第ニ夜 魔王さま、擬音に目覚める!(これぞ斬新な表現力)
こんばんは、魔王さま。あなたの僕、ラウルです。
あなたがどんな環境で暮らしているのか気になって、今夜は会いに来ましたよ。
魔王が暮らすにしては、なんともボロ……いえ、趣のある建物ですね。
え、アパートの管理人さんが良い人だ? 手作りオハギがそれはもう絶品だった?
……あなた、なに餌付けされてるんですか。人間界を支配する前準備として『愚かな人間どもを洗脳』するんじゃなかったんですか。
洗脳の準備もちゃんと整っておるわ!って、何だかいつにも増して自信満々なお顔ですね。……えっ、三日で3万字も書いたんですか!? 初心者なのにすごいじゃないですか、魔王さま。
わしにかかればちょろいものよ!って、あなた、ちょっと褒めるとすぐ調子に乗るんですよね。あまり調子にのっていると足元を掬われ……十話分を一挙に更新するぞ、フゥーハハハ!って……このポンコツ、ぜんぜん人の話を聞いてないですね。
魔王さま、魔王さま。小説の話はともかく、ここで高笑いをするのは止めましょう。このボロ……いえ、趣のある建物、とても壁が薄そうですから。
ところで話は変わりますが、魔王さま。
前回言い忘れましたが、私、魔王さまの不在があまり長く続くのは良くないと思うんですよ。大魔王様も未だに帰って来ないし、私ひとりで可哀相だと思うんですよ。一体いつになったら魔界にお帰りいただけ……え、何ですか。ちょっとコンビニで牛乳買ってくる?
こんな夜に、一人で出掛けて大丈夫でしょうか。あの方、見た目は黒髪美少女なんですよね。中身はポンコツですけど、見ただけじゃそんなの分かりませんからね。僕としては、ちょっと心配で……心配……心配することないですね。あの方、ヒグマが相手でも余裕で倒せますもんね。脆弱な人間の男なんて、魔王さまにとっては羽虫みたいなものでしょう。
……それにしても、かなりあからさまに逃げ出しましたね。まあ、人間の洗脳なんて建前で、本当は魔界から逃げ出したかっただけなのは分かってましたが……あの様子では、まだ連れ戻すのは無理そうですね。
今夜のところは、説得は諦めましょうか。無理に連れ戻しても、あの方、また逃げそうですしね。……そうそう、魔王さまが帰ってくるまでに、この小説に目を通しておきましょう。
……
……
……
……お帰りなさいませ、魔王さま。
あの、ちょっと質問してもよろしいでしょうか。
何でも遠慮なく訊くがよい? ……そうですか。それでは、遠慮なく。
これは、いったい何ですか?
え、バトルシーンを書いた?
ああ。そうですか、そうですか。
私もですね、ひょっとして、もしかすると、これは、戦っているシーンだったりするのかなーと、思ったり思わなかったりしたんですが。
いや、あれですよ、魔王さま。
一挙に十話更新! と聞いて、ああ、魔王さま頑張りましたね、と思いながらページを開いたらですね、
【ゴゴゴゴゴゴゴッカキンッカキィーンズドッボスッダッダッダダーンバキィッドドーン】
こんなカタカナの羅列が、ページをびっしり埋め尽くしているんですよ。いいですか。一行じゃないですよ。ページ全面がこれなんですよ。
あ、表示がおかしくなってるんだな、と思うじゃないですか。
だから私、次のページへ行ってみました。次のページも同じでした。
ふざけてるのかと思いました。むしろ、ふざけるなと思いました。
……え、ふざけてない? 同じじゃない? いえ確かに、途中からかなり雑になってましたね。9ページ目の終わりなんて、デッデデデーンぽっくりで終わってましたものね。
ぽっくりって何ですか。ここで誰か死んだんですか。しかもなぜ、ここだけひらがななんでしょうか。
響きと字体が可愛いから入れた? ……魔王さま、戦闘シーンに可愛さを求めないで下さい。
考えるのがものすごく大変だった、って、まあ、それはそうでしょう。10ページ全部これでしたものね。10ページこれで埋め尽くすのは、さぞや大変だったでしょうね。嫌がらせのように、改行ひとつありませんでしたし。
いいですか、魔王さま。訳がわかりません。
もう一度言います。まったく訳がわかりません。
……えー、たった今ですね、信じられないことに、魔王さまの口から『おまえのアドバイス通りにしたのに!』とのお言葉をいただきましたが、一体どのあたりが私のアドバイス通りなんでしょうか。私、こんなトンチキなアドバイスしましたか。
おまえが戦いの描写を入れろというから研究した? ……うん、なるほどなるほど。いったい何を研究したのか、非常に気になるところです。
もしかして魔王さま、参考に漫画しか読んでないんじゃないですか。だってあなたの戦闘シーン、漫画から擬音だけ抜き出したみたいじゃないですか。ちゃんと小説も読みました?
ギクッという顔をしないで下さい。え、小説も読んだ? それ、何ていうタイトルでしたか。
『三国志』? ……
……『三国志』ってこんな話でしたっけ?
魔王さま。あなた、ちゃんと『三国志』読んでないでしょう。『三国志』にデッデデデーンぽっくりなんてシーン無いでしょう。適当なことを言ったら怒られますよ。
読んだ? 読んだと言い張るなら、私にあらすじを教えて下さい。
わしに訊かずに自分で読め? ああ、やっぱり読んでないんですね。
長いからまとめるのが大変なのだ、って、それなら、ざっくりとでいいですよ。……目が泳いでいるようですが、読んだならどんな話かくらいは言えますよね。
男達が熱い戦いを繰り広げる話? ……ざっくりとし過ぎです。ずいぶん雑にまとめましたね。あながち間違ってもいないのが、絶妙に腹立たしいですよ。
いいですか、魔王さま。
擬音を使うなとはいいません、減らして下さい。斬新な表現なのだ!とか、どうでもいいです。ぐだぐだ言わずに減らして下さい。斬新すぎて人間はついて行けません。なんなら私もついて行けません。
後ですね、地の文が一行もないのはどうかと思います。
分かりましたか、魔王さま。投稿するのは、今言った2点を直してからにして下さい。いいですね。絶対このまま投稿しちゃ駄目ですよ。
……また涙目になってるようですが、今夜は私も涙目ですよ。とにかく目が疲れ過ぎて。