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竜狩りの物語第四十九話   獲物を狩る捜査

 新市長レナルドが、前市長の殺害を企てた疑いありとの報は間もなく獣人駐留軍司令部へと届けられた。


 人間市民たちの意思をまとめ上げる統治者さえいれば良しとしていた獣人軍であったが、その人物が欺瞞を用いる可能性があるとなれば話は別である。この当時の獣人たちは現代ほど人間が虚偽を操ることについて警戒していたわけではなかったものの、自分たちが騙されていたとなれば黙っても居られない。


「至急、レナルドを発見、身柄を拘束せよとのことだ。」


「彼は今日も、街じゅうを回って屋内の遺体回収作業を指示しているはず。」


 だが、レナルドの現在位置についての情報は錯綜していた。レナルドが同行して出発していった……とされる部隊を呼び止めても、そこに居た人間はレナルドではなかった。彼の代わりを頼まれて出てきたという、自警団員の生き残りが同行していたのである。


 獣人軍が誇る隠密部隊も至る所で出歩いている人間を見咎め次第身元を検めたが、レナルドの身代わりとなって獣人部隊に同行している自警団員しか見つからない。余程見慣れた人間でなければ同種の獣の顔を見分けられないように、似たような顔つきの人間を識別できる獣人は少なかった。


 既にレナルドは、自らに捜索の手が回ることを予見し、獣人たちを攪乱する作戦を実行していたのである。


 とはいえ得物を追跡する執念深さにおいては人間に劣ることのない獣人たちが、簡単に捜索を諦めるはずもない。彼らはレナルド自身のみならず、彼に関連のある人間たちを次々に連行、拘留していった。レナルドの身代わりとなって獣人軍に同行していた自警団員たちについては言わずもがなである。


 彼ら捜索隊の手は学院にまで及んだ。自警団員が吐いた情報によって、学院の用務員として雇われているポールソンが元自警団員であったことが明らかになったためである。


 そろそろ裏庭の手入れを再開しようかと園芸ごてで地表のコケを削っていたポールソンは、唐突に学院裏の生垣をバキバキと踏み越えて現れた獣人部隊に腰を抜かした。


「ポールソンだな、元自警団員の。聞きたいことがある、話しながらで良いからついて来い。」


「あの、しかし、自分には仕事が……」


「軍司令部からの指示だ、拒否は出来ん。」


 力尽くではなかったものの獣人兵士に肩を掴まれて立たされたポールソンは、相手からはほとんど力んでいる感覚が伝わってくることなしに軽々と自らの体重が持ち上げられていることに恐れをなし、それ以上の反論を口にすることは無くなった。


「レナルドのことは知っているか。」


「えぇ、はい、レナルドも元々自警団員です、俺と同じで……」


「今、奴の居場所は?」


「知るわけないでしょ、俺はずっと学院の裏庭に居たんだし。」


 ポールソンが抵抗する様子を見せないと踏んだ獣人兵士は、彼の肩をつかむのをやめて地面に降ろす。ポールソンは拘束具をつけられているわけでもなく、走り出せば逃げられそうな状況ではあったが、この屈強な獣人たちに囲まれた中でそれは思いもよらぬ行動であった。


 引っ張られるでもなく、背を押されるでもなく、唐突に歩を進め出した獣人たちに従うように、慌ててポールソンも動きを合わせた。いかなる拘束具よりも、彼自ら抵抗の意思が無いように獣人たちへ見せようとする怯えは勝っていた。


「レナルドについて、知っていることを全て話せ。」


「えぇと、どこから話したものか……」


「全てだ。」


「……レナルドは俺の少し後に自警団へ入った男です。団員時代はパッとしない奴でしたが、何かと立ち回りだけはうまくてですね」


 最後の団長、サベイからの信頼を何故か誰よりも強く勝ち得ていたのもレナルドであった。街の巡回任務においても他の団員と大差ない働きをしていたはずが、詰め所に帰ってねぎらいの言葉を団長から掛けられる役目を常に代表して引き受けていた。


「あの男、見てくれもそこそこ良かったですし。どうやってすり寄ったんだか、退団後にちゃっかりと市長の家の下働きとして雇われてたのを聞いても驚きませんでしたよ。」


「他には。」


「他……ですか。えーと……そうだ、妙な武器の練習を趣味にしてましたね。」


「妙な?」


「はい。こう……たわませた木の棒の、両端に糸を括りつけてですね。ピンと張ったその糸に、羽を付けた細い棒を引っかけて……こんな感じで、グッと引き絞ってから手を離すと、その細い棒が飛んでいくっていう……ともかく、見たことのない武器でした。あんな頼りない物に実用性あるのかは知れませんが。」


 ポールソンが奇怪なジェスチャーと共に紹介したその武器を知っている獣人兵士は居なかった。弓矢、と名付けられていたその太古の武器の姿が、獣人との戦の中で手放した人間たちの一般的知識から失われていたのと同様、若き獣人兵士たちの間にも知られていなかった。かつての戦争の頃を知る、老兵の記憶におぼろげに残されているばかりである。


 が、羽の付いた細い棒を飛ばすという部分に彼らは反応した。前市長や側近たちは、首元にそれを打ち込まれて倒れていたのである。


「その武器を、奴はどうやって得た。」


「自警団詰め所の武器庫だと思います、あそこには古い時代の武器防具が保管されてまして。獣人と人間との戦争以前に用いられていた、重い全身プレートアーマーなんかもあったんじゃないかな。」


「本部に伝えろ、自警団武器庫の内部に直ちに調査。そのような構造の武器が実在すると確認できれば、レナルドの容疑は明白なものとなる。」

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