第154話 運命の輪 蘇る世界
俺はセシリアの治療を続けていた。
セシリアに完全治癒の魔法をかけ続けているが、一向に傷が癒えることはない。竜魔神の力によって魔法の効果が遮断されてしまう凶悪な効果によってセシリアは苦しみ続けている。
一応、息はしているが治療できないのなら時間の問題だった。
「フ、フール!! このままだとセシリアが死んじまうんだぞ!! なんとかならないんだぞぉ!?」
「今やってる!!」
俺は苛立ちながらもセシリアへの回復を止めない。
頼む、生き返ってくれ。
そう願う、だけでどんどんセシリアの体力は奪われて行くだけだった。
「くそぉ!! どうしてだ!? 治りやがれ、治りやがれよ!!」
俺は正直自分を高く括っていた。俺の力があれば誰もかれも治せると思っていた。慢心した心があったんだ。
でも、この現状を見て俺は絶望している。セシリアもう助からない。俺の力があっても魔法の効果が効かなくては意味がない。
俺の額から汗が流れ落ちる。祈るように杖を持ち、セシリアを見る。あんなに綺麗だった顔が火傷で黒く焦げてしまっていた。俺はこの子を死なせるわけにはいかない。
それは、彼女の母親であるケルディアから受け継いだものがあるからだ。その中には、勿論セシリアも入っている。
ケルディアから受け継いだ思いをここで打ち砕かせるわけにはいかない。
しかし、その思いを打ち砕く様にセシリアの傷はずっといえない。
奇跡など起きない。
どんどんセシリアの呼吸が弱くなって行く。
もうだめだ。
俺には何もすることができない。
ここまでか……
(諦めないで下さいマスター)
シルフの声が聞こえると突然、胸元にかけていた4つの宝石が輝き出すと、俺の頭上に四大精霊達が姿を現した。
(まだ諦めるは早いよ! マスターはもっとあーし達とか頼らなきゃ)
(遂にこの時が来たんだねーー、ねーーノームちゃん)
(フンス)
(マスター、まだ諦めてはいけません。まだ貴方には私達がついております)
「でも、どうすることもできない」
俺が肩を落とすとシルフは俺の背中を優しく摩る。
(今から、私たちの力を貴方に託します。私たちが1つになってマスターの魂と融合します。私達四大精霊は私を核に合体することで大きな力になるのです。私達の思いもマスターに託します。どうかこの力が、貴方様を助ける事を……私は信じております。だから、貴方も私たちの事を信じて下さい)
シルフは大きく舞い上がり、その周囲をサラマンダー、ウンディーネ、ノームは泳ぐように漂い始めた。
(良いですか皆さん、覚悟の用意は?)
(あーーしはいつでもおっけいだよん♪)
(私もいいよーー)
(フンス!)
(では、行きますよ)
シルフは深く深呼吸をすると、腕を開いて歌い始めた。シルフの透き通った声がこの部屋中に響き渡る。その歌声は部屋の至る所に映えた魔結晶や雑草など、あらゆる自然が踊り出したように動き出す。
聞いている俺も、なんだか心地よい気持ちになる。まるで、生まれたての赤ん坊が初めて母親の腕の中に入れられるかのようだった。
歌に合わせて精霊達は光の塊となり、シルフの体の中へと入っていく。3つの精霊の光が体の中へ入る頃にはシルフの歌はフィナーレを迎えた。
そして、最後にシルフも大きな光となり俺の元へと降り寄ってくる。
(どうか、世界を救って下さい)
シルフのその言葉を最後に光はフールの背中へと入っていた。
「っ!?」
フールは胸に熱いものが込み上がってくる感覚に襲われた。胸の奥で溜まっていた何かが今にも吐き出されそうになる。
(運命の輪が回り始めたか、これで我の復活の条件は揃った)
今度は俺の頭の中に男の野太い声の様なものが聞こえてくる。
(さぁ! 覚醒するのだ!!)
俺は苦しみから解放されるように眼を開くと俺を中心に光の柱が立った。そして、俺の周りには蒼くキラキラ輝くオーラに包まれていた。そのオーラはまるで四足歩行の鹿に似た幻獣の影の形をしていた。
「フ、フール大丈夫か!?」
今、パトラに声をかけられたが何故か全く気にしなかった。さっきまでの焦燥感は消え去り、落ち着いた様子で俺はセシリアに触れた。
触れた瞬間、俺の頭の中でシルフに似た声が響いてくる。
(森羅万象を起動します。解析対象の生命体に魔法遮断効果が付与されています。解析し、削除しますか?)
俺が縦に首を振る。
(確認しました。魔法遮断効果を削除中……)
(……削除が完了しました)
俺は杖を持ち、再び完全治癒の魔法をかける。
なんと、これまで治すことができなかったセシリアの身体が一瞬にして回復し、顔色が回復する。
「……んっ」
セシリアはゆっくりと目を開け、視界を合わせていく。正面にはフールがいた。しかし、いつものフールと違いセシリアは驚いてしまった。
「フール、どうしたの?」
俺はセシリアの声を無視し、ゆっくりと立ち上がりルミナとソレーヌの元へ向かう。
祈る2人の間に入り、2人の肩に手を置いた。
「ああ、神様。ありがとう」
「奇跡は起きたんですね」
2人はセシリアの復活による安心感と疲労困憊の身体によって気絶してしまった。ルミナが気絶してしまったことに寄って結界は解かれてしまった。
俺の周りには8体の竜魔神が待ち構えている。息を切らしながらも8体は俺の事を殺気立てて睨みつける。
「やっと出てきたか! これで、これで貴様を殺せる!! さあ死ぬがいい!!」
俺はゆっくりと視界を360度回転させる。目に映った竜魔神に対して森羅万象が起動する。
(解析対象:”竜魔神“八岐大蛇
世界的特異能力:【能力除去】【増殖】【鳥籠の呪い】【無限再生】【憤怒】【悪魔化】【能力強奪】
を確認しました。解析対象に施されている能力の削除を行いますか?)
俺は縦に頷く。
(確認しました。対象の能力を削除中……)
(……削除が完了しました)
すると、竜魔神に異変が起こる。竜魔神の複製体がドロドロに溶け始めた。
「な、何だ!? 我が能力が!? 貴様何をした!? ま、まさか! 森羅万象が!?」
(対象の耐性に新たな能力を付与させますか?)
俺はまたしても縦に頷いた。
(確認しました。対象に能力を生成しております……)
(……完了しました。個体名【八岐大蛇】に【全属性弱点】を付与しました。続いて、個体名【麒麟】を召喚します)
俺はふっと力が抜け、魂が抜けたように倒れる。
倒れた瞬間、俺の背中から魂がが抜かれるとフールの周囲に纏わりついていた蒼い幻獣の影の中へと入る。
グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
大きな雄叫びと共にその幻獣は具現化し、周囲にはビリビリと雷が纏っていた。
「き、貴様!? 何者だ!?」
幻獣はゆっくりと口を開けた。
「我は魔力の海より出し者、我が名は”麒麟“。この世界の均衡を保つ者なり」
遂に次回、最終回!!
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