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第75話 フールたちの場合

「う……ん……」


 気が付くと俺は水気のある、冷ややかな地べたに横たわっていた。瞼をゆっくりと開けていくと光源など無いので視界は真っ暗だった。まだ目が闇に慣れていない為、周りの様子を把握することができない。

 みんなも近くにいるはずだ。俺は立ち上がろうと思い、地面を掴むと柔らかい感触が手を伝う。


「ん? なんだ?」


 フニフニと柔らかく、中央には突起のようなものが付いている。控えめに膨らんだそれを掴んだり、撫でたりしていると腕の先から声が聞こえてきた。


「ひゃっ⁉ だだだ誰ですか⁉ なんなんですか⁉ んんぅっ♡」


 この声は紛れもなくソレーヌである。そして、俺はソレーヌの反応で現在俺が手に持っているそれを理解することができた。俺は即座にそれから手を放しす。


「ソソソレーヌか!? 大丈夫か⁉ け、怪我は無いか⁉」


 俺はさっきの事をごまかすようにできるだけ慌てないように声をかけた。


「フ、フールさん!! はい!! 私は大丈夫です!!」

「オイラもいるぞーー!!」


 どうやら2人とも無事なようだ。アルとイルもきっと近くにいるはずだが、周りを照らせるものが欲しい。そう思っていると、後ろから突然光が灯った。振り返るとソレーヌの頭上でパトラが小さな松明を持っていた。どうやら、パトラが火を灯してくれたのだろう。


「こんなこともあろうかとパトラ特製”ミニ松明”を用意しておいたのだぞ!」


「良いですけどパトラちゃん、私の髪は燃やさないでね」


「ありがとうパトラ、俺が持つよ」


 俺はパトラからミニ松明を貰うとこの部屋の構造を見るために空間内を一周周ってみた。ここの壁も謎の古代文字の羅列が描かれており、実に不気味だ。

 アルとイルの姿は無い。代わりにあったのは奥へと続く通路だけだった。2人の安否が心配だ。もしかしたら別の罠にかかっているかもしれないし、魔物に襲われているかもしれない。

 すぐに俺たちはこの場を後にし、先に進み始めた。

 通路はとても長く、そして静かだった。水が天井から滴る音と俺たちの足音だけがこの通路に木霊している。

 それに、急に気温が下がったのか肌寒い。日の光も火の灯りもなければ気温が下がるのは当たり前だが、今回は少しばかり違う。吐く息が若干白くなってきており、ソレーヌも身体を小刻みに揺らしてしまうほど寒そうにしていた。


「急に寒くなってきましたね……」


 ソレーヌは薄着だし、ミニスカートだ。冷えは下半身から来ると言うが見ている俺も寒そうだった。


「ほら、これつけてろ」


 寒そうにしていたソレーヌに俺が付けていた上着同様のマントをかけてやった。足を温めることはできないがこれくらいなら少しの足しになるだろう。


「え、でもフールさんが寒いんじゃ?」


「俺は大丈夫さ、動いてるし、俺が火に一番近いから」


「う……うん、ありがとう」


 ソレーヌは掛けられたマントをしっかりと気直す。厚手の毛皮で作られたそのマントは首と背中を覆ってくれて冷気も遮断してくれる。ソレーヌはふと首あたりの生地で自分の口元を覆った。


「……フールさんの……匂いだ……」


 自然とソレーヌは体の内側も熱くなり始め、いつもより心臓の音が高ぶっていた。

 そんなことなど知らずに、俺は後ろでソレーヌがニコニコとしていた様子を見て一安心する。

 ふっと一息つき、前を向き直して先へと進んだ。アルもイルもそうだが、離れ離れになったセシリア達は大丈夫なのだろうか?

 ルミナもいるし大丈夫と言いたいが、ルミナは大の幽霊嫌いだから心強いとは言い難い。

 ……いやいや、少々俺も過保護が過ぎるかもしれない。あいつらも修羅場を乗り越えてきたのだ。下手すると俺が足を引っ張り兼ねない。あいつらに笑われないように俺が頑張らないとな。


 そんな事を悶々と考えていると狭い通路から開けた空間へと出た。天井が少し高くなり、それなりに広い場所。すぐに目に入ったのは動物の骨のようなもの部屋の隅に積み上がっていたり、辺りに散らかってたりしている光景だった。少なくとも『動物』であって欲しいのだが……

 肉が溶けた後の骨から出る独特の腐臭がこの部屋中に広がっており、何とも気持ちが悪くなってくる。松明で辺りを軽く照らすがアルとイルの姿はやはり無い。


「ここにも居ないか……」


 一体2人はどこへ行ったのだろう? そう遠くへは行ってはいない筈だと思っていたのだが、ここまで見当たらないと不安感が押し寄せてくる。

 ましてやこの暗闇の中をどうやって移動出来るのか?

 不可解な点が多い中で、俺は少しずつ焦り始めていた。


「2人ともどこへ行ったのかしら……アルちゃーーん! イルちゃーーん!」


 後ろでソレーヌも呼びかけるが、勿論その呼びかけに応えるものなど居なかった。


「……私のせい……ですね」


 ソレーヌがぽつりと呟く。俺はソレーヌの方を振り返ると、ソレーヌの瞳から涙があふれ出ており、大粒の涙が頬を伝って地面へと落ちる。


「私が……2人を連れて行こうなんて言ったから……こんなことに……ううぅ……」

「はわわぁ!! ソレーヌ⁉ 泣くなってぇ!!」


 パトラがソレーヌの頭を撫でまわすがソレーヌの涙は止まらない。ソレーヌは真面目で、自分が提案した事に対して責任をすべて自分だけで背負おうとする癖が見えた。それは旅の最中でも見られた。エルフの畔でもみんなの為に色々行動してきた名残から来ているのだろう。俺はソレーヌの手を優しく握る。


「ソレーヌ、お前のせいじゃない。それに、約束事にはいつだって異常事態が起こることは当たり前だ。その時こそ仲間を頼るんだ。俺たちを信じて、頼って欲しいんだ。だから気にするな。な?」


「フールさん……」


 俺とソレーヌの目が合い、ソレーヌから溢れ出ていた涙は引いていくとソレーヌの顔が少しずつ笑顔になっていく。仲間の提案に乗った俺たちもその提案を組んでくれた仲間の手助けをするのは当たり前だ。


「随分とロマンチックですねぇ」


 突然後ろから声が聞こえ、俺は咄嗟に構えた。


「誰だ⁉」


 松明で声の先を照らすと俺たちの元へと向かってくる足音が近づいてくる。遠くから感じる異様な気配は徐々に近づくにつれて、闇の中で揺らめく影が松明の明かりに照らされて姿を現した。

 魔導師のローブを身に纏い、杖を突いた魔導師だと思われた。しかし、そいつの顔は普通ではなかった。人間としての皮膚いや、肉がない。骨だけの存在だった。よく見ると杖を持つ手も白く細い……あたりに散らばる亡骸と相違ない。


「ス……スケルトン⁉」


 ソレーヌは魔導弓を構える。


「お初にお目にかかる。我は魔人六柱(スレイマン)の一人”大骨ノ王(ワイトキング)”ダンドリオンである」


「魔……魔人だと?」


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