第152話 ”竜魔神”八岐大蛇
部屋中が地響きによって揺れ始める。
その地響きはバルバドスの身体の肥大化が収まるまで続いた。
首が8つに分かれ、顔がそれぞれ生み出されていく。
骨と肉が蠢くその音が大きくなればなるほどバルバドスの異形さは増して行く。
「嘘! 私、関係ないじゃない!」
「おそらく儀式の生贄が変わっただけで、成功しているんだ! 今直ぐに奴を止めないと!」
セシリアは大太刀持ち、変形しているバルバドスへと近づこうとする。しかし、身体に近づく前に8つの頭がセシリアの前に立ちはだかる。
「邪魔よ! どいて!!」
セシリアが太刀を振るう。だが、セシリアの太刀の刃は竜の首に食い込むが通らない。
何度も切り込もうとするが、高い防御力を誇る鱗によって防がれてしまう。
「硬い!? 何よこれ!?」
セシリアが戸惑ったのを見て、竜は首を伸ばして薙ぎ払い、セシリアの身体を吹き飛ばす。
セシリアは受け身を取って、地面に身体が打ち付けられるのを防ぐ。
「セシリア! 無理をするな!」
「私は大丈夫よ!」
「私がやってみます!」
ソレーヌは魔導弓へと手をかける。
8つの頭へロックオンすると、魔法矢を放つ。1つの矢が8つに分裂し飛んでいくと8つの頭に見事直撃した。
しかし、ソレーヌによる魔法矢の攻撃は鱗で弾かれ、効いている様子がなかった。
「駄目です! 鱗が硬すぎます!」
「あわわわわ! 不味いんだぞ! このままだと!!」
こうして俺たちはただ何もすることができず、ただバルバドスの変貌を見ているのみだった。そして、完成の時は訪れてしまった。
「グアァアアアアアアアアアア!!!!」
バルバドスと思われしその八首の巨竜は自身の完成を喜ぶが如く、大きな雄叫びを上げる。
雄叫びによる衝撃波で吹き飛ばされそうになるのを防ぎ、改めてバルバドスと思われし巨竜を見た。
そして、1つの竜の頭が話し始める。
「不完全だが、十分だ。我が名はバルバドスではない。我が名は“竜魔神”八岐大蛇、この世界を魔族統治による混沌の世界にする為に現れた。今ならまだ遅くはない。我が身体の一部となれ」
「誰がなるもんですか!!」
「私はなりますぅううううううう!!!!」
突然、後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには四大天の1人であるアスモディーが居た。バルバドスの国で戦闘離脱した彼女が突然現れたのに驚いたが、ここまでだったとは。余程、バルバドスの事を慕っているのか。
アスモディーは俺たちに見向きもせず竜魔神の方へと早々向かってゆく。そして、竜魔神の元へと寄ると跪いた。
「バルバドス様、ああお姿が変わろうとも私にはわかっております。到頭完成したのですね」
「アスモディー、貴様職務を放棄したな?」
「はい! 私は職務を放棄いたしました! だから、早く私にご褒……お仕置きをお与えくださぁい♡」
「はっはっは、そうかわかった。お前にはとびきりのお仕置きをしてやろう」
「はぁ♡ バルバドス様♡♡♡」
竜魔神は8つの口を大きく開くとアスモディーの四肢に喰らいつく。そして頭を喰らい、最後に胴体を丸呑みした。
「これで我はもっと成長する」
「何?」
アスモディーを食べたことによって竜魔神の身体が一瞬光った。
「我の能力“能力強奪”によって、食したものの能力を使用することができるのだ」
能力強奪……なんて厄介な能力だ。これまで食べたのはウィーンドールとバルベリット、そしてアスモディーだ。その3体分とバルバドス自体の能力を使用する事ができると言うことか。
「そんなずるい事させないわ!!」
セシリアは大太刀一振りし、竜魔神に一刃の熱風を飛ばした。
「焔!!」
「無駄だ」
セシリアの生み出した熱風が直撃する瞬間、竜魔神の鱗が黒く染まる。その後、熱風が竜魔神に直撃し大きな煙が生まれるが竜魔神には何も変化はなかった。
「バルベリットの能力“能力除去”を纏わせた。貴様の“皇帝ノ覇気”は通用せん」
「そんな!」
「諦めろ。お前もあの馬鹿な父親と母親のように死ぬんだな」
その言葉をセシリアが聞いた時、セシリアの耳がピンッと張る。
「……あんた、今何て」
「聞こえなかったか? お前の様に正義感だけが取り柄の馬鹿な父親とお人好しにも程があるあの無様な母親の様に、同じ運命を辿るんだな!!」
バルバドスの言葉にセシリアの耳、髪の毛、尻尾が逆立つ。
話を聞いていた俺たちも何かが内側でブチッと弾けたような感覚がした。
「あんただけは……お前だけは絶対に倒す!! 私の家族を殺した……仇を討つ!!」
「ああ! オレも同じ気持ちだ!! セシリアの家族はみんな素晴らしかったんだ!! 貴様はそれを侮辱したんだ!!」
「私も……友達がこんな事言われて黙っているわけにはいきません!!」
「私もよ……」
ルミナが立ち上がり、セシリアの隣に並んで盾を構えた。
「ルミナ、怪我は?」
「大丈夫よ、きっとフールさんが治してくれるから。それに、私だって大切な親友の家族を貶されて黙っていられるわけないじゃん!!!!」
「ルミナ、ありがとう」
「絶対に倒すよ。だからフールさん」
ルミナとセシリアは俺の方へとに振り向く。
「セシリアに持続詠唱お願いします!」
「私に持続詠唱をお願い!」
2人からのまっすぐ視線はこれまで一緒に戦ってきた時といつも通りの感覚が久しぶりに蘇ってくる。
俺は大名医ノ杖を構えて首を縦に頷いた。
「みんな! 最後の戦いだ!! 行くぞ!! “EX治癒“!!」
俺はセシリアに魔法をかけ、セシリアが走りだす。
こうして、俺たちと竜魔神、最後の戦いが始まった。
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