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「──大丈夫?」


 誰?


「ねえ──」


 もう、久々の休みなのにいったい誰よ。

昨日は飲み会だったの。

二日酔いかしら、頭痛い。

うう、まだ寝かせてよ。


「起きてよ〜」


 肩を揺らす誰かの手を私は叩き落とした。

もう、うるさい。


「早く起きて〜」


 うう、頭痛がする。

昨日は酔っていたから、家まで帰ったことはっきり覚えてないわ。

 ちゃんと玄関のカギ締めたかしら。

隣のマンションに空き巣が入ったらしいし、最近本当に物騒だわ。

 一人暮しだから気をつけないとね。


……………ッ!?


「え、ちょっとあなた誰よ!」


「わあ、やっと起きた〜」


 ベッドから飛び起きた私の目の前には、ニコニコとこちらを覗き込む金髪碧眼の美少年。

 自由気ままな一人暮らしを送っているはずの私の部屋にいる見知らぬ少年。

ニキビなんてない、ピチピチの白い肌。


 か、確実に未成年!?


 ………まっ、まさか私ッ!

お持ちか────。


「昨日のマキさんホントに凄かったね〜。僕くたくただよ〜」


 少年は子犬のような笑みを浮かべ、卑猥な想像しかできない決定的な一言を吐きやがった。


「ぬあ゛〜」


 言葉にならない奇声を上げ、私はベッドの上を転げ回った。


……ΣU゜ェ゜U……


 部屋の端にはコードの絡まった最近話題のゲーム機のコントローラーと奮発して買った水色の液晶テレビ。

六疊しかない部屋の中央に置かれたテーブルの上には、近所のコンビニのビニール袋と大量のアルコールの空き缶。

ごみ箱にはティ……ッシュ………。

 ベッドの足元には私のスーツ───高いのにシワになる!

ってそこじゃない!


 心の中で自分にツッコミを入れ、私はさらにベッドで悶えた。

私に下着姿で寝る趣味など断じてない。


 やっぱりヤっちゃったの!

私のバカ〜。

今の会社でバリバリ働くという野望が〜。

 せっかく最大手の商社に就職できて、順調にキャリアを積んできたのに……バレたらお先真っ暗だ!


「マキさ〜ん」



 金色の子犬が私の名前を呼びながら、キッチンから駆け寄ってきた。

 そして、整った眉を下げ困ったように首を傾げた。


 はうッ! 耳が!

垂れた犬耳が見える。


 私は自分勝手な幻覚に先程以上に悶えた。


「マキさん辛いだろうから、朝ごはん作ろうと思ったんだけど……」


 そんな私の様子を気にすることなく、子犬くんはキッチンの方を指差した。


「なんだか卵が黒くなっちゃった……」


 そう言って青い瞳を潤ませる。


 さ、殺人的〜!


 セミダブルのベッドを何度も拳で叩く。

───って、だからこんなことしている場合じゃないんだってば。


「ねえ君! 私まさか貴方と……しちゃった?」


「うん。マキさん何度もしたがるから僕、寝不足だよ〜」


 隣から苦情がくるほどの奇声が私の口から上がった。


…U^エ^U♪…


 金色の子犬は名前をコウと名乗った。

名前を聞いたとき『覚えてくれてないの!?』と悲しげな目で見られ、鼻血が出そうになったりなんかしていない。

……していないとも!


 名字は何度聞いてもはぐらかすばかりなので、聞くのは諦めた。


「えっと、コウくんは……未成年?」


 コウくんが真っ黒に焦がした目玉焼きではなく、私が作り直した目玉焼きを箸でつつきながら聞いた。


「なっ!? まさか出会ったときのことも忘れちゃったんですか!」


 醤油で真っ黒になった目玉焼きを食べていたコウくんが、大きな青い目をさらに丸くした。


「え、えーっと…」


「うう、マキさんひどいですよ〜」


「……ごめん」


「二十二歳です!! もうしっかり成人してます。見ればわかるでしょ?」


 エッヘンと両手を腰に当てて胸を張って見せる姿は、どう見ても成人男性の姿とは思えませぬ。

可愛いだけです。


「でも本当によかったわ」


「よかったって、なにがですか?」


「だって未成年だったら淫交で──」


「ぼ、僕はもう二十歳過ぎてます! ……居酒屋で毎回年齢確認されるけど」


 コウくんがボソリと呟いた言葉に私は必死に笑いを噛み殺した。


 そりゃあ店員さんだって確認したくもなるわよ。

ふわふわの金髪にぱっちりした二重の青い瞳。

168センチある私よりも目線が下の小柄な身長………モデル並の小顔は憎いわね。

 男ならカッコイイって言われたいんだろうけど、彼を表す言葉は『かわいい』の四文字しかない。


「ねえ、コウくん……申し訳ないんだけど、私たちなんでこんなことになったのかしら?」


 二日酔いになるほどお酒を飲んだのなんて、いつぶりかしら。

きっと大学のサークルでの飲み会以来だわ……。

 お酒に弱いって分かっているはずなのに、記憶をなくすほど飲むなんて、大人として失格よね。


「ほ、ホントに覚えてないんですか!? うう、マキさんたくさんお酒飲んでたからなあ……」


「ごめんなさい」


「で、でもでも! 絶対に約束は守ってもらいますからね!!」


「約束?」


 なぜだろう……嫌な予感しかしないんだけど。


「はい、僕と結婚前提でお付き合いしてもらいます」


「え?」


「僕と結婚してください!」


 おいおい、さっきとセリフが違うよ。

って、


「結婚!?」


「はい」「結婚ってあの結婚?」


「男女が夫婦になる『結婚』です」


「ほ、本気?」


「もちろんです」


「私そんな約束知らないわよ」


「でもほら」


 コウくんが指を差す。

私の左手。

私の薬指。

 そこで輝くのは、昨日までなかった小さなピンク色の宝石がついたシルバーリング。


「その指輪は間に合わせなので、今度しっかりしたものを一緒に見に行きましょうね」


 コウくんの声が遠くで聞こえた。


……U*^ェ^*U……

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