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第1章 メジャーインターナショナルアカデミー

本小説の原本は自分がポルトガル語で書き、現在自分で和訳しております。文法や方言に問題がありましたら、指摘を大歓迎いたします。なお、小説自体が完全に書いているため、内容については対応できない場合がございます。


日本語(または標準語)でない言葉は、後書きの用語解説で載ってあります。

エリザ=トンプソン



 高校生活の初日は、それまで経験してきたこととは全く違うものになるだろうと、すでに思っていたのなら、今は確信を持ってそうだと言えるようになった。

 すべての始まりは3月のある土曜日だった。確か3月31日だったかしら…まぁ、日付はどうでもいいわ。重要なのは、その運命的な日にわたしと百人もの生徒たちはわたしたちの未来の学校・ワールドアカデミーの門の前で締め出されたことだ。ワールドアカデミーは『中間地帯』みたいな、北大西洋の真ん中あたりに浮かぶ、五芒星の形をしていることから『STARアイランド』と名付けられた島に建設された。その学園は全寮制の寄宿学校で、全世界の生徒たちを受け取っている。正しくは、受け取るはずだった。なぜならこの門は、その向こうにあるすべての建物を焼き尽くした火災の後に残った唯一のものだったからだ。

 正直なところ、あの時のことは今でもよく解らないわ。知っているのは、バスがわたしたちを空港から学校跡まで運送した速度とほぼ同じ速度で、そのバス自体がわたしたちを島中のホテルで泊めさせた、ということだけだ。予約してくれた部屋に着いたのは夕方で、同室してくれる人は誰もいなかった。まるで難民、いや、囚人のような気分だった。しかも、その理由も分からないまま。

 当然、それ以上に驚いたのは、翌日の朝一番に、私の部屋のドアをノックした時のことだった。

 「ミス・トンプソン?」

 そう、それはわたしのことだった。エリザ=トンプソン、14歳、イギリス・ロンドンで生まれた女の子。長く暗い茶色の髪、緑色の瞳、人相に特筆すべき点はない。典型的なロンドンレディだわ。

 待ち構えていた得体のしれないスーツ姿の男に、すかさずドアを開けた。彼は素早く「おはようございます」と不愛想な声で挨拶してから、指示書らしきものを書いた紙を何枚か手渡した。

 「30分以内に荷物をまとめて入口ホールで待機してください」あの人が言った。「皆様はメジャーインターナショナルアカデミーに転校することになりました。入学式は午後1時から行われます」

 男は私に「はい」とつぶやく暇も与えず、来たときと同じように去っていった。手元にあった数枚の紙に目を通した。そこには、制服、行動規範、私の学級、時間割など、学園に関する基本的な情報やルールがいくつか書かれていた。だが、あまりに変な話だったので、処理しきれなかったわ…。

✴✴✴

 新しい学校へ向かう途中、到着してすぐに着るべき制服を受け取とった。どうしてサイズが分かったのかは聞かなかったが、この転校は思ったほど急ぐものではなかったような気がした。これか、それともこの裏に何かとても深いものがあるのか…。

 入学式が行われる講堂近くのトイレで着替えをする列は、とんでもないことになっていた。正直、ホテルを出る前に制服を渡してくれてもよかったのでは…!

 イギリスでも高校で制服を着ることは決まっていたのだが、この学校では制服を着ることはないだろうと思っていた…。でも、それは勘違いだった。制服は、ミッドナイトブルーのプリーツスカート、白いワイシャツ、その上に同じく白いベスト、そしてスカートと同じミッドナイトブルーのブレザーである。ブレザーの左側には学園のロゴマークが描かれていた。つまり、黒い紋章に白でMの文字が縫い付けられ、その下に学校名が帯状に配置された。さらに、ミッドナイトブルーのネクタイ(この色合いはなんだろう)と白い靴下が制服の一部で、茶色の靴まで付いていた。

 式の開始を告げる最初のチャイムが鳴ったとき、私は急いで空いている席を探した。結局、一番前の席になった。その席に座りたがる人がいないのは予想できるものね…。

 「このたび、我が学園・メジャーインターナショナルアカデミーに皆様をお迎えすることができ、皆様にご挨拶できることを大変光栄に思います。私はこの学園の学園長、ハレフ=トゥマンガーと申します」と、学園長は話し始めた。「皆様は、この24時間の間に何が起こったのか、気になっていることでしょう」

 客席にざわめきが起こった。そう、それはまさに誰もが気になっていたことだった。

 「残念ながら、今週の木曜日から金曜日の未明にかけて、ワールドアカデミーでちょっとした事件が起きてしまいました。それ以来、WAの学園長は、WAの生徒を受け入れることができるかどうか、我々と連絡を取り合っていることになっていました。やはり、皆様を授業がないまま放置しておくわけにはいきませんからね」

 とんでもないです、授業がなくても大丈夫でした、ありがとうございました、というような発言も聞いたが、納得がいかないわね。きっと勉強が嫌いな人だったんでしょう…。

 「昨晩はご迷惑をおかけしましたが、まだ皆様の受け入れ準備が整えていませんでした。皆様は入学の際の注意事項を受けたと思いますが、困りごとがありましたら遠慮なく申し出てください。ただし、その前に皆様に説明しなければならないことがございます」

 学園長が咳払いをすると、にこやかな表情から一転して真剣な表情になった。何かとても大きなことが起ころうとしている、そんな雰囲気が伝わってきた。

 「MIAはただの学園ではありません。このことは一切公表していませんが、この学園は、新しい世代を通じて世界の国々を統合することだけを目的に造られました。つまり、ここにいらっしゃる国籍の違う300人の生徒のうち、194人がそれぞれの国の要人の子息・子女なのでございます。周りを見てご覧なさい!アメリカ大統領のお子さんの隣に座るなんて、想像できますかね?」

 学園長の言葉は、すぐに観客に影響を与えた。私と同じように、多くの人がお互いの顔を見合わせるようになった。しかし、中には動かない人もいたの。ということは…。この「要人の子」が誰なのか、もう判っているような気がした。

 「遥かなるこの島での学園同時建設の際に保たれた絆のおかげで、私どもの理想を共有し、互いに平等と敬意をもって接することを条件に、あなた方の入学を許可いたします。誰一人、あなたに対して優越感をもって行動することはありませんし、私どもの意図を外部に漏らさないことだけをお願いします」

だから、周囲にスーツやサングラスをかけた男性が多いのだろう。彼らが見えなくなり、その存在に気づかなくなるとは思わなかったが、その瞬間、私はFBIに監視されているような気がした。アメリカ人どもめ。

 「簡単に識別できるように、本日より世界各国の代表生徒は襟元にそれぞれの国の国旗をあしらったピンバッジを着用し、これがあなた方との唯一の違いとなります」

 隣の人たちをこっそり見てみた。思った通り、ピンバッジはついていなかった。

 「そして、現実的なところでは…ここにいる全員がほぼ同年齢で高校1年生に在籍しているので、我々の仕事は少しやりやすくなりましたね」

 学園長は無理に笑ってみせたが、一緒に笑った人はほとんどいなかった。学園長、もうちょっと頑張ってみて、それだけで打ち解けられないよ?

 「学級はこの順に、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニア、アフリカの5つのレベルに分かれています。それぞれ3つの組に分かれており、自分がどの組に属するかは、もうお解りでしょう。そのために、私どもは勝手にあなた方の成績表を調べさせていただきました」

 プライバシーの侵害という感覚を無視して、手元の指示書に目をやった。じゃあ、『アジア1組』って、そういう意味だったの?まあ、成績が良かったからこそ、勉強した甲斐はあったわね。

 「基本的な時間割はすでに埋まっていますが、そのうち、カリキュラムを補完するための追加授業を選択できるようになります。すでにお気づきのように、授業は完全に英語で行われます。ただし、文法と文学の授業は、本学園の計画により、皆様の母語で行われることになっていることをお伝えしておきます。シラバスに明記されていない場合は、ご相談の上、他の言語を選択していただく必要があります。ご不便をおかけいたしますが、すべての言語に提供できかねますのでね」

✴✴✴

 しばらくして、私は指摘された場所へ行き、女子寮の2階(わたしに聞かれたら、あれは1階だが…)の206号室のドアに新しくつけられた看板を見つめていた。その看板には、部屋を同居する3人の名前が記されていた。短期間にこれだけのベッドを置くのは、さぞかし骨が折れたことだろうと思うが、世界のトップクラスと聞いては、もう何も驚かない。

 1人目の名前は、明らかにわたしが正しい場所にいることを示す「エリザ=トンプソン」であった。2人目の名前は「マグダレナ=ビュッヘル」だった。どんな子なのか、想像もつかない。表示された3人目の名前は、「黒側(くろがわ)幸子(さちこ)」である。この子もどうなのかわからなかったが、少なくとも日本人であると推測はできた。

 「えっと…すみません…ここが私の個室ですので、その…入らせてもよろしいでしょうか?」

その声の主は、金髪をかなり短くした、緑色の瞳をしたちょっと背の低い華奢な少女だった。髪には青いリボンを結び付けていた。彼女はわたしと同じ制服を着ていたが、わたしと一緒に勉強することは天才でなくとも推察できた。

 「実はここはわたしの個室でもあるの」とわたしは微笑みながら言った。看板を指差した。「あなたはどちらさま?」

 「私はマグダレナ=ビュッヘルと申します。これからも何卒よろしくお願いいたします」と言いながら、スカートの裾を軽く持ち上げてカーテシーをした。ずいぶん堅苦しい子ね、マグダレナは…

 「わたしはエリザというの。よろしく」

 マグダレナは看板を見てから話を続けた。

 「ミス・トンプソン、メジャーインターナショナルアカデミーへようこそおいでくださいました」マグダレナは軽いお辞儀しながら言った。

 その話しぶりから、背筋を伸ばしたときについ襟元を見てしまったのだ。そこには、ある国旗の…リヒテンシュタインのピンバッジがあった。こういう時、地理の授業はありがたいものね…。

 「エリザと呼んでいいわ、構わないから」緊張を隠すようにわたしは言った。

 でも言うべきではなかったのかしら。マグダレナは顔を真っ赤にして、どもり始めた。

 「し、しかし…!出会ったばかりですし、私にはとても…!Das ist unangenehm…」

 これ以上恥をかかないように、わたしは部屋のドアを開け、マグダレナも中に入れました。ベッドが3つ、ベッドサイドテーブルが3つ、タンスが3つ、机が3つ、それぞれ別のコーナーにセットされている美しい部屋だった。中央には、洗練された3脚のアームチェアとコーヒーテーブルが、ふかふかの長い絨毯の上に置かれている。ベッドのないコーナーには、専用バスルームにつながるであろうドアがあり、その横にはほぼ空っぽの本棚があった。部屋全体が美しい美術品や小物で飾られ、寮の入り口にある庭を見下ろす窓があった。誰かがとんでもないことをしていたのだ…。

 マグダレナに先にベッドを選ばせることも考えたが、ドア前の混乱もあって、そのまま単純にそのうちのひとつに身を投じた。私のベッドはドアの右側で、マグダレナは窓の左側のベッドになった。窓の右側のベッドは幸子のものになりそうだ。

 「はいたい、ルームメイトたち!」

 明らかに幸子とほかならない少女がドアの前に立っていた。かなり長い髪で、強烈な黒髪だった。瞳はこげ茶色で、恵まれないエリサやマグダレナを揉みくちゃにするほどのかなりの巨乳だった。彼女も制服を着ていたが、わたしと同じように、ピンは付けていなかった。

 簡単に自己紹介をしたところ、幸子は確かに日本人であり、マグダレナは私が思っていた通り、リヒテンシュタインの首相の一人娘であることが解った。ヨーロッパの国旗に関する知識は、今回裏切られることはなかった。この調子で世界の国旗を覚えていけたらと願うばかりだが…。

 自己紹介を終え、とりとめのない世間話をした後、翌日の登校初日を楽しみに眠りについた。

✴✴✴

 朝食がとにかく素晴らしかった。世界中のどの国の料理でも選ぶことができ、どんなものでもいいから、その場で作ってくれるというのは、この学校の想像をはるかに超えるものだった。まあ、確かにお金はかかるし、すでに用意されている料理より高いのだが…。でも、食堂を含むこの島のどの施設でも使えるデビットカードが配られていて、毎週財務局からチャージされることになっている。この金額は学費に含まれているのだろうか、それとも両親に何らかの請求書が送られるのだろうか。でも今はそれを問うている場合ではないのだけどね…。

 朝食のテーブルには、私と幸子とマグダレナの他に、後者の友人であるカミーユ=レスペランスとアドリエン=キラーイもいた。カミーユは茶色の髪をポニーテールに結び、大きな赤いリボンをつけていた。瞳は髪と同じように茶色で、肌はちょっと褐色だった。カミーユはセーシェルの副大統領の娘で、制服の襟元にマルチカラーの国旗をあしらったピンバッジをつけていた。

 一方、制服のブレザー以外を着ていた(そう、制服は全件着なくていいの)アドリエンは、明るい茶色のウェーブのかかった長い髪をしていた。彼女の瞳は緑色で、髪が目に入らないようにサイドで留めている金色のクリップとよく似合っていた。アドリエン はハンガリーの首相の娘だが、王族になりきることは十分に可能だった(ハンガリーに王族がいればの話だが)。

 わたしは、ほとんどささやくような口調で、明らかにわたしたちが置かれたクレイジーな状況について神経質になりながら、「こんなことが起こるなんてまだ信じられない…」と言った。

 「安心して、エリザ」アドリエンは微笑みながら言った。「私たちは噛みつかないから」

 「皆さんについて言い切れないけど」カミーユは付け加えた。「ここに目つきだけであなたを焼き尽くそうとするような男子もいるんだよ…」

 わたしたちは笑ったが、カミーユの言ったことは確かに心配するようなことだった。この子たちのように、ここにいるみんなが優しさを持つことを期待することはできない。何しろ、 権力者の思春期の子供たちの話なのだ。ここにいる何人が高慢なのかしら?

 アジア1組での最初の授業は数学で、幸子と一緒だった。幸子は、日本で言うところの『元気ガール』だった。いつも生き生きとしていて、彼女も天才の一人だなんてわたしは断言できないでしょう。まあ、わたしもこの組に入るイメージはなかったから、誰が何を考えて組を分けたのかは解らないが…。マグダレナ とアドリエンはヨーロッパ2組、カミーユはアフリカ1組だったので、朝食の席で別れを告げました。

 「幸子、先に行っててくれる?」と、二人きりになった時に言った。「紅茶を飲んでから行くわ」

 「しむん!いいよ、エリサちゃん!」マグダレナと違い、幸子はわたしを下の名前で呼ぶことに抵抗はなかった。「遅れないようにして、ね?」

 わたしは頷いて、紅茶の置いてあるテーブルに向かった。幸子英語があまり得意ではなく、たまに日本語(特に自分が喋った方言のうちなーぐち)で言葉を漏らすことがあった。授業中に何か問題が起きなければいいのだが…そうでなければ、幸子を助けるのはわたしの役目になってしまうだろう。

 カウンター近くの紅茶やコーヒーなどの飲み物専用のテーブルに着くと、ピンクの花が描かれた磁器のカップに目を奪われ、見入ってしまったのでしょう、気がつくと後ろに人がいたの。

 「紅茶を注がないのなら出て行け」

 話しかけた少年は金髪で、きれいに揃えられたヘアスタイルに、不気味なほど鋭い緑色の瞳をしていた。スカートの代わりにミッドナイトブルーのズボンを穿いている以外は、ほぼ女性用と同じ制服を着ていた。ベストはネイビーブルー、つまりブレザーよりも明るい色だった。

 正直なところ、この学校は制服の選択肢が豊富だった。制服を渡されたとき、ベストが青、白、ベージュから選べることを知った。さらに、同じ色のセーターもあったんだ。カミーユによると、制服を着る一番の理由は、裕福でない国から来た人たちに対する偏見を避けるためだそうだ。学校がファッションショーになってしまったら困るからね。さらに、特定の文化では専用かつ必須衣服もあって、そこまできたらここがめちゃくちゃ大変なことになるわ…。

 「レディに対して失礼な言い方だわ」とわたしは言い返した。

 「レディ?レディというのは、使い古されたババーのこと?」

 「誰がそんな意味でレディを使うの?まあ、あなたのような人だったらあり得るね」わたしは紅茶を注ぎながら言った。

 「俺のような紳士はそんなことは言わないぞ」

 「紳士?どこが?だって、わたしの知る限り、それを言ったのはあなたでしょう」

 「バ、バカか、お前は!そんなんだからお前たちを俺たちの学校に入学させるべきじゃなかったんだ!」

 「紳士道精神ゼロね…」わたしは紅茶を一口飲んだ。「ちょっと待てよ、俺たちの学校って言ったの?どこの教養のない国から来たんだ?」

 彼は舌打ちをした。

 「教養なき国は、真の紳士を見分けることもできないお前の出身国なんだぞ。一度しか言わないから、ちゃんと覚えるようにしろよ。俺の名はチャールズ=ドイルだが、お前は俺のことをサー・チャールズ=ジェイムズ=キャメロン=スチュアート=ドイルと呼べ」

 その場の勢いで、あのバカとアイコンタクトを途切れさせないように(それは敗北を意味するので)、彼の襟元のピンバッジを見るだけでよかったことを忘れてしまったのだ。だから、そうしたんだ…

 …そうしたらその結果には、ちょっと驚かされた。実は、「なぜもっと早く気づかなかったんだろう」という思いと、深い落胆が入り混じっていたように思うんだ。

 自国の代表が無礼な大口を叩く者に泣くべきか、自国を無教養と言ったことに笑うべきか、私には判らなかった。私もやっていなかったわけではありませんが、とにかく…。

 「他人の国を侮辱する前に、よく考えるべきものよ?だって、わたしの国はあなたのと同じ国だから」

ピンバッジを見ずとも気づくべきだった。ドイルなんて、今どき珍しい名字だ。我が国の首相と同じ苗字であることは、この学校ならでは単なる偶然ではないだろう。

 もちろん、彼がわたしと同じイングランド人であるかどうかは判らなかったが、少なくとも襟元のピンバッジに英国旗があしらわれていることから、イギリス人であると主張することはできた。しかしながら、彼が実際にイングランド人であることを信じることはできた。だって、わたしのように紅茶を飲みに来たんでしょう?

 ちなみに、国そのものは『イギリス』か『英国』で、イングランドは自治区に過ぎず…まあ、そんなことを言っている場合ではないわね。

 「お、お前が…?」彼はショック状態に陥った。「いや!お前がイギリス人だなんて信じるわけないぞ!」

 「Hello、チャーリー!新しい友だちを作ってるんだい?」

 突然現れた別の少年が、チャー(サーなんて呼ぶわけがないわ!)の肩に腕を回してきた。ボサボサの金髪に青い目、黒枠の眼鏡をかけていた。青いブレザーの代わりに茶色のジャケットを着、ベストは褪せたベージュ、ネクタイは茶色。彼の制服はどうしたの?

 「ふざけるな、ロジャース!あれが友達になるなんて、百万年早いぞ!」

 今度は、私の目はまっすぐ彼の襟元に向いた。そこにはアメリカ合衆国の国旗があったわ…。道理で二人の間に緊張感が漂っているわけだ。

 「じゃあ、この子はだれ?」

 「俺に紅茶を飲ませない人間だ」

 「わたしの名前はエリザ=トンプソンだわ」私はロジャースという少年をじっと見つめ、チャールズとの接触を避けた。「よろしくね」

 「よろしくな、エリザ!オレはクラーク=ロジャース、この学園の、いや、この世界のヒーローさ!」

 「お前らバカは楽しめよ。俺は授業に出る」振り向こうとしたチャールズは、急に立ち止まり、再び振り向いた。「まさか、俺と同じ組になるんじゃないよな?」

 「もちろん、そんなことはないわ」私は胸を張って微笑んだ。アドリエンの説明によると、代表生徒たちはすでに自国の地理的位置によって分けられており(東南アジアの一部の国を除いて。アジア学級に生徒が多すぎることと、優秀な転校生のためにいくつかの場所を空ける必要があることから、領土が近いオセアニア学級に移動したんだ)なぜか私たちの場合はそうできなかったのだそうだ。わたしたちは、それがワールドアカデミーの仕組みに関係しているのではないかと考えていた。「わたしはアジア1組に所属しているの。天才の学級なんでしょ?」

 チャールズは怒りの感情を抑え、立ち去った。

 「天才がいるのはアジア学級かもしれないが、ヒーローがいるのはアメリカ3組だけで、and that’s me!組名がオレの国をモチーフにしたものであることは、天才でなくともわかるだろ!だって、オレがleaderなのさ!」

 クラークと彼の自慢話をほったらかしにして、最初の授業に向かったが、それがどこなのかさっぱり分からなかった。

 その途中、MIAの原級生は以前から知り合いだったのか、少なくともどのくらいの付き合いになっているのだろうかと考えた。ずっと前から友達だったような…。でも、今はそんなこと言っている場合じゃない。授業があるし、初日から遅刻はしたくないものだわ。

用語解説

うちなーぐち:沖縄弁で「沖縄弁」という意味。ちなみに、「うちなー」は「沖縄」を意味する。

しむん:うちなーぐちで「いいよ」という意味。

And that’s me:英語で「それが私」という意味。

Das ist unangenehm: ドイツ語で「これは不快だ」という意味。

Hello:英語で「ハロー」、つまり「こんにちは」という意味。電話の場合は、「もしもし」としても使える。

Leader:英語で「リーダー」、つまり「誘導者」という意味。

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