第53話 ヒーラー、奴隷を匿う
宿屋へ急に駆け込んできた少女を見ると、頭にはセシリアやルミナのような獣の耳が付いている。特徴から言って恐らく狐種の耳だ。赤い髪でショートヘアの少女の後ろにはさらさらの青い髪でロングヘアの少女が隠れるようにこちらを見ている。
しかし、その少女たちが身に着けているのは汚らしいボロボロの布切れのような服と首には鎖がついていたであろう首輪だ。その様子からこの子たちが明らかに俺たちとは少し違う扱われ方をしているのだと察することができた。さらにその後ろから複数人の人間の気配を感じた。
「不味い! 頼む!この子だけでも良いから!」
「うぅ……」
後ろの青い少女は今にも泣きそうな顔をしており、赤髪の少女が俺の服の裾を掴んで懇願してきた。
「ど、どうしようフール!」
セシリアも突然の事に困った様子でこちらに眼差しをつけてきた。
仕方ない、こうなったら……
そして数秒後、乱暴に扉が開けられると大柄で顔のいかつい男達が2,3人上がり込んできたのである。
「おいおい、てめぇら購入された商品の分際で逃げてんじゃねぇ!!」
1人の男のその手には鎖が握られているがその鎖に少女達の首輪がついていたであろう。
男達がキョロキョロと周りを見るが、自分たちの目的である2人の少女の姿がぱっと見えていることはなかった。
「いらっしゃいませ♪ 本日はお泊まりですか?」
カリンさんが冷静に笑顔で接客を始めた。
「俺達は客じゃねぇんだ‼︎ おいてめぇら、ここにガキが来なかったか⁉︎ 赤髪と青髪の女のガキだ」
俺達に向かって睨みつけてくる男に対して、俺が全員の前に出た。
「いや、そんな子供は見ていない。それに、客ではないのなら店側に迷惑だ。早急に立ち去ってくれ」
「バァカ言ってんじゃねぇ‼︎ 惚けても無駄だぜ、俺には盗賊の職業能力"追跡"の能力があるんだ! 俺たちの手から離れたガキどもと思われる足跡がここに続いてるのはお見通しなんだぜ? もし、匿おうなんて思うならお前らを殺してまでも奪うつもりだが? どうする?」
後ろの男達もニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
こいつらの職業は盗賊か……なら、探索能力に優れてるのなら当然か……しかし……どうする……
「よーーし、隠してねぇんならこの店を漁らせてもらうぜーー? 野郎ども! 探せぇ‼︎」
リーダー格の男の掛け声とともに下っ端の男達が散らばり、店の中を勝手に漁りだしたのだ。客室、ロビー、受付奥の部屋、ヨクジョウ、そして、キッチン。店のありとあらゆる所を荒らしながら探るが一向に2人の姿は出てこない。
「お客様! 困りますわ! そんなに荒らしては……」
「うるせぇ! テメェらが隠すのが悪いんだろうが!」
そして更に数分後、ある程度の探索を終えた男達の顔に焦りの様子が見え始めていた。
「あ、兄貴……もしかしたら本当に勘違いなんじゃ……」
下っ端の1人が弱気にもその言葉を発するがリーダー格の男は認めようとはしなかった。
「いや絶対ここにいる‼︎ 居ないと……俺たちがあの女に殺られるんだぞ‼︎」
「ですが、こんなに探しても居ないだなんて……」
「うるせぇ‼︎ くそっ‼︎ 見てろ……"熱源感知"!」
熱源感知とは範囲内に居る熱を持った物を感知し、見つけ出す事ができる盗賊の職業能力だ。そしてその男はあるところに目をつけた。
「そこから2つの反応がある……」
男が見たのはロビーの床だった。床の中央には開けることのできる扉があり、そこから床下に物が置ける作りとなっている。その下に反応があると知った男は急いでその床下に続く扉を開ける。
「ここだな見つけたぞガキ共ぉおおおおおお‼︎」
男が中を除いた時、そこにあったのは二つの大きな壺だった。中から湯気が出ており、それからは良い匂いがする。
「さっき作って置いたばかりのお客様の夕食をここに保存して置いているのです。それで……そこに子供がいらしたのですか?」
カリンが男に向かって煽るようにそう言うと男は額から汗を吹き出させながら、ショックを受けた様にフラフラとその場から下り、腰を落とした。
「ば……馬鹿な……確かにここにいるはずなのだ……どうしてだ⁉︎」
「気は済んだか?」
「ま、まだだ‼︎ こんなところで終われるわけ……」
まだ諦めない男を見かねて、横からセシリアが俺と男の間に割って入ってきた。
「ねぇ? 知らないって言ってるよね⁉︎ こんなに探していないんだからここには居ないのよ! それに私達は長旅でかなり身体が疲れてるの! そんな子供は知らないし、私達以外誰もこの店に来てなかったんだから、分かったならとっとと帰りなさい‼︎」
セシリアの耳と尻尾の毛が逆立ち、男達に向かって言葉強く匿う言葉を言った。
「兄貴、ここは一度あの方に報告を……」
「……くそっ‼︎ 覚えていろ‼︎」
そう言って、男達はとうとう探索を諦めて店から早々と出て行った。
「2度とこないでばーーか!」
カンカンに怒っているセシリアの頭を優しく撫でて、怒りを収めてやる。
そして、答え合わせだ。
「おい! 出てきて良いぞ!」
俺が声をかけるとルミナの盾の裏から2人がひょこっと顔を出す。窮屈で苦しかったと思うがよくあの長い時間を耐えたと思う。
「ルミナ、ありがとう。盾がまさかここで役に立つなんて」
「私の盾の結界は特定の能力から守ってくれるんですけど……正直、私もびっくりです!」
一か八か、ルミナの結界大盾の中に忍び込ませ、大盾から微弱の結界を張って見たがどうやらうまく相手の能力から逃れられた様だ。ルミナの結界の性能は物理防御だけではないのかも知れない。恐らく、能力抵抗・魔法防御もできる万能結界かもしれないな。
「あ、あの‼︎ ありがとうございます‼︎」
「……ます」
赤髪の少女が土下座をすると青髪の少女もそれに真似する様に土下座をした。
「大丈夫だ。ともかく顔を上げて」
俺の言葉で2人がゆっくりと顔を上げる。
「わ、私は獣人のアル、この子は私の妹のイル」
イルはゆっくりと頭を下げてお辞儀をする。
こうして俺たちはアルとイル、2人の獣人をうまく匿うことができた。次はこの子たちにいったい何があったのか聞かなくては……
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