第4話 魔族転生
先に言っておくと、作者が書いてる他作品とは全く関係ありません。
この邪神勢力の拠点で出来ることは多い。
いわゆるギルド的な組織で、依頼の発注から倉庫の管理からショップの経営までしてくれる。
中でも邪神勢力一番の目玉が、これ、『魔族転生』である。
簡単に言うと、魔物になれる。
これに対してカウンターの人に聞くと
「魔物は邪神様の眷属だからな、俺たちが邪神を信仰するからには人間のままの方が失礼ってもんだろ?」
的なことを聞けるのだが、ここら辺のセリフは前作と対して変わらなかった。
だがこれ、一定の貢献度を組織に捧げなければ、本来なら利用できないシステムなのだが……
「まさか、邪教の印が、一度限りの魔族転生券になるとは……」
「ロールプレイに近づけるわね、よかったじゃない」
クリアデータ読み込み報酬の邪教の印が、まさかの利用法である。
カウンターの店主に聞くと
「それを持ってるって事は、箱庭にあっても邪神様の信仰を貫いた太古からの家系って聞いてる。そんな存在が、人間なんて締まらねぇだろ?」
と、さも当たり前の様に言ってくるが、割と意味不明である。
邪教の印は、邪神勢力のプレイヤーのクリアデータを読み込むと入手できる特典だ。メタ的な視点が混ざるが、言ってみれば、前のキャラが二百年先に向けて遺したものとも取れる。
字面通りに受け止めれば、この邪教の印は、箱庭に行った人間達の中でも邪神の信仰を棄てなかった一族が持つもの、という意味なのかもしれない。
邪神と離れても信仰を捨てず、子々孫々にまで信仰が根付いてる……そんな存在に報いない訳がなかったという事か。
しかし、魔族転生サービスは一度だけ。
その後はちゃんと貢献度を稼いで転生する必要がある。あくまで邪教の印はサービスなのだ。
初回しか効果は無いし
「どんな感じ?」
「大狼………無いわね。人形魔族しか選べないみたい」
舞頼DOLさんの言うとおり、選択肢も限定されるようだ。
舞頼DOLさんは、前作では『大狼』という大きな狼のアバターを好んで使っていたので、落胆している。
まぁ、ボクは元から人形魔族にするつもりだったけど。
「あった!グール!」
「好きなの? アンデッド」
「グールって吸血鬼の眷属みたいな立ち位置なんだけど……アンデッドなの?」
「不死種族って意味では吸血鬼もアンデッドよ」
「そうなんだ」
聞いておいてなんだが、あんまり興味はない。
話をサラッと流して転生の準備に入る。
決める項目は3つ。
デメリットの設定と、補正値の振り分けと、職業の設定だ。
デメリットは文字通りデメリット。
何らかの不遇を受け入れる事で、補正値を上げる事ができる。
デメリットは怒りっぽくなるとかアルビノとかみたいな、ちょっとした特徴レベルのデメリットから、状態異常の永続化や身体欠損まで戦闘に致命的なデメリットなどが多種多様にある。
デメリットが重く、多い程に貰える補正値が高くなる。
次に補正値の振り分けだが、これは、種族的な補正値と、デメリットによって貰える補正値の合計分貰える特典のような物だ。
ステータスやスキルに振り分けると、ステータスを上げたり、スキルを追加で習得できたりする。
職業の設定は言うまでもないだろう。
何故冒険者ギルド的な場所でしないのか、という疑問もあるだろうが、簡単だ。
ここでしか邪神勢力専用の職業につけないのだ。
尚、攻略板を見た感じ、聖神勢力は普通に街の教会で簡単に専用職業につけるらしい。羨ましい。
こっちはダンジョンに潜って怪しいカフェに誘われて人外にならなきゃなれないのに。
………こう聞くとなんかヤバい事されてる気がするから不思議だ。
とりあえずデメリットは右目と右腕を捧げた。近接する気がないので問題なし。目はちょっと惜しい気がしたが、まぁいいや。
獲得した補正値は+250。
身体的なデメリットでは最高峰の欠損だけあって貰った補正値がヤバい。ちなみに種族補正値だけだとグールは50しか貰えないので、一気に200も追加で貰えたことになる。
振り分けは、適当に1に器用値、2に魔力、3に速度を上げる形で200使う。
器用値はボクのメインウェポンに不可欠なので。魔力は魔法使い故仕方なし。速度は完全に趣味だ。やっぱ戦闘はハイスピードの方が映える。
残りの50を使って、魔法『土魔法』を派生させて『鎖縛魔術』を開放させる。鎖ってカッコいいよね。厨二心が疼く。
最後に職業を『邪術師』に設定した。
デバフや状態異常を使う魔法使いの亜種なのだが、同じ方向性のスキル構成である聖神勢力の『祈祷師』と違って、ある程度の耐性貫通能力があるのが売り。邪神勢力と言うだけあって、ネガティブなスキルの精度が聖神勢力とは桁違いなのだ。
そうして、設定を終えて転生する事にする。
「じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。私はまだ迷ってるわ」
転生は一瞬だ。魔法陣に乗って瞑想するだけだ。
設定した項目が間違ってないか、何度か確認すると、深呼吸をして魔法陣の上に座る。立ったまま転生する人も多いが、自分は瞑想と聞いたら座るものだと思ってる。
そんな感じで魔法陣の上に乗って10秒程で、右腕と右目が腐り落ちた。もちろん感覚は無い。というか、あったら困る。
次に能力が上がる謎の高揚感の後で、確かに足場が固まったような安心感が来る。
職業が設定されたようだ。
大体15秒とちょっとくらいで転生は終わった。
「ボク、どんな感じ?」
「ん」
ちょっと逸る気持ちもそこそこに、舞頼DOLさんに聞くと、短い返事と共に手鏡を渡される。
こういうのを常備してるのを見ると、何気に舞頼DOLさんも女の子なんだなぁ、と実感するというか……。
とりあえず、手鏡を覗いて自分の姿を確認する。
そこには、色素の抜けた髪と赤い目に右腕が無い、右目を閉じた少女……のように見える少年。
うんうん、いい感じに厨二病な感じが最高だねって
「ボクの青髪青目ーーー!?!?」
「そうね。かませ色からの脱出ね」
「かま…っ! 舞頼DOLさん、いつもそんな事考えてたの!? 酷い!!」
ボクの渾身のキャラクリ(AIまかせ)がぁ!?
そんな事を思ってると死角からの追撃。まさかの裏切り。切れ味最高かよ。
「だって青がイメージカラーのキャラって言ったら負けヒロインしか思い浮かばないわ」
「偏見が酷い!? 青は凄いんだぞ! 母なる海の色にして、天に座す空の色なんだぞ!?!」
「参謀閣下、そんなに青好きだったの?」
そう聞かれると、こう答えるしかない。
「いや、別に」
…………沈黙が流れたのは言うまでもない。