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第59話 交差する善意

「イル……」


 アルもイルに向けて悲しい表情を見せる。


「その話……どういう事だ?」


「ほっほっほ……人間とは欲深い生き物じゃよ。自身の私利私欲の為ならば、例え善意のある物からも根こそぎ富を奪っていくのだからな。自分の立場を、権利を利用して弱者の幸せを消し去ろうとするのだからのう……その子らも、その悪しき者たちの私利私欲によって大切なものを奪われてきている筈じゃ」


 目に涙を溜めて、今にも泣きだしそうになっているイルをアルが優しく抱きしめる。これ以上この子たちを不安にさせるわけにはいかない。


「だから、儂は奪う……悪しきものから富を……儂は沢山……人間の悪なる面を見てきた。欲にまみれた哀れな人間を儂の力で裁くのじゃ。それはバルバドスや誰からの命令でもない……万年生きてきた、儂の考える善意じゃよ」


 玄武は静かにそう告げる。隣で白虎も黙ってその話を聞いていた。

 この玄武と言う四神は悪しき人間の為に自身の土地を操る力を用いていた。だから、ウッサゴでは地盤変動事件が起きていたのだ。しかし、これが本当に真の正義だろうか?

 玄武のやっていることは”ピカレスクロマン”の世界なら通用する話であるが、その善意による地盤変動でウッサゴの土地がめちゃくちゃになってしまう事だってあり得る。

 それに、元々四神は討伐しなくてはならぬ魔物……存在すれば魔物たちのバランスが崩されてしまう。現にあの幻影術など混乱を招く手段はいくらでもあるのだから。俺の仕事は四神を討伐すること……それが俺がこの世界で生きる善意だ。


「済まないが俺は、お前の考え方に賛同できない。確かに貴族やらの権力者はろくでなしばかりかも知れない。だけど、お前ら魔物がわざわざ介入してくる話でもない。お前達の行動が権力者だけではなく、この都市の一般人を巻き込み兼ねない問題だ! お前達は大人しくアビスフォールとやらに帰るんだな」


「ほっほっほ! なるほど、さすが朱雀を倒した事だけのことはある小童じゃ! その肝が備わった口調……気に入った、名は何と言うのだ?」


「フール、回復術士だ」


「フール、儂らも折角蘇ったのじゃ。ここでお前さんに倒される訳にはいかぬ」


 白虎が鋭い目でにらみつけて今にも襲いかかってきそうな形相になっていた。


「グルル……!!」


「待つんじゃ白虎、儂は話疲れたんじゃ……詳しい事はまた今度にしよう。おお、そうじゃそうじゃ忘れておったわい」


 玄武はおもむろに俺の目の前の地面を変形させていく。地面が割れ、その下から更に土が隆起して行くと大きな宝箱が出現する。それは宝石などが装飾された立派な箱で明らかに人工的に作られた箱だというのが分かる。


「最近、儂の根城にガラクタを放り込んだ大馬鹿者がおってのぉ……折角だし処分はお前たちに任せるとする。またお前たちと会えるのを楽しみにしておる! まぁ儂らに会うことができたらの話じゃがの……ではな」


「おい! ちょっと待て!」


 玄武は俺の言葉に耳もくれず大きな鳴き声を上げると瞬く間に土が一気に俺たちの目の前で隆起すると玄武と白虎のいた空間が遮断され、気配も消えてしまった。恐らく土地を変動させて違う場所へと移動したのだろう。目の前でこのような強力な能力を見せられてはやはり奴らを放っておくわけには行かない。

 玄武と白虎が姿を隠し、残ったのは玄武が置いて行った装飾が施された箱だけだった。「最近、儂の根城にガラクタを放り込んだ大馬鹿者がおってのぉ」と言っていたがもしかしたらこれがアルとイルが井戸に投げ入れたものかもしれない。


「不思議な魔物でしたね。なんだか今まで出会ってきた魔物とどこか違うような感じがしました。どこか憂いを持っていたというか……」


 ソレーヌは玄武に対して、どこか引っかかる思いを感じているようだった。確かに、俺もあのようには言ったが玄武が今まで出会ってきた魔物たちよりもどこか逸脱していた。恐らく、魔物でありながらも感情を持っているところだろう。


「また今度会えたらまた話を聞きましょ? それにあの箱の中身も確認しなきゃ」


 セシリアが箱を指さして言う。もしかしたら罠かもしれないのでセシリアに臭いを確かめてもらったが、危険な臭いがしないというのでどうやら罠ではないようだ。

 俺は箱に手をかけてみるが箱は固く閉じられていた。どうやら箱には鍵がかかっているようだ。周りを見てみるが鍵らしいものは落ちていない。玄武の嫌がらせだと思われる行動に溜息を洩らしつつ、もう少しこの箱に合う鍵を探そうとした時だった。


「開かないの?」


 アルが声をかけてきた。


「ん? ああ、あいつ……処分してくれと言う割には随分と適当じゃないか……」


「なら、私に任せて!」


 アルはそう言うと宝箱の鍵穴に手をかざす。するとかざしているその手が仄かに光を発すると箱から”カチャッ”と言う音が鳴る。


「開いた! 開いたよフール!」


 アルが笑顔でこちらに顔を向けた。


「本当か?」


 俺がゆっくりとその宝箱の蓋を開けようとすると、さっきまで固く閉ざされていた蓋が簡単に開いたのだ。その様子に全員が驚きの声を挙げた。


「ええーー⁉ 凄い! 本当に開いてるじゃない! 何々⁉ 何をしたの⁉」


「私も良く分かんない、えへへ♪」


 セシリアに褒められて照れる素振りを見せるアル。どうやら自分の能力の詳細は分からないらしい。


(マスター、少しよろしくて?)


 突然、シルフが話しかけてきた。


「どうしたんですかシルフさん?」


(恐らく、アルちゃんの力は”絶対解錠”と呼ばれる特殊能力かもしれませんわ。つまり、マスターの持つ力と同じ類の力と言う事です)


「それがアルの能力か……」


 さすがシルフ、見ただけで能力を分かってしまうとは。まぁアルはまだ小さいから能力について知らなくてもしょうがない話だけどやはり特殊能力を所有していることは明らかになった。だとすると、イルも持っているのかもしれない。そう予想しておこう。


「フール、開けてみてもいい?」


「開けてごらん」


 早速アルが、箱の中を見てみると、そこには可愛いクマのぬいぐるみとナイフホルダーに入ったナイフが入っていた。ナイフの中心に小さなルビーがはめ込まれており、戦闘用と言うよりかは観賞用に近いナイフである。


「これだ! 私たちの大切なもの! 良かった――♪」


「……ぬいぐるみ♪」


 アルはナイフを掲げ、イルはクマのぬいぐるみに抱き着く。


 高価そうなナイフとクマのぬいぐるみ……それらがアルとイルの大切なものの正体だった。








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