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第84話 再開、そして和解

 ソレーヌとパトらともにダンジョンを彷徨っていたら、突然同じくはぐれていたセシリア達と再会した。セシリアに手を引かれながら松明の明かりの方へと向かう。


「フール! 無事でよかったです!」


 ルミナが俺たちに笑顔を向けてくれた。ルミナの手には松明がない。誰が持っているのか? 俺は松明の明かりの方に目を向けるとそこには、俺が見知った人物がいるのに気が付いた。


「久しぶりね、フール」


「その顔……シュリンか? どうしてあんたがここにいる? なんでこいつらと一緒にいるんだ?」


 バールで起こった銀翼古竜事件以来、姿を消していたシュリンが目の前にいることに俺は少し身構えてしまう。銀翼古竜事件では一応助けられた借りはある。しかし、俺が雑用係の頃、ダレンと共に俺に酷い仕打ちを受けさせたのも事実である。だから、まだ俺はシュリンをよく見ることができずにいたのだ。自然に俺の目が鋭く吊り上がり睨みつけるとセシリアが俺たちの間に割り込んでくる。


「フール違うの! シュリンは自分の目的があってここに来ただけなの。それに、私たちのことも助けてくれたの!」


「助けた? 目的?」


 俺は再びシュリンの方に目をやるとシュリンは顔を少し赤くさせた後、大きくため息を吐いた。


「偶々入った部屋でお前の仲間が襲われていたのだ。それを私が偶々助けただけ。それに……」


 シュリンはルミナとセシリアの顔を見ると、2人はにやにやと笑う。それを見たシュリンはすぐに顔をそらした。一体何があったのか俺にはわからないがともかく、シュリンが俺の仲間を助けてくれたことは素直にお礼を言わなくてはいけない。


「……シュリン」


「なに?」


「あ、ありがとう。仲間を助けてくれて」


「……ええ別に」


 この瞬間、俺は初めてシュリンに対して感謝の気持ちを伝えることができた。別に気持ちがすっきりするわけではないがどこかほっと安心する自分がいるのを感じる。やはり、いじめられていたことがトラウマになっているのだろうか? それでもあまり、シュリンの顔をうまく見ることができない。そういえば、いつも一緒にいる糞野郎がいないように見える。


「シュリン、いつものあいつはどうした? 一緒じゃないのか? 早く、そいつのところに向かったらどうだ?」


 俺の嫌みっぽい言葉をシュリンが聞いたとき、シュリンの顔色が少しだけ悪くなったように言えた。隣にいたセシリアが俺の服を引っ張る。


「フール……実は」


「いいえセシリア、私から説明するから。フール、ダレンが……行方不明なの」


「行方不明?」


 シュリンは俺に対して、あの一件から今に至るまでの出来事を説明してくれた。ギルドが壊滅してからダレンの消息が突然消えたこと、そしてダレンを探すためにシュリンが大魔導師になったこと。

 しかし、それに対して俺は別にダレンを心配することなどはなかった。きっと、自分が活躍できる部隊がなくなってうなだれたか、気がくるってしまったかのどっちかにしか思えなかった。いずれにせよ、ダレンは俺の人生の中で一番嫌いな奴だからって補正が強すぎてシュリンにあまり感情移入ができなかったのだろう。それに、まだあいつからは謝罪の言葉すらももらっていないのだからな!


「というのがここまでの経緯だ」


 そして、シュリンはある程度話し終わると俺に向けて深々と頭を下げた。


「これで、許されると思ってはいないけど……あなたにギルドで行ってきたことはダレンの分まで私が謝罪する。あなたのことを舐め過ぎていたことはここで謝ります。本当に、ごめんなさい」


 この行動は俺とって衝撃的だった。シュリンが謝罪をすることなど想像もしなかった俺は、謝られた直後は少し固まってしまいそうになった。しかし、シュリンが俺に向けてしっかり人として謝ってくれたことは何よりも嬉しく、悩んでいた問題の一つが解決できたようにすがすがしい気持ちになった。しかし、ふと冷静になって考えてみると少しずるいところがあった。

 それはダレンの事だ。確かにシュリンもダレンを想い、俺のいじめに加担していたとはいえ、首謀者はダレン自身だ。俺はあいつの口からしっかりと反省の言葉が聞きたい。それを思い人の為に代わりとなって謝罪するなどずるいでは無いか。俺はシュリンの肩に手を置く。


「一度顔を上げてくれシュリン」


 俺の言葉でシュリンはその凛とした顔を俺に向ける。


「あんたの気持ちは分かった。反省してる様だからな……でも、ずるいんだ。あんたがあいつを思って全ての責任を背負って謝るなんて俺はそんなの許さない。俺は、あいつからしっかり直接謝罪を聞きたいんだ。それに一度ぶん殴ってやらないと俺の腹の虫が収まらないんだ。シュリン、あんたの気持ちは素直に受け止める。それと、ダレンの捜索も手伝う」


「何? 本当なの⁉︎」


「ああ、2度も助けてくれた借りもあるし、あんたをもう恨んじゃいない。これで良いか?」


「……ああ、ありがとう」


 これで何とかシュリンと和解して一件落着……と思ったとき、ルミナが思いもよらぬ事を言い出した。


「ねぇフール、シュリンも私達のパーティに入れようよ!」


「そうよそうよ! S級冒険者がいたら心強いし!」


 ルミナの提案にセシリアも乗り出した。

 ん? ん?


「私も良いと思いますよ。S級冒険者さんが居るなら心強くて、パーティとしてもより実力がつくかもしれません」


 ソレーヌも賛成の意思を示し始めた。

 みんなの話を聞いたシュリンは勿論、断ろうとする。


「いや、私は……」


 その時、ルミナとセシリアが背後に立つとシュリンに耳打ちをした。


「「方向音痴……」」


「ひぇ……」


 シュリンの顔色がまた悪くなった。何を言ったんだこいつらは……


「し、しかし……私は許されない事をしたんだぞ? それに私は一人旅の覚悟で来ているんだ。仲間なんて……」


「……良いんじゃないか?」


「え?」


「俺はもうあんたを恨んで無い。それに、俺の仲間から信頼を受けてるって事は……俺が思っている以上に良い人なんだな。それに俺も勝手にダレンに居なくなられたら俺も納得いかないからな。居なくなる前に一発ぶん殴らせろっての。旅をしていれば見つかるかもしれないし、行くところないなら俺たちも助かるけど」


 シュリンは少しの間答えることはなかった。シュリンは下唇を噛み締めた後、笑顔になる。


「……分かった。ギルドの時とはまた別……今度は貴方を1人の人間、仲間として目的の為に協力するわ」


 シュリンは俺に向けて手を差し出す。


「ああ、心強いよ」


 俺も手を差し出し、俺とシュリンは目を合わせて握手を交わした。

 こうして、今度は新たな仲間としてS級冒険者"大魔導師(ハイウィザード)シュリンが俺たちのパーティに加わったのだ。


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