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第三夜 魔王さま、潜入する!(終わりなき呪文を唱える男)

 こんばんは、魔王さま。あなたの(しもべ)、ラウルです。


 あなたの方から連絡してくるなんて、珍し……え、何ですか。何をいきなり怒ってるんですか。


 おまえのアドバイス通りにしたら、ブクマが減った?


 ……ああ、確かに減ってますね。3件だったのが、1件になってますね。……つまり、唯一の生き残りである私のブックマークということですね。

 えっ? 雑音が入って、よく聞こえなかった? ああ、また通信用魔石の調子が悪いのでしょう。気にしなくていいですよ。世の中、知らない方が幸せなこともあるものです。


 うん? 急に悲し気な顔をして、どうしたんですか。


 この最後のブクマが散るとき、わしも死ぬのだ?

 ……お言葉ですが魔王さま、ブックマークにそんな殺傷能力はありません。


 魔王さま、オー・ヘンリーを読んだんですね。『最後の一葉』ですね。魔王さまにしてはまともな本を選びましたね。

 え、短いからするする読めた? そうですか、そうですか。私は今、なぜ短くぎゅっとまとめる技を盗んでくれなかったのかと本気で思っていますよ。


 それにしても、そうですか。私のせいでブクマが減ってしまったんですか。

 ……なんでしょうか。今ですね、私、非常に、とても、ものすごく、理不尽な思いでいっぱいなんですが、それはちょっとだけ横に置いて、とにかく一緒に魔王さまの小説を確認してみることにしましょうか。


 ええと、まずそうですね。バトルシーン(と魔王さまが言い張る擬音の羅列)が、10ページから9ページに減ってますね。私、確かに擬音を減らせと言いましたが、こういうことじゃないですね。上手く伝わっていなかったことが、非常に悔やまれてなりません。

 それから、相変わらず地の文もないですね。戦闘シーンが上手く書けないからといって、すべて擬音で埋め尽くすのはいかがなものかと……うん、何ですか? すべてじゃない? ちゃんと9ページ目の最後を見ろ? ……デッデデデーンぽっくりですか。……え、違う? その後?


 ああ、なるほど。確かに、一文だけオマケのようにありますね。


【──壮絶な戦いだった。】


 これは(まさ)しく、私の気持ちを代弁するような締めの言葉です。

 正直、私、途中で30回くらい読むの止めようかと思ったんですよ。……え? いえ、3回じゃないです。30回です。前回の10ページでダメージを食らったところに、追加の9ページ! 眼精疲労との壮絶な戦い!


 でも私、頑張って最後まで読みましたよ。なんという(しもべ)の鏡でしょう! 自分で自分に拍手したい気分です。

 魔王さまも、私の献身をちょっとは覚えておいておいて下さいね。そうじゃないと、頭痛、眩暈、吐き気、その他もろもろの諸症状に耐えて、累計19ページものダッダッダダーンバキィッドドーンを読破した私があまりにも報われません。


 ところで、魔王さま。私、前から気になってたことがあるんですが、ちょっとお聞きしてもよろしいでしょうか。

 あなた前に、小説で人間を洗脳するとおっしゃってましたよね。コレでどうやって? という疑問が、もう消しても消しても浮かんできて仕方ないんですが、そこのところ、どういう目算があるのかちょっと教えていただけますか。


 ……えっ?『魔王の強さ』と『魔界の素晴らしさ』を人間に刷り込みする?

 …………コレで?


 ああ、いえ、すみません。疑問が消えるどころか、より一層謎が深まってしまいましたが、あなたの趣旨は理解しました。大丈夫です。無茶なこと言ってるなーとは思いますが、とにかく趣旨だけは理解しました。


 貴様は何もわかってない! って、また急に怒り出しましたね。

 わしは緻密な計算の元にこれを書いたのだ、ですか。魔王さま、もしかして『緻密』という言葉の意味を間違って覚え……聞いて驚け、フゥーハハハ!って……このポンコツ、また人の話を聞いてないですね。この状態では、黙って話を聞くしかなさそうですね。

 わかりました、魔王さま。それで、どんな驚くべき話を聞かせていただけるんでしょうか。


 わしは見た、終わりなき長き呪文を唱える男を?……倒置法ですね。倒置法を覚えたんですね。覚え立てのものを使ってみたくなる気持ちは、私もちょっと分かりますよ。

 それで、大勢の人間がその男の呪文に聞き入っていたんですか?……なるほど。それで魔王さまは、その手法が使えるんじゃないかと閃いたわけですね。


 でも、おかしいですね。現代日本に魔法を使える人間なんて、存在しないはずなんですよ。魔王さまが滞在するにあたって、これでも私、この国のことは一通り調べたんですよ。いくらお強いとはいえ、あなたの身に何かあったら大変ですからね。

 それにしても、呪文を詠唱していたという謎の男が気になりますね。申し訳ありませんが、もう少し詳しくその話を聞かせてもらえるでしょうか。


 ……

 ……

 ……


 ……ええと、今の魔王さまのお話を総合しますと、つまり『何やら特別な衣装を纏った男が』『大勢の人間に背を向けて』『魔王さまの足が痺れるくらい長い間』『訳の分からん呪文を唱えていた』ということでよろしいですか。


 魔王さま、それは『お経』です。

 あなた、なんてところに紛れ込んでるんですか。それは人間が死者を弔う場で……え、周りの人間も黒い服だったから溶け込めた? ……

 ……魔王さま。あなたまさか、その魔王の衣装で行きました?


 わしから滲み出る威厳のせいで、(みな)遠巻きにしておったわ! って……ああ、なるほど。目に浮かびます。魔王さまの周りだけ、爆心地のように空間ができている様子が。

 よく入口で止められませんでしたね。変に刺激したら暴れ出すと思われたのかもしれませんね。

 

 周りの人間が『大往生』とか『ぽっくり』とかひそひそ話してたんですか。なるほど……ぽっくりはそこから拾ってきたんですね。どうやら非業の死を遂げた人じゃなかったようで、そこだけはちょっぴりホッとしましたよ。

 ですが魔王さま。それは人間にとって、悲しみを伴う儀式です。そんなところに紛れ込むのは、二度とやっては駄目ですからね。……まあ、魔王相手に常識を説くというのも、非常にシュールではありますが。


 うん? 何ためいきをついてるんですか。

 バトルものは駄目だ? またいきなり乱暴な答えを導き出しましたね。いえ、魔王さま。バトルものは駄目じゃないですよ。あなたの書いたバトルもどきが駄目なんですよ。


 でも、そうですね。バトルものは難易度が高いので、次は魔王さまの身近なことを書いてみたらいいんじゃないでしょうか。

 ……え、それなら日本のことを書いてみる? ああ、良いと思います。縁あってその地に住んでいるんですからね。ええ、はい、日本が舞台ならバトルシーンも無さそうですし、私の目のためにも大変良いと思います。


 ところで魔王さま。

 前回はあなたに途中で逃げられてしまいましたが、私、あなたに話しておかなきゃいけないことがあるんですよ。そろそろ魔界にお戻りいただいてですね、あなたの──……


 ……えー、今ですね、急に魔石の映し出す映像が消えて真っ暗になりましたが、布か何か被せました? ……マント? ああ、魔王さまのマントですね。逃げようとしたくせに、うっかり返事をしてしまうあたりが魔王さまですね。


 え、逃げようとしたわけじゃない? 貴様が無駄に美形だから腹が立って被せた?

 ……魔王さま、言い訳にしても苦し過ぎます。


 ええとですね、声はちゃんと聞こえてるらしいので釘を刺しておきますが、その魔石、捨てたり失くしたりしないで下さいね。捨てたら私が直接乗り込んで行くだけですからね。

 ……それ、魔王さまのために用意した最高級品なんですよ。

 絶対、捨てないで下さいね。捨てたら私、泣きますよ。

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