第七夜~そして朝 魔王さま、幸せになる!(ミラクルパワーでハッピーエンド!)
こんばんは、魔王さま。あなたの僕、ラウルです。
……貴様、なぜわしの寝室に!って、いきなり寝ぼけるのは止めて下さい。というか、寝ていたことにびっくりですよ。ちょっとなかなかお目に掛かれない光景ですよ。
いえ、わかります。準備もいろいろ大変で、今日の式典も覚えることが一杯で、お疲れですよね。私だってもちろん疲れてますから、わかりますよ。
でもですね、どうして一人でグーグー寝ていられるんですか。新婚初夜という、今日、この夜に。
え?おまえが来るのが遅いからだ?
すみません、そうですね。確かに遅れてしまいましたね。ええ、あなた達親子が長期不在だったせいで、余計な仕事が増えて大変でしたからね。主に私が。
……えー、たった今ですね、信じられないことに魔王さまの口から『本当に親父殿は勝手気ままで困る』とのお言葉をいただきましたが、なぜ他人事なんでしょうか。
魔王さま、魔王さま。私、今日の佳き日にこんな文句は言いたくありませんが、ちょっとだけ聞いて下さい。
あなた、結婚は嫌だという割りに、婚礼衣装に並々ならぬこだわりを見せていたじゃないですか。金と緑を取り入れたいという希望はいいにしても、その衣装を飾るのに指定した花が、よりによってラウリアだったじゃないですか。
……何が悪い、とおっしゃいました? ……ええ、はい。やっぱりそういう認識だったんですね……いえ、何も悪くはないですよ。ラウリアは緑の花びらに金の花芯が輝く、とても綺麗な花ですよ。あなたを飾るのにふさわしく、私の色彩と一緒だという点においても、大変光栄ではありました。
ええ、本当に、何も悪くはありません。あれが断崖絶壁に、しかも氷点下の夜しか咲かない花だということを除いては。
魔王さま。あれを採取するって、場所が場所なんでドラゴンの助けがないと無理なんですよ。でもご存じかとは思いますが、魔界のドラゴンって寒いところが大大大の苦手なんですよ。
もう本当にですね、嫌がるドラゴン達を食べ物でつったり宥めすかしたり、ドラゴン用の豪華で暖かな衣装を用意したりと、余計な仕事が増えて大変でした。主に私が。
しかもいろいろ忙しい合間を縫って、私自身で採取に行きましたからね。……え? いえドラゴン達がですね、おまえも一緒に行くのであれば行ってやる、ということで最終的に頷いてくれたんですよ。自分達に大変なことを頼んでおいて、一人だけ暖かい場所でぬくぬくするのは許さんぞ!という鋼の意志を感じました……結婚する前に凍死しなくて良かったです、本当に……。
まあ、そんなこんなで苦難を乗り越えて今夜を迎えることができたんだと思うと、なかなか感慨深いものがありますね。
これでようやく私の望みが……って、あの、魔王さま、魔王さま。
青い顔で『お飾りの妻』とか『おまえを愛することはない』とかぶつぶつ言ってますけど、大丈夫ですか。
私はあなたをお飾りにする気なんて、まったくありませんよ。……また涙目になっていますが、泣いても駄目です。ここで逃げられたら、私の方が泣きそうです。
だからそろそろ、覚悟を決めて下さいね。
……
……
……
おはようございます、魔王様。あなたの僕、ラウルです。
……あの、いきなり頭から布団をかぶるのは止めて下さいませんか。
わしを好きでもないのに、おまえは酷い男だ?
……ええと、何か多大な誤解があるようですが、私、あなたを好きだってちゃんと意思表示しましたよね?
そんなの知らない!って……あの、急に布団を跳ねのけると色々見え……魔王さま、今度はくるくる巻いて巻き寿司みたいになってますけど、苦しくないですか。そこまでしなくても見えませんよ。
わしを好きなんて聞いてない? ……いえ、まあ確かに、好きだと言葉にしたわけじゃありませんが、でも私、あなたが人間界に飛び出して行くときに魔石を贈りましたよね。通信用だと言って渡しはしましたけど、あの石の色を見て何も感じなかったんですか。
……緑だ! ラウルの目の色だ! って今さらびっくりしているようですが……え、嘘でしょう。だって単に通信するだけなら、あんな高品質な魔石なんて、まったく必要ないじゃないですか。あれ国宝級の一品ですよ。まさか、純粋に通信用だと思ってたんですか!? 今の今まで!? ……私はあなたにびっくりです。
だいたい私、事あるごとに『あなたの僕です』と伝え続けてきたじゃないですか。
あれは魔王の配下という意味じゃないですよ。私はあなた自身に跪きます、という意味ですよ。
そんな意味だったのか!? って、そうですよ。……本当に、私の想いはまったく伝わっていなかっ……って、何、いきなり枕の下からペンダントを取り出してるんですか。それ、いつの間に忍ばせてたんですか。というか、そのインチキ商品、まだ捨ててなかったんですか。
願いが叶ったからインチキじゃない!って……え? まさか、あなたが言っていた片思いの彼って……え?
……
……私の顔が赤い、って、それはそうでしょう。私だって、照れることくらいあるんですよ。
また涙目になってますね、魔王さま。
フゥ、フゥって……泣きながら、無理に高笑いしようとしなくて結構です。息切れしたみたいになってます。
フゥーハハハ、わしの魅力をもってすれば当然よ!って、結局高笑いしないと気が済まないんですね……でも、あなたのそんな嬉しそうな顔を見ると、私もとても幸せな気持ちになりますよ。
あなたのその笑顔に、今ここで、改めて誓いましょう。
この命が尽きるまで。
私はずっと、あなただけの僕ですよ、魔王さま。