第27話 旅立ちの朝
俺は夜夢を見た。それは恐ろしい悪夢だった。夢には俺とセシリアと他2人が居たが記憶が曖昧でよく覚えて居ない。多分4人パーティだったんだと思う。場所はダンジョンなのか分からない真っ黒な暗闇の中、その空間内で俺以外が全員ボロボロで倒れているのだ。俺は急いでセシリアを抱き抱える。
その時、セシリアが俺に何かを呟いた気がしたがこれも覚えては居ない。そして、みんなが突如消滅すると目の前には暗闇の中で黄色い目だけが此方を睨んでいる巨大な何かがいたのだ。それがどんどん俺に近づいてくる。
暗闇の中でそのシルエットは巨大な竜の姿をしており、体全体が闇に覆われていた。その竜が俺の身体に喰らいつくところで夢が途切れ、目が覚めた。
目を開けると宿屋の部屋のベッドの上にいた。俺はこれが夢だったことに気がつき落ち着つきが戻ってくると思った。
しかし、何だか身体が重い気がする……
俺は布団を捲ると俺の上でセシリアがすやすやと眠って居た。そして、布団の中に光が入ってきたことに気がつき、セシリアが目を擦りながら起きると俺の顔を方を向いた。
「えへへ……おはよぉ……」
セシリアはまだ寝ぼけているのかそのまま俺にキュッと抱きついたまま二度寝を図る。
セシリアの優しく、暖かい寝息が俺の胸に伝わり変な気持ちになってくる。セシリアの尻尾が俺の脛に当たりくすぐったい。俺はセシリアを起こそうと思ったがさっきまでの悪夢見ていたので元気そうなセシリアの顔を見ると安心してしまった為、思わずスヤスヤと眠るセシリアの頭を撫でてやった。
いつか、あの夢が正夢にならない様に俺が守ってやらなくては……
俺はそう決意した。
「おっはよーーだぞーー‼︎ 今日も清々しい朝なんだぞーー‼︎」
突如、ぐっすり休んで元気を取り戻したパトラが俺の部屋に乱入してきた。俺の布団の中にはセシリアがいる……バレたら色々面倒だ!
「お、おはようパトラ……」
「んぇ? パトラちゃ……むぐ!?」
パトラの声で目が覚めたセシリアが俺の布団から起きあがろうとしたが、俺がそれを遮る様に思わず抱きしめる形になる。
「ん? 何か声が聞こえた様な?」
「気のせいだ気のせい……」
「むむ? 何でフールの布団そんなに膨らんでるんだぞ?」
「ああ! これは寒いから布団の中で着替えしようと思ったんだよ! パトラも準備してきな?」
「……ふーーん、まぁ良いんだぞ」
そう言ってパトラは自分の自室へと戻っていった。
何とかパトラにはバレずに済んだみたいだ。
「ごめんなセシリ……ア?」
セシリアは布団の中で顔を真っ赤にしながら放心状態になっていた。
「セシリア⁉︎ 大丈夫か⁉︎」
「ら……らいじょうぶれすぅ……」
(フールに抱きつかれたぁ……はぁ……♡♡)
結局最後の最後まで落ち着かない朝となった。
それから、各々部屋に戻り、宿から出た朝食を食べ、身支度をして宿屋のフロントでみんなと合流した。そして、忘れ物がないか荷物のチェックをして俺たちは宿屋から出る。
「ありがとうございました。又のお越しをお待ちしております」
宿のオーナーであろう女性が深々と頭を下げ、俺たちの帰りを見送ってくれた。高級宿屋はやはり他の宿屋とは一味違った。疲れの取れ方が違う。昨日の疲労感がまるで嘘の様に体が軽い。
まぁ……精神的には色々疲れたけど……そう言えば、旅立つ前にバール王が荷馬車を用意してくれると聞いていたので一度バール城へと寄ることにしよう。
バール城へと向かう途中に中央広場を通らなくてはならないのだが、相変わらず補修工事は続いたままだった。木工士達が高所からぶら下がって壁を塗り固めていたり、木板を打ちつけたりしている。そんな、様子の中央広場の真ん中の噴水で1人佇んでいる人影が見えた。
「あ……セシリーとフール……」
「ルミナじゃない! おはよう! どうしたのこんな所で1人で居て?」
そう、昨日まで俺たちと戦ってくれたセシリアの親友のルミナだった。確か、昨日は仲間の様子を見に行かと言っていた。しかし、他の仲間などは居らず、ルミナ1人だけで中央広場にいたのだ。
「そ、そのことなんだけど……」
ルミナはどこか声のトーンが低く、元気がない様子で話を始めた。
「私の仲間がみんな、 S級モンスターとの戦いのせいでそれがトラウマになっちゃって……もう戦えないって冒険者を辞めたり、パーティから抜け出りしちゃって、私のパーティ……解散しちゃったんだ。残った私1人でどうしようかなって……」
「ルミナ……」
どうやら、ルミナのパーティは皆、 S級モンスターの戦いで心が折れ、パーティ解散を余儀なくされてしまった。それでもルミナは冒険がしたくてここで今後のことを考えていたってことか。
すると、ルミナは俺の手を掴んで俺の目を見た。
「だから……フールさん! 私をフールさんとセシリーのパーティに入れて下さい‼︎ 私、このパーティの盾となり、皆さんを護ります! それに、セシリーとフールさんとなら私……頑張れます!」
ルミナの言葉を聞いた俺とセシリアの気持ちは一緒だった。
「勿論だ! ルミナが居ると頼もしいよ。これからよろしくな、ルミナ」
「私たちのパーティへようこそルミナ♪」
俺たち2人の言葉を聞いて、ルミナの顔が明るくなっていき、満面の笑みで俺に抱きついて来た。
「ありがとうございます! 私頑張ります!」
ルミナのプレートアーマーの穴から見える谷間を見ないようにルミナの綺麗な金髪を撫でる。その隣でセシリアが頬を膨らませ、俺の腕に抱きついてくる。
「ル……ルミナにだけとかずるいわよ」
「はいはい」
俺は笑いながらセシリアにも頭を撫でた。何だか、2匹の動物でも飼ってるような気持ちになる。
「むむぅ……おい、オイラの事も忘れるなお前ら」
そう言って俺の後ろからひょこっとパトラが顔を出す。
「はわわぁーー♪ なんですかこの愛くるしい子はーー‼︎」
そう言ってルミナはパトラを抱っこして、抱きしめながら撫で撫で攻撃をし始めた。パトラの顔が鎧の穴から見えるルミナの谷間に埋まり苦しそうだった。
「もがもが‼︎‼︎(やめろーー‼︎‼︎)」
俺はいつもの通り、ルミナからパトラを取り上げて元の場所へと戻す。
「何するんだぞ‼︎ オイラを子供扱いするなと言ってるんだぞ! ぷんすか!」
「ご、ごめんなさい! つい、可愛くて……えへへ」
「紹介するよ、この子はパトラで行商人だ」
「よろしくだぞ!」
パトラはまだ不服なのか頬をパンパンに膨らませてルミナの前で仁王立ちする。
「私はルミナです! よろしくねパトラちゃん」
ルミナは撫でるのではなく、パトラにそっと右手を出すとパトラはそれに受け応えるように握手をした。
「そうそう、これだぞ。これが大人っぽいんだぞ。よろしくなルミナ!」
「はい!」
こうして、ルミナが俺のパーティの仲間に加わり新たな仲間となった。
そして、俺たちはルミナを連れてバール城へと向かう。バール城前へとたどり着くと俺のことに気がついた1人の番兵が俺の元に駆け寄って来た。
「フール様ですね! 旅の準備はもうなされましたか?」
「ああ、大丈夫だ」
「こちらでフール様達の荷馬車を用意しております。こちらへお越しを」
そう言って俺たちは番兵に付いて行き、バール城の裏の馬小屋の前へと向かった。馬小屋へ向かうと馬2頭が物や人を多く運ぶスペースが十分に用意された荷車を付けて待機していた。
「凄ーーい‼︎ 憧れの馬車よ♪」
「こ、これが私たちの物になるんですか⁉︎」
「すげーー‼︎ 一流の行商人になった気分だぞ!」
3人の目が星のように光り、とても嬉しそうだ。
俺はその操馬席へと座り、ゆっくりと歩かせて馬小屋から外へと移動させる。馬もかなりの調教をされた馬のようで落ち着きがあり、命令に忠実に従うエリートな馬のようだ。
3人も早速、荷馬車の中へと入る。後ろでとても楽しそうに3人が話している声が聞こえてきた。
ははは、楽しそうで何よりだ。
「こちらから外へと出られます! どうかお気をつけて!」
「ありがとう、王様によろしく伝えてくれ」
俺は番兵に礼を言うと、国の外に向けて馬を走らせる。馬は2匹が一緒に一鳴きすると軽快に走り出す。
こうして、俺たちの本当の自由な冒険が始まるのであった。
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