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ついに親友が、地球外生命体を発見したらしい

作者:

「羽芝、今日お前を呼び出したのは他でもない。先日ついに、地球外生命体を発見したからだ」


 ガヤガヤとうるさい居酒屋の隅っこで、角田が大真面目に切り出した。

「またそういう話? ホンマに好きやなぁ。まぁまぁ、とりあえずビール飲みて。あと熱いうちがうまいから、揚げ出し豆腐食べ。な?」

俺は角田の方に揚げ出し豆腐の鉢を押しやった。角田はオカルトマニアだ。出会った頃から変わらない。こいつとは中一で同じクラスになって、趣味も性格も全く違うのに何故か意気投合した。頭が良い角田とは進学で別々になったけれど、それからも何だかんだつるみ続けて今が二十八だから、もう十五年の付き合いになる訳だ。親友というやつなんだろう。

「いや、今回は本当に本当なんだよ」

「もぉ~角田はいつもそれやん。それ以外のことに興味ないんかいな。いいからとにかくビール一口飲みて。おら、おらっ」

「んごっ! やめろよ! 人が真剣に喋ってるっていうのに」

角田は文句を言いながらもビールを流し込んだ。

「揚げ出し豆腐もな。で? 今回はどんな宇宙人なん? 言葉が喋れる猫? 古代から人間に擬態して暮らしてる種族? それとも顔の皮がメリメリって剥がれるおっさん?」

「あんまり大きい声で話すな。聞かれてる可能性があるだろ」

「いや無いやろ。てか聞かれて困るんやったらこんな店アカンやろ」

「ここの『ふわふわ長芋チーズ焼き』がどうしても食べたかった」

「食欲に負けすぎやろ……。で、今回のはどんな奴なん?」

「今回は間違いないと思う」

角田は眼鏡の奥で真剣な目をしている。

「その人は、半年前に僕の会社に入って来たんだ」

「ふーん。後輩?」

焼き鳥を咥えて、グイッと串から抜き取りながら聞く。

「いや、たぶん同い年くらいだ。隣の営業部の中途採用」

「へぇ。何が怪しいん?」

「急かさないでくれ。まず、僕がその違和感に気が付いたのは、その人と廊下でぶつかった時だった」

「待って。その人何て呼ぶ?」

「仮に吉田くんとしよう」

「普通やな」

「いや一見するとかなり普通なんだ」

「まぁええわ、ほんで?」

「その時はまだ吉田くんとは面識がなくてね。ただ、お互いとても急いでいて、廊下の角でぶつかりそうになったんだ」

「なるほど」

「その時、僕は無様に転んだんだけどね。吉田くんは異常な反射神経で、それを回避したんだ」

「それって、角田と比べてって意味?」

「違う、僕の反射神経が鈍いわけじゃない、断じて! 吉田くんが異常なんだ。吉田くんは、飛び込んでくる僕を瞬時に察知して、スッと身を引いたんだ。あの反応速度は異常だった」

「ん~見てないから何とも言えんけど、まぁそういう事にしょ。ほんで?」

「それで、僕は廊下で無様に転んだんだが、吉田くんは僕を助け起こしてくれた。その時握った手が」

「手が?」

「びっくりするくらい冷たかったんだ」

「えぇ~ただの冷え性ちゃうん?」

「いや、ちょっと暑いくらいの日だったんだよ」

「ん~まぁええけど、ほんで?」

「吉田くんは丁寧に謝ってくれて、とても感じが良かった。それで僕も、何となく違和感を持ちながらもその日はそれで終わったんだ」

「なるほど?」

「そして後日、PCの調子が悪いから来てくれって営業部に呼び出されてね。行ってみたら吉田くんのPCだった。お互い先日の出来事はよく覚えていて、そこで改めて自己紹介をしたんだ。変わらず吉田くんは感じが良かったよ。眼鏡をかけているから少し分かりにくいが、よく見ると顔も整っていてね。笑顔なんか結構可愛いんだ。実際、営業の成績もかなりの物でね。入社半年でナンバーツーまで上り詰めてる。かなり気も利くそうで、怖いくらい頭の回転が速いと噂になってる。そのあたりも怪しいと僕は睨んでるんだがね」

「たしかに、頭の回転が良すぎんのはそれっぽいな」

「そうなんだよ。まぁそんなわけで、僕はPCのトラブル対応をした。すぐ終わったよ。しかし気になることがあってね」

「何が?」

「どうも、吉田くんが近くに来ると無線LANが不安定になるんだ」

「そんなことある?」

「いや、本当なんだ。僕も気のせいかと思ったんだがね。吉田くんの身に着けた何らかの物体、もしくは吉田くん自身の身体により、通信が障害されているみたいなんだ」

「えぇ、確かなん?」

「うん。その後も何度か営業部に呼ばれたんだけどね。吉田くんのPCじゃなくても、その人が吉田くんと一緒に作業しているようなこともあったんだよ。そして、吉田くんが遠ざかると改善する」

「ええ? まぁもし本当だとしたら、お前が読んでる雑誌に載ってるような話やな」

「そうなんだよ。その他にも、この前社内の運動会があってね。大縄跳びをしていたときに、後ろに居た元相撲部の権田が、吉田くんに突っ込んでしまってね。後ろからだから、吉田くんも避けられなかったとみえて巻き込まれたんだ。吉田くんは細身な方だから皆心配したんだけど、吉田くんの反応は『もう、重いですよぉ』くらいなもんでね」

「ほう」

「しかも吉田くんの肩が外れてしまっていたんだけど」

「えぇ」

「そうなんだ。脱臼なんて言ったらかなり痛いと思うだろ? なのに、吉田くんは何てことないって風に、それを自分で治してしまったんだ」

「自分で治したん!?」

「そうなんだ。普通に大丈夫な方の腕でゴリゴリって嵌めてしまったんだよ。で、周りで見ていた人たちが騒然としてね」

「それはびっくりするな」

「そうなんだ。でも吉田くんは、『関節が柔らかくてすぐ外せるんですよ。すぐ戻るし』なんて言うんだよ」

「それはちょっと常人離れしてるな」

「そうだろう」

「他にも何かあるん?」

「ある。その後、社内で会うと吉田くんは声を掛けてくれるようになったんだが、頭の回転がかなり速いのはさっき言ったけどね、観察眼が鋭いというか、もはや人の心を読むようなところがあってね。僕がこっそり休憩スペースに使ってる倉庫に、僕を探しに来たりする。頼みにくい案件があるときには、僕好みのコーヒーを買ってくる。一度も吉田くんの前では飲んでいたことがないのに」

「なにそれ怖」

「そうだろう。それに、頭が良いのに漢字に弱い」

「漢字に?」

「あぁ、この前は生田さんのことを『オイタさん』と呼んでたんだ」

「オイタさん……?」

「『相生』なんかでは『生』の字を『オイ』と読むだろう? しかし、日本人なら『生田』は普通『イクタ』って読むと思わないか?」

「確かに……『生田』って書いてあったらまず『イクタ』だと思うよな」

「そうだろう。この辺りから、僕は吉田くんの正体に疑問を持ち始めた」

「他にもあんの?」

「他にも、天気予報が外れても、必ずその日の気候に合った装備で出社していたり、昆虫や爬虫類を好んで愛でたり、鼻歌の音階が異常に正確だったり……」

「よく観察してんな……」

「色白で血が通っているのか怪しいほどで、よく見ると女優の麻生喜美子に似てるような気がしてきたり……」

「えッ吉田くんは女性なん? てか麻生喜美子ってお前昔からファンやん?」

「笑うとえくぼが出来たり」

「ん……?」

「さっきまで笑ってたのにふと寂しそうな目をしたり……」

「いやそれって、角田……」

「何だか吉田くんと一緒に居ると動悸と冷や汗がすごかったり、ぎゅうッと胸痛がしたり、その黒い瞳で見つめられると吸い込まれそうになったり……とにかく彼女は僕の理解を完全に超えていて考え始めると居ても立ってもいられなくてそれで僕は」

「角田それ宇宙人とちゃう! 恋や!!」

「……?」

「ピンと来んのかい。いや普通に考えてな、それ吉田さんのこと好きになってもたんちゃうん?」

「…………………………………………いや彼女は地球外せ――」

「恋や!! それ恋やで角田!!!」

「…………えぇ? ……ぇぇぇぇぇえええ!?」

角田は居酒屋の丸椅子から転がり落ちた。ガクガク震えながら、ズレて落ちそうになった眼鏡を戻す。

「いや……彼女は地球が--」

「諦めろ角田、それが恋や」



 ガヤガヤと騒がしい居酒屋の夜は、今日も更けていく。

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