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第86話 問い

 シュリンが仲間となったフール達は相も変わらずこの迷宮を彷徨っていた。進めば進むほど方向感覚が分からなくなり、アルとイルの心配以前に俺たちがしっかりこの迷宮から脱出出来るのか心配になってきている。一体どこが目的地になっているのか分からぬまま、5人が代わり映えのしない道を進んでいくと目線の先の道に部屋が出来ているのが見えた。遠くから見ても広いと思える程の空間がある事にセシリアは喜んだ。


「ねぇねぇ! あそこ、部屋じゃないかしら!? あそこへ向かえば新しい世界が広がっているはずよ! さぁ行くわよ!」


「あ! セシリー待ってぇーー!!」


 セシリアが勢いよく飛び出していったのを見て、ルミナがそれを追いかけていった。


「全く……不用心が過ぎるわよ。あなた、あの子達にダンジョンの歩き方とか教えてるの?」


 2人の様子を見て、シュリンが溜息交じりで言いながら、俺の方を見る。


「危険だからちゃんとクンクンしてから行けとは言ってるんだけど、時々忘れるからなセシリアは」


「クンクン?」


「うん、クンクン」


「はぁ……あなたって本当に……」


 俺の言葉でシュリンが今度は大きな溜息を漏らした。


「あはは……本当の事なんですけどね……」


 ソレーヌが愛想笑いでフォローを入れた。ともかく、俺たちは2人に続いて付いて行き、部屋の中へと入る。

 部屋の中は特にめぼしい物もなく、魔物の姿もない。目線の先にはセシリアとルミナが2人がへたり込んでいる姿があった。


「2人ともどうした!?」


 俺が急いで側に駆け寄ると、2人が突然叫びだした。


「どーーしてここまで来て行き止まりなのよぉおおおおーーーー!!!!」


「ふぇええーーーーーん!!!!」


 ああ……2人とも泣いてしまった。目の前にあるのは確かに扉など見当たらず、部屋の壁がただ呆然とあるだけだった。

 正直、ここまで進展がないと本当に出口というものが無いのかも知れないという不安感が心の底から登ってきているような気がする。後ろからついてきたシュリンもまた大きな溜息を吐いた。そんなに溜息を吐くと幸せが逃げていくぞという言葉を喉の手前で留めながらシュリンとソレーヌの方を見た。


「結局、また進展はありませんでしたか」


 ソレーヌが少しだけ肩を落とした様子だった。流石にここまで来ると不安感も押し寄せてくるよな。


「まったく……ここまで入り組んだ迷宮は初めてよ。全く、どんな魔物がこんなダンジョンを作ったのかしら」


 シュリンがそう嫌みを含んだように呟くと突然、シュリンとソレーヌの後ろ、つまり俺の目の前から声が聞こえた。


「サンポハアキタカ? ニンゲン」


「誰!?」

「こ、今度は何ですか!?」


 シュリンとソレーヌも声が聞こえると後ろを振り返る。

 声が聞こえてから少し間が置かれた後、白い靄が現れたかと思うと虎の形となって姿を現した。白い毛並みにおぞましい程の形相をした虎、玄武の隣りに居た白虎だった。

 突然の白虎の出現にへたり込んでいたセシリアもルミナも立ち上がると直ぐに俺の近くに駆け寄ってきた。流石にこの異様な状況を察したようだ。

 一方で白虎は静かに佇んでいた。現れるや否の不意打ちなどもなく、俺達全員が自身へ構えを向けるまで待っているぞとでも言わんばかりの堂々たる風格で俺たちを見ていた。

 そして、全員の注目が白虎へと向けられてからようやくゆっくりとこの部屋を回るように歩きだした。


「ジカンガカカリスギダ……ジリキデココカラデラレントハナ」


 白虎が俺たちを小馬鹿にするような言い方をするとセシリアが声を上げた。


「じゃあちゃんとわかりやすいように看板とか立てたりしてくれても良かったのよ!!」


「ダガ……オナカマトゴウリュウデキタトコロマデハホメテヤロウ」


「むきぃーー!! 何よ偉そうにぃいい!!」


 苛立ちを見せるセシリアを制止させながら、今度は俺が白虎に向かって質問をした。まだ、俺たちの中で出会っていない仲間がいるからだ。


「まだ、全員と合流できていないんだ。お前はアルとイルと言う2人の獣人の女の子を見ていないか?」


「……イドコロヲシリタイカ?」


「ああ、心配だからな」


「イドコロヲオシエルマエニ、オマエニトイカケル。ミッツダ。ヒトツ、オマエハドウシテフタリヲタスケル?」


 2人と言うのはアルとイルの事だろう。どうしてそんな質問をしてくるのか? そう思ったが、ここは素直に答えるしか話が進むことはないだろう。


「偶然俺たちと出会って、偶然困り事があって、俺たちがそれを助けたいと思った、ただそれだけのことだ」


「フタツ、オマエハオレタチシシンヲタオスコトニドウイウイミガアルトカンジテイル?」


「お前たちが悪さをすれば、困っている人たちがいるんだ。そんな問題を解決するのが俺たちの仕事だ」


「……サイゴ……ミッツ、オマエタチノシラナイシンジツヲツゲルトイッタナラ、ドウスル?」


「俺たちの知らない……真実?」


「モチロン、クニカラシシントウバツヲイライサレテイルオマエガ、オレタチノハナシニノルノガバレタラ……オマエハオシマイダ」


「……」


「サア、コタエルノダ」


 俺は奴が何を言いたいのか分からなかった。俺たちをだまそうそうとしてるのか、それとも動揺をさせるつもりなのか。俺は一度、頭の中で今までの事を思い出して、整理してみることにした。

 最初は四神討伐を依頼され、俺たちは旅に出た。それから、俺は”炎神”朱雀を討伐した。エルフの畔を焼き尽くし、妖精たちに害を成していたのだ。それを俺たちは止めた。それからは、俺は四神が凶悪な存在であり敵だと認知し、これからも仲間と共に戦って行こうと決意した。しかし、知神(奴ら)と出会った時、不思議な感覚を覚えた。朱雀の様な獰猛さはないどころか、言葉を話すことができる上に、魔物でありながら自身の思想を抱いているのだ。そして、何よりも彼ら自体に悪意を全く感じなかったのだ。玄武は朱雀の様に無差別に人を殺したりする、野生の動物のような生き方はしていない。そこが、どこか引っかかる。俺は初めて奴らと出会った時、少し知性があることを良いことに俺たちを陥れようとしているのかと思い、彼らに否定的な言葉を俺は言い放ったが、今冷静に考えると俺は何か()()()()()()をしているのかもしれない。

 今まで敵だと思っていた四神と言う存在が実は人類にとって脅威ではないとしたら? そんな仮説が、俺の中でどんどん肥大化しているのを感じた。しかし、その仮説は俺にとって恐怖心を駆り立てるものでもある。もし、その仮説が本当だとしたら今まで俺たちを信じてきたバール王などが何らかの理由で俺たちを騙して、四神の依頼をさせていたことになる。更に俺たちは聖騎士協会と同じように国からも追われる身になってしまう。そうなると、俺の仲間達が危ない目にあってしまう……俺の選択のせいで。

 そんな考えが、俺の頭の中に広がり侵食していく。どうすればいい? どう答えればいい? 


「大丈夫だよフール」


 俺は自分の世界から一度抜けるようにして隣を見た。なぜかセシリアは俺に優しい笑顔を向けていた。


「フールはいろいろ悩んでると思うけど、フールが思ったことを答えにして良いと思うの。だって、今までフールはパーティのリーダーとしてしっかり私たちを導いてくれたじゃない! ていうか、私たちは追われてる身なんだから好きにやっちゃおうじゃない! だから、フールは好きに答えてよ!」


 その時、俺ははっとして周りを見た。全員が俺を見つめていた。ルミナもソレーヌも、そしてシュリンもだ。シュリンと目が合うとやれやれと首を横に振りながら口角を上げると目線を逸らした。シュリンなりのフールに対する信頼である。まるで察しろと言っているような様子だった。

 俺はこうやって頭の中で独り言を言いながら考える癖があり、ほとんど自分の考えで行動することがある。そして、考えた本人にすべて責任があるのだと思いながらいつも責任を一人で抱えていた。

 だけど、今は違う。俺には仲間がいる。

 だからこそ、選択を迷わず決めるのだ、答えを出すのだ。

 俺は覚悟を決めると白虎の方へと向き直り、近づくように歩みだした。


「なあ白虎、前までの俺は臆病だった。自分の為なら長いものに巻かれて物言いし、理不尽なことを言われてもそれに従っているだけだった。けれど、もう今は違う! 俺には、俺を支えてくれる仲間がいる。だからこそ、俺ははっきりと言うぞ。……知りたい! 俺はお前たちの伝えたいことを! 真実と言うものを! 考えてみれば、もう俺たちは……ギルドを見捨てた時点で裏切り者なんだ。なら、そのまま吹っ切れてこのこの事件の真実を受け止め、前に進むだけだ!」


 白虎はただ俺の目を見つめていた。鋭い獣の眼光に俺は怖気づくことなく、視線を真っすぐに俺も見つめ返した。そして、数分の沈黙があってから白虎は眼を伏せて鼻で笑った。


「フッ……ナルホド、オマエノカクゴキキトドケタ。()()()


 そして白虎が突然大きく吠えた。部屋中に反響する白虎の遠吠えと共に俺たちの足元には大きな白い魔方陣が浮かび上がる。


「お前達を我が主人の元へと転送する。その目にしかと刻むが良い。世界の裏側を」


 白虎の言葉が切れると共に、白虎の転送魔法が発動され、俺達はその場から消えた。


お久しぶりです。(いつも)

生活が落ち着いてきたのでまた投稿する事が出来ました。

次話は出来るだけ早く出したいな……

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