第5話 選んで死ぬということ
“死ねば強くなる”――それは、他人のために使える力だろうか。
恐怖も、痛みも、孤独も、すべて引き受けて。
それでも前に進もうとする意志が、本当の強さなのかもしれない。
これは、『異世界来たけど俺の能力は死なないと強化されない件』
少年・蓮が“初めて自分の意思で死ぬ”という選択をする物語。
森に火が入った――そんな緊張感が、村を包んでいた。
蓮が“死者の記録”を読み終えた翌朝。
村の外れに棲みついた魔獣が、畑を荒らし、住人ひとりが行方不明になったという。
蓮「……まさか、人が襲われるなんて」
アイリス「今に始まったことじゃない。けど、タイミングが悪い。
畑がやられれば、冬越えできない世帯も出る」
アイリスは冷静にそう言ったが、その声はどこか刺々しい。
蓮「俺、行くよ」
その一言に、アイリスの目が動いた。
アイリス「……なぜ?」
蓮「俺のスキルは、死んだら強くなる。それに――」
言葉が喉に詰まる。
でも、レイの言葉が脳裏に浮かぶ。
“もう、死ぬ痛みをひとりで抱えなくていいように”
蓮「初めてだ。他人のために使いたいって思ったの、これが」
アイリス「死んだこと、忘れてないはず。痛みは? 苦しさは? 戻った後の孤独は?」
蓮「全部、覚えてる。忘れようとも思ってない」
蓮は、真っすぐにアイリスを見つめた。
蓮「でも、生きてるんだ。今こうして、目の前に君がいる。
だったら俺は、生きる意味に、ちゃんと手を伸ばしたい」
しばらくの沈黙のあと、アイリスは静かに矢筒を背負い直した。
アイリス「……だったら、私も行く。ひとりで抱えるなって言ったのは、レイだから」
その名前を聞いたとき、蓮の胸が熱くなった。
森の奥へ進むにつれ、空気が濃くなる。湿気。獣臭。そして、殺気。
それは、木の根元に潜んでいた。狼のような姿。だが、首には赤黒い瘤のようなものがあり、瞳はただの獣とは思えぬ光を放っていた。
蓮「来る……!」
魔獣が飛びかかった。
蓮は踏み込んだ。避けるのではない。真正面から――迎え撃つ。
爪が腹を裂き、視界が赤に染まった。
蓮「う、がぁあ……ッ!」
骨が砕け、内臓が潰れる感覚。痛みは、あのときより遥かに重かった。
それでも――踏み出した足は、止まらなかった。
アイリス「蓮っ!!」
その叫びが聞こえた瞬間、意識は暗闇に沈んだ。
(暗転)
蓮「……っはぁ!!」
気がつくと、倒れていた。
夜の森。自分の背に、誰かの上着がかかっている。
アイリス「……おかえり」
焚き火のそばに座るアイリスが、ぽつりとつぶやいた。
蓮「俺……ちゃんと、死ねた?」
アイリス「うん。目の前で。……ちゃんと、生き返ってくれた」
蓮は、火を見つめた。
死ぬことは、やっぱり怖かった。痛かった。泣きたくなるほどだった。
でも、今――
蓮「俺、もう少しだけ、この世界に居場所ができた気がする」
アイリスは黙ってうなずいた。
その頬に、一筋だけ涙が流れたのを、蓮は気づかなかった。
第5話を読んでくれてありがとう。
今回は、蓮が初めて“他人のために”死ぬことを選び、
その痛みと向き合いながらも、生きる意味を見出す――大きな一歩の回になりました。
そして、アイリスの中でも何かが確実に変わり始めています。
次回は、村で起きる“ある異変”と、それに関わる“レイの過去”が少しずつ明らかに――
この世界の真実へ、少しずつ近づいていきます。
次回もぜひ、見届けてください。
※この作品はAIの協力の元作成されています