第8話 命を背負うということ
命を奪われる痛みを知ったとき、
人は“生きること”の重さを理解する。
ならば――誰かを守るために、命を奪うことは、罪なのか。
これは、『異世界来たけど俺の能力は死なないと強化されない件』
“守りたい”という想いが、少年を殺す覚悟へ導く物語。
血の匂いが、まだ空気に残っていた。
倒れ込んだアイリスの身体を、蓮は腕の中に抱き上げた。
蓮「大丈夫か……!」
アイリス「……平気。かすっただけ……」
嘘だ。かすり傷で、こんなに体温が低くなるはずがない。
左肩から流れた血はすでに服を濡らし、地面にまで滴っていた。
蓮「村に戻る……まず、手当てを」
アイリスは首を振る。
アイリス「……戻れば、また誰かが狙われる。
私が狙われたのは、あんたをかばったから。だから、ここで終わらせるべきなの」
蓮「ふざけるなよ」
声が震えた。
蓮「俺のせいで、君が……!」
拳が、地面を打った。
何も守れていない。強くなったはずなのに。
死んでも戻れるのは、自分だけ。
アイリスには、それがない。
蓮「……もう一度だけ、死ぬ」
アイリス「蓮……」
蓮「もう一度死んで、あいつを見つけて……今度は“殺す”」
殺す――その言葉を自分の口が発した瞬間、胸の奥がズシリと重くなった。
けれど、それ以上に心に浮かんだのは、あの笑顔だった。
命を“処理する”と言い放ち、目の前の人間を焼き払おうとした“あの男”。
蓮「守るために死ねるなら……守るために殺すことだって、間違いじゃないはずだ」
アイリスは、何も言わなかった。
ただ、蓮の手を小さく、握り返した。
――夜明け前。
蓮は、ひとりで森に戻っていた。
あの男の残した焦げ跡。歪んだ魔力の残滓。
その空気の震えを、感じることができるようになっていた。
蓮「……あんた、まだ近くにいるだろ」
足音が、草を踏みしめた。
赤いローブ。ゆらゆらと揺れる杖。
男「おや……まさか、もう一度来るとは思わなかった」
蓮「逃げたのかと思ったよ。処理班にしては、臆病だな」
男は笑った。
男「いいね、その目。ようやくこの世界に染まってきた」
蓮「染まりたくなんて、なかったさ。
でも“誰かの命”の重さに比べたら、自分が穢れるくらい……どうってことない」
男の足元に、魔法陣が浮かび上がる。
蓮もまた、短剣を抜いた。
その握る手は、震えてなどいなかった。
蓮「今回は――」
蓮「生きたまま、終わらせる」
地面を蹴った。
閃光と炎が交差する夜明け前の森。
生きる者と、命を奪う者。
その差は、もう明確だった。
男の放った魔法陣から、灼熱の槍が飛び出す。
空気が割れる音と同時に、蓮は地面を滑るように避けた。
蓮「……っ、やっぱり一撃が重い……!」
死を繰り返して得た反射神経がなければ、とっくに身体は焦げていた。
それでも、足元の地面は燃え上がっている。
このままでは、また“死”に追い込まれる――そう分かっていても、恐怖は消えなかった。
男「ほら、どうした。前より動きがいいが……まだ“殺す”覚悟はできてないようだ」
蓮「……いや、できてるよ」
蓮の目が鋭くなる。
一歩、前へ。さらにもう一歩。
男「無謀だ。殺すっていうのはな、理屈じゃない。“手が動くか”なんだよ」
男が杖を振り下ろす。空中に広がる火花。
だがその瞬間――
蓮の身体が、残像を残した。
男「――なにっ」
脇腹に、短剣が深々と突き刺さっていた。
蓮「俺は……“選んで死んだ”んだ。だから、もう“選んで殺す”こともできる」
男の顔が、恐怖に染まった。
赤いローブが、倒れる。
地面に落ちた杖から、残っていた魔力が散っていく。
初めて――人を殺した。
蓮「……これが、“命の重さ”かよ……」
手が震えていた。心臓がうるさいほど脈打っている。
だけど、後悔はなかった。
誰かを守るために、自分が“越えてしまった線”。
それでも。
蓮「……アイリス、待ってろ」
森を出ると、月明かりの中で、少女の姿が立っていた。
包帯を巻いた左肩。その上に、小さな外套を羽織って。
アイリス「……やっぱり、無事だった」
蓮「お前、来るなって……!」
アイリス「怖かったの。私……あんたが、戻ってこないかもしれないって思って」
その目には、迷いと――涙。
アイリス「帰ってきてくれて……ありがとう」
蓮「……殺したよ、俺」
アイリス「うん」
蓮「……それでも、生きてていいのかな」
アイリスは、そっと蓮の手を握った。
アイリス「“命を奪う”って、正当化なんてできない。
でも、私はあんたの帰りを、ずっと信じてた。
だから、それでいいんだと思う」
蓮は小さく頷いた。
そして、初めて“誰かと”歩く夜道に、少しだけ安心を感じていた。
焼けた森の風は冷たかったけれど、
その手の温もりが、それをかき消していた。
第8話を読んでくれてありがとう。
蓮は今回、初めて“殺す”という選択をし、その手を汚しました。
それは憎しみではなく、守るための覚悟。
アイリスが傍にいてくれたからこそ、蓮はその重さを抱えたまま“生きる”ことを選べました。
ここから先、彼の歩みはもう後戻りできません。
次回、第9話では、この“戦いの余波”が村にも波紋を広げていきます。
蓮が背負った命。その重みが、世界を少しずつ動かしていきます。
次回も、ぜひ見届けてください。
※この作品はAIの協力の元作成されています