釜中之魚
がこん!
自動販売機と缶の叩き合う音が静かな廃墟に鳴り響いた。
「このゲーム、意外と設備がいいな♪」
俺は自動販売機から珈琲を取り出すと一回ポンと上に投げてキャッチした。
意外と俺はこのゲームを楽しんでいる。
そんな俺の趣味は【爆置】と【戦略】だ。
ん?ハッキリ分からない?
分からなくて良いさ。
別に分かってほしくないしな…
それに何より個人情報は流さない方だからね。
あ、名前ぐらいは教えてやるよ。
俺は【挨原 異挫也】。
ついさっき【拳ちゃん】に追い掛けられてたんだけどねぇ?
あ、女の子じゃないよ?
【愛島 拳壱】って言うんだけどさあ…
何か逆恨みされちゃってねぇ。
『異挫也ーー!!』とか言って追っかけてくるわけよぉ。
いやいや同姓にモテるのも罪だねぇ♪(違うと思う)
何で逆恨みされたのか忘れちゃったけどさ。
それにしても外が騒がしい…
出てみよっか。
「異ー挫ー也ーー!!」
あらま、噂をすれば…
とにかく逃げよう。
捕まったら何されるか…
「はは~ん、拳ちゃん♪また来たのぉ?」
「異挫也!殺す殺す殺殺殺!!」
さっきから拳ちゃんはこの調子。
全く飽きないのかねぇ?
物投げてきたり信じられない程の力で殴ってきたりと…
まあとにかくからかうのは結構面白いから別にいいんだけどさあ。
毎回この調子じゃ体が持たないよ…
まあ拳ちゃんは単純だからちょっと死角を置けば…
ケータイを取り出しクリアボタンを押すと予め仕掛けておいた箱型の爆弾が爆発した。
それと共に愛島は、煙の中に身を飲まれ視界を失った。
「けほっ!異挫也ぁぁ!!」
「じゃあね、拳ちゃん」
煙が愛島の視界から消えるとそこに異挫也の姿は無かった。
「覚えてろ!異挫也ーー!!」
悔しがり地面に落ちていたコンクリートの欠片を蹴って粉砕した。
そのままその場で暫くうろうろしていた。
暫くうろうろして落ち着いた愛島はタバコを口にくわえ火をつけ木箱の上に座った。
タバコの煙は狭い廊下の空気に溶け込んでいった。
「全く、拳ちゃんは強情だな」
安心したように異挫也はため息を付きさっき買った珈琲の缶口を開き飲み始めた。
「あ、苦いの買っちゃった…」
露骨に渋い顔をして舌を出しちょっと飲みかけた珈琲缶を投げ捨てた。
缶珈琲の中身が地面に落ちると共に辺りに飛び散り、そのまま地面をコロコロ転がった。
飛び散りきらなかった珈琲が、缶口から流れ落ちている。
そのあと珈琲が流れきったのを確認していたかのように笑い、ケータイをとりだし時刻を確認するとそのままポケットへしまい歩き始めた。
当ても無い目的地へ向かい…
……………………
やけに静かだ。
いつもこの時間ならお母さんが起こしに来るはずなのに…
寒いな…
夜中に起きちゃったのかな…
時計を確認しよう。
そう思い、【彼女】は目覚まし時計を目を閉じたまま手探りで探した。
そして少し手探りするとある違和感に気づいた。
「あれ?座ってる?」
そう言って目を開ける。
目の前には横の壁が抜けた所から日の差し込んでいるのコンクリート部屋にいた。
目覚めは心地よいものであったが先ず疑問に思ったのが
「此処…何処?」
▼釜中之魚
死や危険が迫っている事の例え。