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第72話 ヒーラー、墓所へ①

 商業都市ウッサゴを出てから数時間が経つ。馬が街道を蹄の音を鳴らしながら軽快に歩く音とガラガラと車輪のやかましい音が同時に聞こえてくる。生憎、俺たちの乗る荷馬車には外の景色など覗く窓などは付いていない為、外の景色も見ることができないまま荷馬車に揺られていた。勿論、みんな退屈になって夢の中を満喫している。その間にも俺は『回復術士ノ魔導書・大全』を読み進めていた。あれからまた読み進めることができたのである程度新しい魔法を習得できたはずだ。そろそろこの本も終わりに近づいてきているのでラストスパートをかけようとした時、急に荷馬車の進行が止まった。そして、外から複数人の声が聞こえてくる。


「おお! ウォルター隊長率いるウッサゴ支部の騎士達か! お勤めご苦労!」


 俺が少しだけ入り口から外をのぞくと俺たちとは別に荷馬車ではなく、馬に騎乗した騎兵隊と出会ったみたいだ。


「お前たちはどこの部隊だ?」


「俺たちはバルバドスからこちらの街の様子を見にやって来たんです! ところで、ウォルター様……今日は大分大人数で大荷物ですね。何かを運びに行くんですか」


 背の低い騎士が俺たちの乗る荷馬車に向かって指を差した。俺は慌てて入り口から離れ、息をひそめた。


「今からとある場所に物資を運びに行く予定だ。これはその物資だ」


「へぇーー大変そうっすね」


 どうやらウォルターが俺たちの存在を避けるためにうまい嘘を付いているようだ。このまま話が通れば良いのだが……そう思っていた時だった。


「うぅう~~ん!! 良く寝たんだぞぅーー!」


 寝ていたパトラが急に起きだしたのだ。俺は慌ててパトラを抱えて口を塞ぐ。


「むごごぉ⁉」


「ちょっと静かにしてて……」


 勿論、その音を外の騎士が聞かないわけもなく……


「ちょ、ウォルター隊長!! 荷車から声が!? 誰か乗っているのですか⁉」


 やはり、不審がられてしまった。しかし、俺は動くことはできない……ウォルターどう動く?

 そう考えているとパウロが大きく笑いだした。


「はっはっは! いやーーすまねぇ、実はこの中に小せぇ子ブタが乗ってるんだよ! 運んでるときブヒブヒうるせぇから睡眠魔法で眠らせてたんだけど1匹起きちまったようだな」


 するとパウロは別の荷馬車から取り出したのは家畜用の小さな豚だった。

 それを聞いて騎士たちは笑い出す。


「なんだそう言う事だったのか!! 豚を運ぶだけでなんでそんなに大人数なんだ!」


「運ぶだけじゃなくてそこでも手伝わんといけないんだ、お前らと話していると日が暮れちまう! 隊長行こうぜ!」


「そうだな、ではな」


「ウォルター隊長に敬礼!」


 別部隊がウォルター隊長に敬礼を向け、再び荷馬車が進行を始めた。とりあえず、うまくごまかせたみたいだ。


「いやーー危なかったな、フール殿」


 俺の荷馬車の操縦を担当している騎士が声をかけてきた。


「ああ、何とかな……それよりもいつ豚を持って来たんだ?」


「パウロ教官が他の騎士たちに出会った時の為に積み荷を豚にする作戦で動くとおっしゃっておりました。そこで出発する前に子豚を1匹買ってきてました。流石戦略が上手いですよパウロ教官は」


 パウロは俺たちをごまかす作戦をあらかじめ立てていたのか。パウロと言う男は見た目によらず頭の切れる男のようである。教官も務めていると言っているがやはり、それ相応の力はあるようだ。あまり、舐めてかからない方が良いかもしれないな。とにかく、何事もなくてよかったとほっとしながらパトラに目を向ける。


「パトラ、悪かった。もういいぞ」


 俺がそう声をかけるがパトラは反応を見せなかった。


「むにゃむにゃ……苦しいんだぞぉ……すぴぃ……」


 よく見るとパトラは俺の腕の中で眠ってしまったようだ。さっきまで起きてたのに早すぎるだろ寝るの。

 流石に起こすのはかわいそうだったのでしょうがなく、このまま寝かせてやることにした。また本を読もうと思ったが右腿にアル、左腿にイル、真ん中にパトラ、そして俺の肩に寄り添い寝息を優しく吐くセシリア達のぬくもりが睡魔を生み出してくる。その睡魔に耐えきれず、俺は眠りについた。



 次に目が覚めたとき、俺は晴天の下で広い草原の上に立っていた。緑色の芝が風に靡き、目に見えるその水平線まで広がっていた。俺はさっきまで荷馬車に乗っていたはずだが……夢なのだろうか? 多分夢なのだろう、しかし夢にしてはやけにはっきり景色が見えるし、芝が足に触れている感覚もある。


「ここは……?」


 俺が辺りを見回すが仲間たちの姿はない。しかし、平原の遠くの方で淡く青い光が見えた。よく見るとその光はまるで動物のような形をしている。四足の足で地面に立ち、顔には長々とした髭のような毛が生え、頭には鹿のように大きな角が生えている。


「鹿か?」


 そう思ったが鹿にしては体にごつごつとした鱗が付いている、まるで龍のような鱗だ。その姿を見た時、その動物なのかよくわからない物に対して無性に近づきたいと俺は感じてしまった。俺が一歩踏み出し、この草を掻き分けてそのよくわからない物に対して近づいていく。その鹿のような生物も俺と眼を合わせたまま動くことはない。しかし、俺はそれに近づいている筈なのに近づいている様子はない。寧ろ、段々距離を取られているように見えた。


 おかしい……近づいてるはずなのに……


 そう思うと、その鹿のような生物の体が眩い光を発した。あまりの光に俺は目を隠す。そして、俺が次、目線を挙げたときにはその生物の姿はなかった。


「……まだだ。まだその時ではない」


 突然、聞き覚えの無い声が俺の頭の中に入ってくる。


「な、なんだ?」


「だが、いずれ分かるだろう。我が使命……そして、お前自身の使命をな」


 その言葉を最後にこの平原の景色がブラックアウトしていった。そして、意識がはっきりしていくにつれていつもの騒がしい声が聞こえてくる。

 ゆっくりと眼を開けるとそこはさっきまで乗っていた荷馬車の中だった。


「それでさ~~……あ、フールやっと起きた! そろそろ着くんだからシャキッとしてよね」


 セシリアが俺の頬をツンッと突く。どうやら、結局俺が最後まで寝ていたらしい。


「フールが最後だね起きるの♪」

「私たちが先……♪」


 アルとイルが自慢げに胸を張る。

 一体、あの夢は何だったのだろうか? 良く分からないままぼーーっとしていると、運転手が俺たちに声をかけてくる。


「そろそろ目的地付近だ! 用意してくださいね!」


 そろそろ目的地か……さっきの夢の事は気になるが、今からの仕事に集中しないとな。


「そろそろ着くわね! みんな準備は良い?」


「いつでも行けるよセシリー!」


「私もです!」


「沢山寝たからオイラもいけるぞ!」


「フールも大丈夫?」


 セシリアの言葉に俺はすぐに頭を縦に振った。


「ああ、大丈夫」


「2人も、無理しないでね」


「「はーーい」」


 アルもイルもやる気は十分にある。皆の意思表示が完了した所で荷馬車の動きが止まった。


「みんな降りてこい! ここからは歩いていくぞ!!」


 パウロの指示が出たので、荷馬車を出ることにしよう。さぁ、ここからは気を引き締めなくては。




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