第46話 ヒーラー、感謝の品を貰う
朱雀を倒し、一度俺達はダンジョンの外へと出た。長い間ダンジョンにいた為か外は夜が更けていた。相変わらず、セシリアは腕から離れてくれない。
「では、私たちは早急にアガレスへと向かい、ギルドに報告する。お前達はどうするのだ?」
「俺たちは一度、エルフの畔に行って安全になった事を伝えてくるよ。そこまでソレーヌを送っていく。それからはアモンの村へ行った後、またバールへと戻って四神の討伐を伝えにいくよ」
「そうか、分かった。お前達が居なくては四神も討伐できずに命も失っていた。お前達の行った事は全てギルドに伝えておく。きっと、良い知らせがお前たちにくるだろう。また会った時には、談話でもしようではないか」
そう言ってカタリナが俺に右手を差し出した。俺も返すように右手を差し出し、厚い握手を交わした。しかし、握手が長くなるほど左腕に抱きつくセシリアの締め付ける力が強くなっていく。痛いよセシリア……
「おい……お前、フールで良いんだよなぁ?」
突然、ライナが横から話しかけてきた。
「良いぞ、どうしたんだ?」
「その、よぅ……襲っちまったのは、悪かった」
そう言って、ライナは頷くように首だけを下げて謝った。
俺たちが初めて出会った時に襲いかかってきた事を言いたいのだろう。別に、そこまで怒ってはいないのだが……
「ああ、別に気にしてないぞ。多分、みんなも」
「そうかい……」
ライナが謝っている様子を見て、カタリナ、セイン、サラシエルがとても驚いた様子で見ていた。
「うそ……あのライナが謝ってる?」
「今日は嵐が来そうですね」
「ふふ……とうとう成長したのか」
「う、うるせーーぞお前ら‼︎」
ライナは顔を赤くしながら3人に向けて叫ぶ。高レベルパーティといえどあの沈んだ顔から明るい笑顔が戻ってとても見ていて微笑ましい。
「それでは、私達は行くぞ。さらばだ」
こうして、カタリナ達は俺たちの元から離れ、アガレスへと帰っていった。俺たちも移動を始め、畔の近くで隠れているエルフ達の隠れ家へと戻った。
戻ると、見張りのエルフが俺たちを見つけて声をかけてきた。
「皆さん、お帰りなさいませ! どうでしたか?」
「安心して良いよ。朱雀は討伐できたから、これで隠れなくても大丈夫」
「ほ、本当ですか⁉︎」
俺がそう言うとエルフは目を光らせると、洞窟の中へと一目散に駆けていく。
俺たちも後を追うように洞窟の中へと入り、奥へと向かう。するとセレナを中心にエルフ達と小妖精が俺たちの帰りを出迎えてくれていた。
「お待ちしておりましたよ、ソレーヌに皆さん。この度は朱雀の討伐をして頂き、本当にありがとうございました。これで私達妖精族はこの森でまた、暮らす事ができるようになります」
セレナが深々とお辞儀をすると、その場にいた全ての仲間達が合わせてお辞儀をしてくれた。
「本当に私たちは皆様に感謝の気持ちで一杯でございます。せめてもの気持ちとしてお礼の品をお持ちします。あれを持ってきて……」
セレナが1人のエルフに言うと傍から木製の大きな箱を持ってくる。
エルフはそれを俺の前に持ってくると差し出してくる。
「これは?」
「お開けになって」
セレナに促された通り、渡された箱を開けて中身を見る。中には杖が入っていた。全体は緑色で先端には小妖精の羽が模された様な装飾が付き、中心には緑色の水晶玉が埋め込まれた魔法の杖だった。
「これはユニークウェポン"妖精ノ杖"、使用者に風の力を与える杖です。魔力をこの杖に込める事で風魔法を使う事ができるようになります。私が渡したペンダントはお使いになられましたか?」
「はい! このペンダントの力で俺達は救われたと言っても過言ではないです」
「うふふ、それは良かった。そのペンダントで召喚した風の精霊がこの杖の力をもっと引き出してくださるでしょう。本来ならこの杖は選ばれた妖精族の者が使う為の武具……しかし、フール様ならこの杖を使いこなす事ができるはずです。私がそう思いましたのでこの杖を差し上げたいと思います」
俺がその杖を掴むとまるで俺の魔力に反応するかのよう緑の宝石が光出した。
「おお、妖精ノ杖が所有者として認めてくれています。フール様、この杖を使って私共の様に困っている方々をこれからもお救いになって下さい」
「ありがとうございます、セレナさん」
「あ、後それと……」
すると、セレナが後ろから大きな麻袋を取り出して俺たちに差し出してくる。
「他の皆様にだけ何もないと言うのは宜しくないと思いまして、森が燃える前に貯蓄していた森の果物を乾燥させたドライフルーツでございます。そのまま食べても構いませんし、お料理の中に入れても構いません。長い旅でお腹が空くと思いますのでおやつとしてこちらをお持ちになってください」
「ドライフルーツ! 美味しそう!」
セシリアが食いつく様に麻袋の中を開くと、中には色とりどりのドライフルーツが沢山入っていた。
「すごーーい! 一杯です!」
ルミナも尻尾を揺らして興味津々だった。ドライフルーツと言うのは女の子に人気がありそうだ。
「そして……ソレーヌ、こっちへいらっしゃい」
「は、はい!」
セレナに呼ばれてソレーヌがゆっくりと前に出る。そしてセレナの前へとたどり着いた時、セレナはソレーヌを優しく抱きしめた。
「ソレーヌ……よく頑張りました。貴方は私たち……妖精族の誇りです。大変だったでしょう、怖かったでしょう……でも、私は貴方がそれを乗り越えて使命を果たせると信じていました。ありがとう……ソレーヌ」
「セ……セレナ様……」
セレナに頭を優しく撫でられ、ソレーヌはセレナにすべて身を任せていた。まるで、本物の母親に抱きしめられているような安心感と暖かい毛布に優しく包まれた赤子のようだった。
「セレナ様……」
「はい、何でしょう?」
「お願いがあるのです」
ソレーヌはセレナから一歩引くとセレナへ向けて跪く。
「私は、弱かったんです……今回の朱雀討伐の中で私の力の不甲斐なさを感じて、皆さんに迷惑をかけました。私はもっと強くなりたい! 強くなって、この森を脅かす者たちからセレナ様をお守りしたいのです。あと、これは私のただの私欲であるのですが……私は外の世界を歩いてみたいのです。この森でみんなと暮らすのも楽しいです。ですが、フールさんたちと出会って短い時間ながらも色々な経験をしました。経験をするたび、私はわくわくしていきました。その時、私は冒険がしたいと思った……だから……セレナ様、私が一度この森から離れる事をお許しください!! お願いします!!」
セレナに向けて土下座のように頭を下げるソレーヌ。セレナはソレーヌに歩み寄り、手を優しくソレーヌの頭に置いた。
「顔を上げなさいソレーヌ」
「はい!」
「私は貴方自身が決めたことに対して、止めたり、咎めたりするつもりは全くありません。逆です……貴方が何かに興味を持ち、それに向かって進む貴方を応援します。ただ……無理はしないことです。帰ってきたくなったらいつでも帰ってきなさい。貴方の帰りを私たちはいつでも待っているのだから」
その言葉を聞いたソレーヌは嬉しさが込みあがり、涙が溢れそうになるがそれをセレナが指で優しく拭ってくれた。
「おやまぁ……旅立つ者が泣いていては先が思いやられますね……」
その時、ソレーヌがセレナの顔を見るとセレナの目から涙がこぼれ落ちていた。一人の娘のようにかわいがってきた子が巣立つと言うのは何とも辛く、悲しいのだろう。
「セレナ様! 私は必ず立派になって帰ってきますから!! 絶対に!!」
「はい……貴方ならできます、きっと……」
そして、ソレーヌは回れ右をして俺たちの前まで駆け足で近寄ると頭を下げた。
「お願いします!! 私をフールさんたちのパーティに入れてください!!」
俺たちは顔を見合わせる。セシリアもルミナも微笑み、言わずもがなと言った感じだった。俺は縦に頭を振ってソレーヌの肩に手を置く。
「ああ! 大歓迎だ! これからもよろしくな、ソレーヌ」
「よろしくねソレーヌ♪」
「よろしくですソレーヌさん!」
全員がソレーヌのパーティ入隊を受け入れた。ソレーヌの顔はぱぁっと笑顔が広がる。
「ありがとうございます!! 私は今後も皆さんを支えていけるように頑張ります!!」
「フールさん、どうかソレーヌの事よろしくおねがいしますね」
「セレナさん任せてください。俺たちがソレーヌを支えますから」
「うふふ……良い人たちで良かったです。いつでもここにいらしてくださいね? あなた方は私たちの英雄なのですから」
セレナの台詞で周りのエルフや小妖精が一気に歓声を上げた。
「ありがとう! ありがとう!」
「私たちの英雄!!」
「フール様万歳!! セシリア様万歳!! ルミナ様万歳!! ソレーヌ万歳!!」
こうして、ソレーヌが仲間となって妖精族からお礼の品を頂くことができた。森の復興はゆっくり妖精族総出でやるとのことですぐに四神討伐の報告に向かって欲しいとのことだった。
俺たちはそれを聞き入れて、周りの熱い声援を浴びながらすぐに森を移動した。これからはアモンの村にも報告に行きつつ、そこで休んでからまたバールの村へと戻ることにしよう。
こうして、俺たちは森の危機を救ったのであった。
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