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第66話 イルの怒り

お待たせしました。

更新遅くて本当にすいません。

 フールたちが聖騎士たちと協力関係を結んでいた頃、宿屋ではフールたちの帰りを待っているアルとイルの2人はカリンの手伝いをしていた。皿の乾拭き、店内の雑巾がけや着物たたみなど体の小さい2人はカリンから無理のない範囲で仕事を任せられ、それを一生懸命に仕事をこなしていた。仕事熱心だったアルはカリンに外の箒掛けも任せて欲しいと告げてきたが、カリンはそれを頑固に拒否をしたのである。

 フールたちが戻ってくるまでは2人をできるだけ外には出したくないとカリンは思っていたので、2人には外に出ないように告げていたのだ。もし、またあの男たちがやってきた時の為に素早く2人の身を隠すこともできるようにだ。パトラとカナは街へ出かけており、この店にいるのはカリンとアルとイルの3人だけであった。

 カリンが外に出て店の前の箒掛けを行っている頃、言われていた仕事を済ませたアルとイルは食堂の椅子に座って一休みをしていた。


「お手伝い終わり! お家のお手伝いをしてるみたいで楽しいねイル!」


「う……うん」


 イルはもじもじとしながらどこか落ち着かない様子で周りの様子をきょろきょろと見ているようだった。何かに不安がっている様子のイルをアルは心配していた。

 仕事の最中もどこかそわそわしている様子は伝わってきていた。そこでアルはイルが少しでも落ち着いてくれるようにゆっくりとイルの隣に座るとイルの手を優しく握る。


「お、お姉ちゃん?」


「イルは心配性だから、こうして私が手を握って落ち着かせてあげないと……えへへ、こういう時こそお姉ちゃんとしてちゃんとしなきゃって」


「お姉ちゃん……ありがと……」


「それにママの事もフールたちが居てくれたら絶対何とかなるから!」


 アルの励ましの言葉にイルは口元が緩み、静かに笑みを見せた。それを見て少しアルは安心の笑みを見せる。

 しかし、2人の落ち着くことができた時間はあまりにも短い時間となった。


「しつこいですよ!! 何なんですか⁉ ここにはそう言う奴隷のような子たちはいないと前にも言ったはずです!!」


 突然、店の奥に位置する食堂まで聞こえるカリンさんの怒号が聞こえてきた。それに驚いた2人はすぐに椅子から立ち上がるとゆっくりと音を立てないように玄関の方へと向かい、窓から少しだけを顔をのぞかせて、外のよう様子を見た。

 そこにはアルとイルを追っているフェルメルが雇った盗賊たちだった。前に追い返されていたメンバーがまた性懲りもなくやってきていたのだ。その盗賊たちとカリンが外で口論をしている様子が2人の目に入った。


「この前は恥をかかせてくれたなぁ!! 俺たちは腐っても盗賊!! 総動員でこの都市中を調査しまくったんだ。しかし……話を聞いてくとな~~んか鼻に突くような話が合ってなぁ?

 獣人族の女とエルフを従えた男が小さい子を連れてたって話が飯屋からあったぜ。なぁ? どう思うよ?」


「そ、そんなこと私の店には関係ない事じゃない!!」


「そ~~か、まだごまかすんだ……おいっ!!」


 リーダー格の男が後ろの下っ端に声をかけると、一人の男がカリンの頬を強く平手打ちをしたのだ。


「くぅっ……」


 男に殴られ、持っていた箒と共にカリンの体が吹き飛ばされる。男は倒れたカリンの髪の毛を掴むとリーダー格の男の前へと差し出す。


「なぁ? 正直に言えよ? それとももう一発食らいたいのか?」


「……だから、知らないって……言ってるじゃない」


「はぁ……残念だ……おい、お前らこのアマが吐くまでやっちまいな」


「「「「はいよ兄貴ぃぃ!!!!」」」」


 リーダー格の男の一言でカリンの周りに複数人の男たちが取り囲む。それを見ていたアルは窓越しでパニック状態になっていた。


「はわわわぁ⁉ 大変だ!! カリンさんが男の人たちに!! どうしよ……どうしよぉ⁉ ねぇイル!!」


 アルがそう言いながらイルの方を見ると、イルが棒立ちでずっと外の様子を見ていた。そして、ぶつぶつと何かをつぶやいているのが聞こえてくる。


「そんな……ママ……ママが……ママがまた……私たち……私たちの為に……ああ……ああああ……」


 イルのぬいぐるみを掴む手がどんどん強くなってくる。目の前で起こっているイルの異変は今までよりも異常であり、嫌な予感がアルに襲い掛かってきた。


「イ……イル? だ、大丈夫? 大丈夫イル⁉」


「ママ……いやぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 アルはイルに手を刺し伸ばそうとした時にはもう遅かった。イルが大きく大声を上げると2人の目の前にあった窓と壁が突然破裂した。ちがう、勝手に破裂したのではない破裂する刹那にイルは自ら握っていたぬいぐるみが手から離れたとき、そのぬいぐるみが動き出し、目の前の壁をぶち破ったのだ。壁が店の内側から粉々に砕かれ、砂煙が上がる。外に居た盗賊たちとカリンは驚いてすぐに店の方を見た。


「お、おいおい……一体何が……」


「イル……ちゃん?」


 そこには目に涙を浮かべながら、にらみつけるイルとその目の前には仁王立ちで佇むイルのぬいぐるみがそこには居た。


「もう……私たちの為に……人を傷つけないで!!」


 イルがそう叫ぶとイルの青い髪が光りだす。それと共に、元々店の壁であり、破壊されてばらばらになった瓦礫が吸い込まれるようにぬいぐるみにくっついていく。ぬいぐるみの腕、胴体、頭、足、全てを包み込むように瓦礫がまとわりついて、小さなぬいぐるみの体が巨大な岩の化け物へと変貌を遂げた。


「やっつけて”石人形(ストーンゴーレム)”!!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオーー!!!!


 もはやぬいぐるみの原型すらとどめていないその大きな石の怪物はけたたましい雄叫びを挙げると、その大きな拳を一人の盗賊に向けて振り下ろした。


「ぎゃぁあああああああ!!」


 男は断末魔の叫びを挙げながらその拳によって地面に潰され、跡形もなく死んでしまった。その男に限らず、石人形はカリンを守るように周りにいる盗賊たちを薙ぎ払い、住宅の壁へと吹き飛ばした。

 そして、気が付くと盗賊はリーダー格の男だけが1人残されてしまっていた。


「なっ⁉ い、いったい何が起きてやがる⁉」


 そう言いながら、懐からナイフを取り出すと石人形に向かって攻撃を試みる。鋭利なそのナイフの刃が石人形の腕に当たった時、腕には傷など付かないどころかそのナイフのの刃は簡単に砕け散った。


「こ、こいつ……かてぇ⁉︎」


 刃が折れ、最早武器としての機能を失ったナイフから目を離し、男は上を見上げると男に向かって今にも拳を振り下ろそうとしている石人形の姿を見た時、男はその場にへたり込むしか無かった。


「ま、待て……待て!? おい!? 話せば、話せば分かる!! だから! だから命だけは!!」


「ママ……大丈夫……私が……何とかするから……」


「や、やめろ!!」


「やって」


 イルが男に指を指すと命令に従うように石人形は男に向けて拳を振り下ろした。


「うっ!? ぐぎゃあああああああああああああ!!!!」


 男の悲鳴はグシャッと言う音の後にぷつりと途絶え、石人形の手の下からは沢山の血が流れ始める。しかし、これで終わりかと思われた石人形の攻撃はこれでは終わらず、その男が潰された場所を何度も何度も石人形は殴り始めた。


「死んで……死んで! 死んで!!」


 イルの声と共に人形が動き続ける。アルにはまるで人形自体が母を奪った男への憎悪の念であるかのように見えた。

 アルはイルにぬいぐるみを自在に操る能力を持っていた事は知っていた。しかし、ここまで強力な魔人形(ゴーレム)へと異形を遂げるなど知らなかった。その時、初めてイルの真の能力を知ったのだ。


 イルを……止めなきゃ!


 アルはいるの元へ向かい、強く抱きしめた。


「死んで!! 死んでぇええ!!!」


「イル!! 落ち着いて!! 落ち着くの!!」


 アルはいつもより強く、強くイルを抱きしめた。いつものイルじゃない、我を失ったかのように暴走するイルを自身の胸に強く抱きしめて続けた。


「ママァ!! ママァアアアア!!!!」


 イルは泣き叫び、暴れる。それに合わせて石人形も苦しむように悶え始めた。


「大丈夫だからイル!! お姉ちゃんが付いてるから!! 大丈夫だから!!」


 アルは抵抗するイルに負けずに声をかけ続ける、しかし、イルが落ち着くことはない。

 その時、アルの後ろから更に優しく包む人がいた。


「大丈夫よイルちゃん! 私は大丈夫よ、だから……落ち着いて!!」


 後ろから2人を包むようにカリンもイルを励まし始めた。


「マ……ママ……」


 イルがカリンの顔を見た時、少しずつイルの身体と声に落ち着きの様子が見えてくる。それに合わせて、石人形の身体の瓦礫がどんどん崩れていき、中のぬいぐるみが中から出てくるとその場に落ちて、ピクリとも動かなくなってしまった。

 そして、騒ぎによってやってきた見回りの聖騎士達が現場へとやってきた。


「聖騎士協会だ!! この騒ぎは一体!?」


「君達!! 大丈夫か!?」


 1人の聖騎士が3人に駆け寄る。


「え、ええ私達は大丈夫よ」


 カリンは2人を庇う様に抱きかかえた。


 アルは怯えて、カリンにしがみつき、イルはカリンの腕の中で眠る様に気絶していた。


「何があったのか話がしたい、我が聖騎士協会の支部まで同行お願いできるだろうか?」


「ええ、そうして下さると私たちも助かります。アルちゃん大丈夫?」


「う、うん」


「わかりました。ではこちらへ」


 こうして、3人はフール達のいる聖騎士協会支部へと連行されることとなった。そして、この事は直ぐにもフール達の耳にも入る事となる。


次回の投稿まで少し間が空いてしまうと思います。

申し訳ございません。

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