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第80話 手を出した者

 ウォルターによって生み出された突発的に起こった自然現象によって、攻撃を行おうとしていた騎士達の動きは止まった。パウロはじっとウォルターの方を見ている。滴り落ちる水がぽつりぽつりと頭から頬を伝って地面に滴り落ちる感覚が敏感に伝わっている。それはウォルターを見れば見るほど敏感となり、緊張感へと変わっていく。

 ウォルターは何も言わずに目だけで語っていた。パウロは自分が少しでもウォルターに歯向かってしまった事、勝手な行動をとってしまったことが徐々に後悔の気持ちが押し寄せていくる。しかし、ウォルターはそんなパウロを一切叱ることはしない。ただ一言、声を掛けるのみだった。


「頭は冷えたかパウロ?」


「……あ、ああすまねぇ」


 パウロは自然と歯向かうことなどしなかった。寧ろ、どうして自分が先走ってあんなことをしてしまったのだろうと後悔している。

 ウォルターは剣を鞘に納め、ゆっくりと歩み始める。前に居た騎士達がウォルターの歩む道を作るように横へと避ける。そして、白虎の前へとやってくるとお互い目を合わせる。


「どうして俺たちを襲わないのだ?」


「オレ、ココ、ススマセナイ。ダガ、オマエラ、テ、ダシテナイ。オレ、コウゲキデキナイ。ゲンブ、ソウオシエタ」


 白虎が野太い声で片言の言葉を発した。言葉を話すことに騎士達が驚き、ざわつき始める。

 喋る魔物はかなり少ない。話すことができる魔物は知性が高いと恐れられているが、やはりSS級指定されている魔物は話すことも容易いものだとウォルターは驚くことはない。


「ここには玄武もいるのか……お前はなぜ玄武と共にいる?」


「オレ、ゲンブ、ニゲテキタ。タスケアイ」


 魔物がお互い助け合うなど不自然な話だ。四神は縄張り意識がかなり強いと言われている。そんな奴ら程縄張り争いをし合って生き、元々住んでいた魔物たちの居所が無くなることで生態系などに害をもたらす事から四神災害と呼ばれるようになったのだ。しかし、今の奴らはどうだろう。

 逃げてきた? 助け合い? 相手が手を出さないから攻撃しない。災害とは程遠い発言をしているのだ。見た目は魔物でも……どこか人間身を帯びたような物言い、ウォルターにとって妙にその事が引っかかった。

 ウォルターがまた質問をしようとしたその時、後ろからアイギスでもクラリスでもない女の声が聞こえた。


「あら、随分大所帯で来ましたわねぇ! 騎士団の皆様!」


 全員が後ろを向くとズルズルと引きずるような男とガシャガシャと金属が擦れながら歩く音と共に2つの影が姿を現す。

 1人は大きな杖を持ち、濃い緑色の髪を胸まで垂らした女。その女の身体は上半身は素晴らしく、女性としては綺麗なプロポーションをしているが下半身が蛇のように尾が伸びていた。

 そして、隣には黒い金属鎧(フルプレートメイル)を身に纏い、背中に巨剣(グレートソード)を担いだ、顔は黒い鉄仮面で覆われた大男がいる。

 ゆっくりと歩き寄って来る2人をクラリスが割って止めた。


「あなた達は何者ですか!?」


「あらぁ? 可愛らしい騎士様も居たものねぇ?」


 そう言うと女はクラリスの胸にゆっくりと手を伸ばし、指先を胸元に触れた。


「邪魔よ」


 そう一言、女が口にした瞬間だった。女の指先から突如大きな衝撃波が生まれ、クラリスをこの部屋の壁へと吹き飛ばした。クラリスの着ていた白金鎧(プラチナアーマー)の胸元が大きく割れ、破片が周辺に散らばる。壁に身体を打ち付けたクラリスはそのまま倒れた。


「クラリス⁉ 貴方達、名を名乗りなさい!!」


 アイギスはいつもの優しい目が鋭くなり、魔導盾とメイスを構える。

 女はクスクスと笑いながら、アイギスの方を向いた。


「妾達は”魔人六柱(スレイマン)”が1人……妾は”蛇ノ女王(エキドナ)”ロノウェーザ。そして、こちらが”幽鎧ノ王(デュラハン)”エリゴース」


「おいおい……まさか、あいつらがフェルメルが送った奴らなんじゃねぇのか」


 パウロが2人に向けて武器を構え直すと、ロノウェーザはご名答と言わんばかりにウィンクをして見せる。

 ウォルターがクラリスの元へと駆け寄り、優しく抱きかえる。クラリスは強い衝撃で気絶しているだけのようだった。壊れた白金鎧を見るに魔力を収縮させて一気に放出する高度な技を使ったようだ。

 つまり、魔法ではない。このような技を瞬時に使うなどただものではないとウォルターでさえ感じ取ることができた。


「アイギス、パウロ、四神は後だ……こいつらを拘束するぞ」


「しかし隊長、もし白虎(こいつ)が俺たちの後ろから不意打ちしてきたらどうすんだ」


「そんな真似はしないだろう。それに、虎よりも先に蛇が俺たちに手を出してきたんだからな」


 パウロは、抱きかかえているクラリスに向けられたウォルターのその瞳の奥に怒りの炎が見えたような気がした。顔に出さず、冷静さを欠けない。真っすぐに向けられた仲間への視線に心配と怒りが立ち込めている。パウロはふっと笑う。あいつには人の士気を上げる謎のカリスマ性がある。俺にはそれがない。そして、俺はそいつのカリスマ性にひきつけられている。そうパウロは感じていた。


「ウォルター隊長……すまなかった」


 パウロがそう言うと、ウォルター何も言わない。しかし、パウロは安心する。ウォルターは許しは反応で示さない。


「パウロ、指揮を取って取り囲め! アイギス、魔法を展開しろ!」


 代わりに、命令を示すのだから。


「あいよ!!」


「お任せを!!」



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