第153話 護りの祈り
「無駄だぁ!!」
竜魔神は大きく息を吸い込むと8つの口から激しい火炎放射を行う。セシリア、太刀と自身の華麗なる動作によって炎を避けると、あっという間に竜魔神の懐へと入った。
「たぁああああ!!!!」
竜魔神の懐で大太刀を大きく振りかぶり、1頭の首に向けて太刀を振り下ろした。EX治癒の効果により、攻撃力が上昇している為、セシリアの刃は力ずくで竜の強靭な鱗貫通し、切断することができた。
「やった!」
しかし、喜んだのも束の間、直ぐに肉は傷口を塞ぎ、また新たなる頭が生まれる。
「だから無駄だと言ったろう、“無限再生”によって私の身体に傷などつかないのだ。更に“憤怒”の能力で私は攻撃を受ければ受けるほど攻撃力が上がる。ふんっ!!!!」
セシリアに向けてまた炎の息吹を放った。さっきまでの息よりも更に激しさを増した炎は地面に直撃すると、石がドロドロに溶けた。
こんな攻撃を喰らったら一溜まりもない。ましてや、能力除去の効果によって攻撃を受けたら最後、セシリアへの支援ができなくなってしまう。ここは一度交代した方が良い。
「セシリア! 一度離れるんだ! 無理する必要はない!」
「わかった! きゃっ!?」
俺が声をかけ、セシリアが隙を見せた瞬間、竜魔神の一首がセシリアの身体に巻き付いて拘束してしまった。
「しまった!? ちょ、ちょっと離しなさいよ!!」
巻きついた首はどんどんセシリアの身体に巻きつき、セシリアは苦しそうな表情を見せる。
「終わりだ!」
竜魔神は残りの頭を全てセシリアへと向けると口を大きく開き、一気に炎を射出した。
セシリアの上半身は赤々と燃え盛る炎に包まれてしまった。
「セシリアァアアアアアアアアアア!!!!」
「セシリーーーー!!!!」
「セシリアさーーん!!!!」
次、俺たちがセシリアの姿を見たのは炎の射出が終わる頃だった。セシリアの上半身は黒く焦げ、竜魔神の首の中で力無く項垂れていた。
「死んだか……」
竜魔神は首を器用に使い、セシリアを俺たちの方へと投げ飛ばした。転がりながらこちらへ向かってくるセシリアの身体を俺が受け止める。セシリアの上半身は大火傷を負っており、意識がなかった。このままでは本当に死んでしまう。
「まずい! セシリアが!!」
「きゃぁあああああ!! セシリーそんなぁあああ!!」
「いやまだ慌てるな! 俺がすぐに治してやる!!」
「で、でも魔法の効果が通用しないって……」
「それでもやるんだよぉ!!!!」
そうだ、やるしかない。ここまで来てできないなんて事はしたくない。
俺は杖を握って魔法を行使する。
「頼む治ってくれ! “完全治癒”!!」
フールが魔法を唱えると、セシリアへ向けて薄緑色の光が照らされる。光はセシリアを包み回復を行おうとしているが、セシリアの身体は回復する様子が無かった。
「くっ! くそ!! 頼む! 頼む頼む頼む!! 治ってくれ!!」
俺が必死に治療をしている最中でも竜魔神は動きを止めるわけではない。すぐに俺たちにも攻撃をしてくるだろう。だが、セシリアをここで死なせるわけにはいかない。
「フールさん……やっぱり無理だよ……」
ソレーヌが涙目で訴えるが、俺はそれを無視した。ただひたすらに、いつか治ることを信じてずっと魔法を持続詠唱する。
「無理なわけない!! 俺はセシリアを治す!! 俺は絶対に諦めない!!」
俺は必死にセシリアへ完全回復の詠唱を続ける。そんな俺の後ろ姿を見たルミナが決心したように盾を持って正面を向く。
「フールさん、そのままセシリーをお願い」
ルミナはセシリアが完治するまで、その身一つでパーティを守ろうとしていた。
それを見たソレーヌが立ち上がる。
「ルミナさん無茶です!!」
「無茶じゃないわ。セシリーは私たちを信じて頑張った結果こうなった。フールさんも今必死でなんとかしようとしている。私もやれるべきことをしたいの。ソレーヌはただそこで涙目になって絶望しているだけで良いの? このままみんなを信じなくて良いの!?」
ルミナの言葉にはっとしたソレーヌは少し間を置いた後、魔導弓を握って前へと出る。
「私も、フールさんを信じてやれるだけのことをやります!!」
「そうこなくちゃ!」
ルミナは盾を、ソレーヌは魔導弓を竜魔神へと向けて構えた。
「愚かな、2人だけで何ができるというのだ。頼みの回復術士も居ないところで我に挑むとは命を粗末にするだけだ」
「言ってなさい! 私だってセシリー並にしぶといのよ!!」
「私だって! 素早いですよぉ!!」
「おいらはセシリアの様子を見てくるんだぞ!」
パトラはソレーヌの頭から降りると、俺とセシリアの元へと戻ってきた。
「パトラが降りてくれたから身体が軽くなりました。それでは、行きます!!」
ソレーヌは弓を引き、竜魔神の身体へと標準を向ける。8つの首に標準の様な魔法陣が浮かび上がると共にソレーヌは矢を放つ。
「”拡散光魔弾・貫“!!」
放った矢は8つに分裂し、魔法陣の元へと自動追尾するように投射される。
矢が直撃すると硬い鱗を貫通し、8つの首が一気に引きちぎれる。しかし、その首はすぐに再生し、元通りになると直ぐに2人に向けて火炎の息吹を吐いた。
「ソレーヌ! 後ろに隠れて!! 結界展開!!」
セシリアの結界大盾の能力により青い結界が展開される。広範囲の火炎は大きな結界によって防いでいたが、結界にヒビがつき始めた。竜魔神の攻撃の威力が高く、結界の耐久値が直ぐに削られてしまう。
「くぅ!! 何て威力なの!?」
「ふはははは! そのまま割れろ!!」
竜魔神は火炎攻撃を止め、首を伸ばしてルミナの結界に喰らいつく。8つの頭が交互に攻撃をしてくるため、休む暇がない。
その間にも、結界のヒビは大きくなり、耐久力が低下していく一方だった。
「ルミナまずいよ!」
「私は負けない!!」
「そのまま壊れな!!」
竜魔神の最後の一発がルミナの結界を破る。ルミナとソレーヌは衝撃で吹き飛ばされ、大盾はバラバラに砕け散ってしまった。
「ソレーヌ、大丈夫?」
「へ、平気です」
2人はゆっくりと立ち上がるが、ソレーヌは右足を押さえながら立ち上がった。
「ソレーヌ怪我が」
「平気です! それよりも!」
正面を見るとピンピンと元気な竜魔神はニタニタと笑っていた。
「もう飽きた、そろそろトドメと行こうか。本当の絶望と言うものを見せてやろう」
竜魔神がそういうと、竜魔神の身体に紫色の妖気が生まれた。すると、竜魔神の身体が徐々に複数に分裂していくのが見えた。目の錯覚だと思ったがそうでは無い。身体が裂かれ、1体は2体に、2体は4体に分裂していく。
気がつくと、1体だった竜魔神の身体は8体に増え、俺達パーティを取り囲む様に陣形を組んだ。
「そ、そんな!?」
「身体が増えた!?」
俺は回復に集中していたため、周りの事はわからない。頼れるのは周りにいる仲間だけだった。
それを勿論、2人は察していた。
「これがウィーンドールの能力”増殖“だ。これで貴様らは逃げられない、避けられない、護れる隙も無い!」
このままでは……このままでは本当にみんなが死んでしまう。
どうする、どうすればいい。どうしたらいいの?
私はみんなを守りたい。お願い、神様、居るなら助けて。私に皆を護る力を貸して!!
ルミナは突然、跪いて天へと祈り始めた。
「ル、ルミナ……」
神頼みしか方法がないのかとソレーヌは絶望し、膝から崩れ落ちる。
「やっぱり何も……できなかった」
そのソレーヌの言葉がルミナの耳に入った瞬間、ルミナの中で何かが弾けた様な感覚がした。
ルミナは祈り続ける。祈り続けていたルミナの身体が光だす。
「無駄な足掻きを! ここでまとめてあの世に行くのだ!!」
竜魔神は計16つの頭から火炎の息吹を射出する。四方八方から流れてくる火の波に巻き込まれそうになった時だった。
「私がみんなを護る」
ルミナが大きく腕を広げると俺たちパーティを囲むように黄色い結界が張られる。その結界は全ての炎を遮断した。
「な、何!?」
竜魔神は炎での攻撃を止め、首での連撃を試みる。しかし、その結界は先ほどまでの結界大盾とは違い、一切の攻撃を無効化した。
頭を隠して身を守っていたソレーヌが驚いた様子で顔を上げる。
「これ、ルミナが……?」
ルミナは微笑んでいた。
「ああ、神様……私の”護りの祈り“が通じたんだね。このまま、みんなを守って」
ルミナは再度祈りを継続する。
結界の外で8体の竜魔神は結界を破壊しようと暴れ回っている。
「お願いフールさん、今のうちに……私達を助けて!」
ソレーヌは涙を流しながら、ルミナを応援するように隣で祈り始めた。
最終回まで残り2話です!!
最後までお読み頂きありがとうございます!
「面白い!」
「続きが気になる!!」
「これからも続けて欲しい!!」
もし、以上の事を少しでも思ってくださいましたら是非評価『☆☆☆☆☆→★★★★★』して頂く事やブックマーク登録して頂けると泣いて喜びます!
それでは次回まで宜しくお願いします!