツ文句を言っていても始まらない為俺は早速モップを掛け始めた。


水を生成する魔導具で水をぶっかけ、モップで汚れを擦り落とす。

ただ如何せん俺の体力はミジンコ並みだ。


数分でバテた。


そんな中サラスティさんは黙々とモップを掛け続け、俺の十倍の速度で汚れを落としていく。



「む、どうしたマル殿。疲れたか?」

「いや、まあそうですね。腰がなかなか……」

「中腰になるからな。日頃鍛錬はしていないのか?」

さて、どう答えようか。

鍛錬なんてやった事もないし、そもそも俺はこの世界に来て数日の異世界ルーキーだ。

そんな話をした所で恐らく信じては貰えないだろう。


「鍛錬は……やった事がありませんね」

「むむ、それはいかんな。男子たるものいつ如何なる時も鍛錬するものだぞ」

それはきつすぎる。

死んでしまうよ俺。


「そうだ、せっかくこうして知り合えたのだから私が鍛錬をつけてやろう」

「いやいやいや!そんなの悪いですって!」

イヤほんとマジで。

騎士団長自ら鍛錬をつけてくれるって、体力お化けが完成しちまうよ。


「気にするな。私も騎士団長の座についてから長らく鍛錬を怠っているしな。丁度いい機会だ」

「全然良くない」

「ああ、私が騎士団長だから気にしているのか?大丈夫だ、一人の冒険者の面倒みるくらい大した仕事にはならん」

そういうわけじゃなくてだな。

この人も話を全然聞かないから、何言っても無駄か……。



掃除を始めて一時間。

俺の腰はついに限界を迎えた。


「も、もう無理ですよ」

「たるんでいるな。しかし何とか一本の下水道掃除が完了したか」

俺の腰と引き換えに十銅貨か。

そう考えれば割に合わないぞこれ。


「よい鍛錬になるではないか。よしマル殿、これを毎日やるといい。一月も経てばそれなりに体力もついているとだろう」

「ひ、一月毎日ですか?」

「うむ。鍛錬は一日サボるだけで三日何もしなかったのと同じになる」

「そ、そうっすね」

そう言うサラスティさんはピンピンしている。

息切れすら起こしていない。

女性だというのに多分俺なんかより数十倍もの体力がありそうだ。


「とりあえず初日にしてはいいのではないか?上に戻ろう」

「あー、いや、もう一本くらい終わらせておこうかななんて……」

なんか負けた気がするのが気に食わない。

男としてここは頑張りどころだろう。


「ほう……よし!では私も最後まで付き合おう!」

やる気が満ち溢れた騎士団長と共に別の下水道掃除を始めだした。


結局三本の下水道掃除を終わらせ上へと戻った。


臭い消しを頭から被りタオルで汚れを拭う。

サラスティさんは臭いこそ俺と同じようについているが、汚れは一切ない。

というのも俺は足腰が限界にきてしまって何度かコケたからである。

糞尿がこびりついた下水道でコケた時は絶望しか感じなかったよ。



「よくやったではないか。えらいぞ!」

「ハハッ……」

俺は乾いた笑いしかでなかった。

こっちはもうヘロヘロなんだよ。

騎士団長の足腰は鉄でできているのかな?


「そういえば聞いていなかったが、マル殿のランクは如何ほどなのだ?」

「ランク……ああ冒険者ランクの事ですか。下級ですよ」

「ふむ、駆け出し冒険者といったところか。珍しいなパスィーユで登録したのか?」

やはり俺がこの街で冒険者登録したのは珍しいらしい。

パスィーユはクソ雑魚が出てくるダンジョンかクソ強い魔物が出てくるダンジョンの二極化が激しいしな。


「まあそうですね。ちょっと色々あって魔物と戦った事なんてありませんよ」

「それならその弱っちい身体も理解できる。やはり私のところで鍛錬をした方がよいな!」

「いやいやいや!騎士団の仕事の邪魔をするわけには」

「構わん!私がルールだ!」

無茶苦茶言い出したよ。

確かに騎士団長だから一番偉いんだろうけど。

公私混同極まれりだな。


世間話もそこそこに冒険者ギルドに入ると中にいた冒険者達から異様な注目を浴びた。


「む、なんだ」

その雰囲気に気付いたのか俺の横でサラスティさんはキョロキョロと視線を動かす。


「おお!マルじゃねぇか!」

声を掛けてきたのはガルシアだった。


「お疲れー。下水道掃除めちゃくちゃ大変だったぞ」

「そりゃそうだ!誰もやりたがらない理由がわかったろ?」

「嫌と言うほどに理解した」

腰が爆発するからな。


「というかその人って……」

ガルシアが気付いたのかサラスティさんに視線を向けると驚いたように目を見開き口をパクパクさせていた。


「ああ、手伝ってくれてたんだよ」

「て、手伝った?あの下水道掃除をか?」

「それ以外にないだろ」

俺がそう言うとギルド内にどよめきが走った。

二人共モップを持ってるんだから見りゃ分かるだろと声を大にして言いたい。


「おいおい……騎士団長さんを下水道掃除に連れ出すなんてなかなかすげぇことやってんな」

「俺が頼んだ訳じゃないぞ。この人が自主的に手伝ってくれてたんだ」

ははーん。

そういうことね。

どうやらギルドにいる連中は俺が騎士団長を下水道掃除に駆り出したと思っているらしい。

そんな訳がないし、そもそもサラスティさんと知り合ったのも今日が初めてだ。


「おい、あの新人……なかなか度胸あるみたいだな」

「そうね……下級冒険者とかいいながら度胸だけは英雄級なのかも」

「あの鬼のような騎士団長を下水道掃除させるとか……後で殺されねぇかアイツ」


うんうん、聞こえてくるよ。

噂する色んな声が。


これは、誤解を解くのに時間がかかりそうだ。

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