幕間 ケモ耳少女達とエルフのガールズトーク
エルフの畔を後にした俺たちはアモンの村へと戻った。
「あっ!! おかえりだぞみんな!!」
村の人と話していたパトラは俺たちに気が付くと短い腕を必死に振ってこちらに走り寄ってくる。
「ただいまパトラ、ちゃんとお留守番できたか?」
「おう! オイラ、この村で勉強させてもらったぞ!! またこれでオイラも商人としてのスキルが上がったんだ、えっへん♪」
「私たちが居ないところでも頑張ってたなんて、偉いわよパトラ♪」
「ほんとです♪ ちゃんと帰ってきたご褒美に……パトラちゃんのぷにぷにのほっぺを所望します!!」
ルミナはパトラの頬を両手で掴むと優しく揉みしだく。
「フゴッ⁉ や、やめるんだぞ!! ルミナ放せぇええええ!!」
「はわわわぁ~~♡ きもちいいですぅ~~♡」
そんな二人の様子を見たソレーヌは手を口に当ててクスクスと笑っている。なんだか、こんな風景がとても微笑ましくて俺の心も温かくなる。少しだけ、この微笑ましい風景を堪能した後、俺たちはファラス村長の元へと向かった。俺たちが森に平和が戻ったことを告げるとファラス村長は大喜びだった。すると、ファラス村長は「良かったら是非、宿屋で泊っていくと良い! もちろんお代はわしの方から只にしておくのじゃ!! 本当にエルフたちを救って下さりありがとう!!」と言っていたので今日はアモンの村で身体を休ませることにした。
それから、俺たちが宿屋へ向かうと女将さんが出迎えてくれる。ファラス村長の事を伝えると俺たちの事を快く受け入れてくれた。今回、女将さんは部屋を男性用と女性用それぞれに分けてくれた。
女将さんの話だと、今日は貸し切り状態にするのでお好きにして良いと言うことだったので俺が4人が楽しく泊まれるようにしてほしいと頼んだらこういう結果になった。俺と4人は分かれて、泊まる部屋へと向かう。前に泊まったバールの宿よりは狭いが、普通の宿屋の一人部屋としてはベッドやテーブルなどある程度の設備が整っているので十分である。
なお、この宿には”ダイヨクジョウ”があり、時間帯で男女変化するらしい。今は女性の入浴時間だと女将さんが言っていた。俺は荷物を下ろして横になり、一息ついた。
俺はベッドの上で改めて朱雀との戦いを思い出す。まさか……あれ程の強さだったとは……俺たちが強いとまで思っていたカタリナのパーティでさえもかなわなかった敵を討伐できたことが今だに嘘のような感覚である。ふと、首につけた緑色の召喚石のついたペンダントが目に入る。風の最上位精霊であるシルフを召喚できたことも良いイレギュラーだった。そして、ソレーヌに魔力を渡すことができた”魔力譲渡”の能力も習得できた。これらの経験で俺の”魔力無限”の能力の新たな可能性が生まれたことに気が付いた。もしかしたら、様々なことに応用できるかもしれない……
そう考えて視線を横に向けると、エルフ達からもらった"妖精ノ杖”が目に入る。
「俺は……また、救ったのか……」
そう一言だけ呟くと、一気に睡魔が襲い掛かってきた。考え疲れたのか、はたまた今までの戦いの疲労からか……瞼が閉じられていく。俺の入浴時間まで時間がある……俺は少し休むことにしよう。
フールが部屋で身体を休ませている頃、セシリアとルミナとパトラ、そしてソレーヌは宿屋の”ダイヨクジョウ”へとやってきていた。
「わーー!! ひろーーい!! ここ全部使っちゃって良いのーー⁉」
ロングタオルを身体に巻いたセシリアはタオルの下から出る尻尾を揺らしながら、湯気が立つ大きな湯船を目を輝かせて眺める。
このダイヨクジョウには石で出来た大きな湯船と部屋の隅には体を洗うための席が並べられてあった。
「にへへ~~オイラ一番乗りーー!!」
タオルも体に巻かず裸一貫で湯船に浸かろう駆けて行こうとするパトラをルミナが抱っこで止めた。
「駄目ですよパトラちゃん、湯船に浸かる前に身体を洗わなくちゃ! くふふ……私がパトラちゃんの身体を洗ってあげますからね♪」
「ま……待てルミナ!! オイラが、オイラが悪かった!! ちゃんと体洗ってから入るから自分で身体を洗わせるんだぞ!!」
「だ・め・で・す・よ♡」
「にゃあああああああ!! 汚されるーー!!!!!」
……と、何はともあれ全員が身体を洗い終えると湯船の中へと浸かった。お湯は白く濁ったようなお湯で、立て看板には濁り湯と書いてある。
濁り湯に浸かった4人は「ふぅ……」と一息ついた。
「今日も疲れたわねぇ……」
「そうだねセシリー、朱雀も強かったけどどうにかなってよかったよ~~」
「本当ですね……えへへ……」
「ソレーヌさん? どうしたんですか?」
「ああ、いえ……私、他人と言うか……妖精族以外のお友達とこうやって楽しく湯船に入ったことなかったから嬉しくなっちゃって」
「むむ? そーーいえばソレーヌも仲間に加わったのか⁉」
パトラが驚いた表情をソレーヌに向ける。
「はい! 不束者ですがよろしくお願いしますです!!」
「おう! オイラはパトラだ!! センパイと呼ぶんだぞ」
パトラは湯船の石の上に仁王立ちで乗り、どや顔を見せる。
「じゃあ……ここには女子だけしか居ないと言うことで……ガールズトークしちゃいましょう!!」
いきなり、ルミナが頭の耳をぴんと張らせて、笑顔で右腕を高々と上げると唐突に何かが始まった。
「ふぇ⁉ ガールズトーク⁉ ちょ……ちょっとルミナ!」
「「がぁるずとおく?」」
セシリアは突然のルミナの言葉に顔が赤くなっていく。一方で、よく理解できていない顔をしているソレーヌとパトラが首を傾げ、疑問符を頭に浮かべていた。
「ガールズトークって言うのは女の子だけの秘密のお話することを言うのよ♪」
「おぉーー! 面白そうだなそれ!!」
「秘密……秘密ってことは……えっ⁉ つまりそう言う⁉」
興味深々に目を輝かせるパトラとは裏腹に察しが良いソレーヌはセシリアのように顔がどんどん赤くなっていく。
「じゃあ早速……ねぇセシリー? フールの事どう思ってるの~~?」
「え? えぇえええええええ⁉ そそそそそそそそ……そんなこと急に聞いてどうするのよ⁉」
セシリアは湯船の中に浸かった尻尾が水を切るようにブンブンと振れている。ルミナはその様子を見て、にやにやと笑っている。
「分かりやすいリアクションね♪ ねぇ? 2人も話聞きたいよね~~?」
「オイラも聞きたい聞きたい!!」
「わわわわわわ、私も! き、聞きたいかなぁ~~なんて……」
「むむ? ソレーヌ? どうしてもじもじしてるんだぞ?」
「はぇ⁉ いや、そんなことないもん!」
「湯船でおもらしはだめなんだぞ……」
「ち、違うってばぁ!!」
「そう言う事で……セシリー! 答えなさ――い♪」
「ええ……と……」
セシリアは視線を下に向け、湯船の中で少しの間もじもじとする。後ろの尻尾を前に出して、尻尾を握りしめながら話し始めた。
「フールは……その、私の事を助けてくれて……私の事も認めてくれて……だからここまで頑張れてるって言うか……なんだろ……」
そして、セシリアは赤い顔を尻尾で隠す。
「あの人といると……ドキドキするんだもん……♡」
お湯の熱さにのぼせているのかそれとも羞恥心が最高潮に達したのか……セシリアの頭から湯気が立ち込め始めた。
「きゃーー♪ セシリーったら可愛いーー♪ 照れちゃってもぅ!! でもでも!! セシリーはいつでも私の物なんだから♪」
そう言ってルミナはセシリアを強く抱きしめる。ルミナの豊満な胸がセシリアの背中に当たり、セシリアはその時少しだけ複雑な心境になった。
「でも~~フールさんを振り向かせるためには……もう少しそこを成長させないとね?」
ルミナが向けた視線を辿るとセシリアのタオルで綺麗に包まれた控えめの胸にたどり着いた。ここはセシリアにとって長年のコンプレックスであったため……その言葉を言われた時……セシリアに電流走る!!
「うっさいわよ!! あんたも何よこのだらしないおっぱいは!! 何食べたらこんなに大きくなるのよ馬鹿馬鹿!! それになんでこんなに柔らかいのよ!!」
セシリアはルミナの後ろに回り込み、その今にもタオルからこぼれそうな隠しきれていない胸を後ろから掴んで揉み始める。
「あん♡ ちょっとセシリー!! 揉むならやさしくしてぇ♡」
揉まれているルミナもどこかまんざらでもない様子で喜んでいるようだった。2人で幼い子猫のようにじゃれ合い盛り上がる様子をソレーヌとパトラは静かに眺めていた。
「楽しそうですね……あはは……」
「……ソレーヌはどうなんだぞ?」
「えっ⁉ 何がですか⁉」
急なパトラの振りに驚き、ソレーヌの体が一瞬跳ねた。
「フールの事、どう思ってるんだぞ?」
「わ、私……ですか?」
ソレーヌは顔をうつむき、真っ赤になった顔を隠し、真っ赤になった耳を隠そうと両手で耳を覆い隠す。
ソレーヌはフールと出会ってからの今までの記憶を思い出していた。そして、数分の思考時間が経つとソレーヌが口を開く。
「私も……フールさんは良い人だと思ってます……皆さんのおっしゃっていた通り、フールさんには凄い力があるのは理解しました。でも、私はそんな能力を持ったフールさんでは無くて……や、優しいフールさんが素敵だと思ってます。何でしょう……今までの事を思い出すと胸が熱くなってくるんです。彼に手を握られた時……彼に守られた時……彼に話しかけられたとき……そして、彼に……抱きしめられた時……」
ソレーヌは小さく胸に手を当て、目を閉じた。やはり、今また思い出すとドキドキしてしまう。胸が熱くなって、どんどん体に流れる血の流れを感じることができるのだ。
パトラはその時は静かにそして、真剣に話を聞いていた。そして、ソレーヌが話し終わるとフッと鼻で笑うとソレーヌの前にやってくる。
「ソレーヌ、それは紛れもなく恋なんだぞ」
「恋……ですか?」
「うむ……センパイであるオイラが言ってるんだ……ただ『商品はずっと売れ残りのままではない』と言う事だぞ」
そう言って、パトラはゆっくりと湯船から出るとソレーヌの近くにある石に座った。
「ふぃ~~浸かりすぎたんだぞ~~あつぅ……」
「パ……パトラちゃん……」
「因みにオイラもフールは良い奴だと思っているんだぞ!! 子ども扱いしないところが良い!」
一瞬だけ真剣だったパトラの顔はいつもの抜けた幼女の顔に戻っていた。さっきのパトラの台詞がソレーヌの胸に突き刺さる。突き刺さった場所から溢れ出るほどの情熱が生まれ、ソレーヌの心を包んだ。
ソレーヌは胸の前に置いた手を握りしめると深呼吸する。
「私も頑張らなきゃ……」
そう呟いて、天井を見上げる。ダイヨクジョウで繰り広げられた女たちの秘かな思いが濃い湯気に包まれ、隠されるのであった。
そんなことは勿論、フールは知る由もない……
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