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第147話 忘却の夢

 長い間気絶していたセシリアは瞼の外で輝く光の眩しさに思わず目を覚ました。


 目を開くと日光の光が照り付け、思わず手で顔を覆った。気がつくとセシリアは緑色に輝く芝生の上で寝そべっていたのだ。

 前起きていた記憶はあまりない。確か逃げる為に檻を出て、魔人と戦って……それからの記憶がいまいち思い出せない。


 ひとまずセシリアが起き上がって辺りを見回すと色とりどりの花が咲いている花壇とその周りには四角い形で建物に囲まれていた。上は天井が吹き抜けている。まるでどこかの城の中庭の様である。


「ここは一体どこかしら?」


 セシリアは立ち上がり色々見ようと歩き回ろうとした時だった。建物から物音が聞こえたセシリアは思わず柱の陰に隠れた。


 柱の影からゆっくりと覗くと建物の扉が開かれる。出て来たのは大柄で頭に角を生やした男と頭に獣耳を生やした若い女性だった。


 その女性の腕には赤ん坊が抱き抱えられていた。その赤ん坊は生まれたてのようでスウスウと気持ちよさそうに眠っていた。


「今日はいい天気だな」


「ええ、そうね」


 2人は笑顔で中庭へと入る。日光が3人を照らす。2人の頭上がキラキラと輝いているのが見えた。よく見ると男には王冠が、女性にはティアラが付けられていた。どこかの国の王様と女王だろうか? セシリアはさらに聞き耳を立てる。


「この子が生まれて2ヶ月程経ったな。どうだ? ケルディア、体調の方は?」


「ええ、だいぶ良くなりました。テリオン、ごめんなさいね。あなたの仕事のお手伝いができなくて」


「何を言っている! 我が愛する娘が生まれるのをどれほど楽しみにしておったか! どれ、我にもその顔をよく見せておくれ」


 テリオンと名乗る男とケルディアと名乗る女性は2人で赤ん坊の方を見た。すると2人は幸せそうな笑みを浮かべる。


「やはり、顔はお前に似ているな。とても可愛らしい」


「うふふ。でも、すぐ泣いて活発な所はあなた似ですよ」


「はっはっは! どう言う意味だそれは」


「素敵な性格って事ですよ」


 テリオンが大きく笑うと、その音で赤ん坊が起きてしまった様で大きな赤ん坊の鳴き声が中庭中に響き渡る。


「あらあら、よしよし良い子良い子」


 ケルディアが赤ん坊をあやすとすぐに泣き止み、母親の顔を見て笑顔になった。


「まぁ、なんて可愛いのかしら」


「本当だな。でも、この子は立派な戦士になるんだから。いっぱい泣いていっぱい強くなるんだ」


「何言ってるんです? この子はこの笑顔で私たちを癒すように皆を支える回復術士になるんですよ」


「む、むぅ……だが、矢張りもう少し大きくなってからこの子の意見を聞くのも良いだろう」


「もう、すぐそうやって逃げるんですから……でも、確かにその通り。この子の意志は出来るだけ叶えてあげたいと思っているわ」


「成長が楽しみだな」


「ええ、楽しみね。うふふ」


 2人がそう話していると建物からもう1人人物が現れる。


「テリオン王、ケルディア女王、こちらにおいででしたか」


 現れたのは何とあのバルバドスだった。セシリアは怒り立つ気持ちを抑えながら陰で様子を見続ける。


「バルバドス大臣、何様だ?」


「お2人の御休憩の時間に大変失礼致します。テリオン王、以前に行った未開のダンジョン調査についてのお話が少しだけ御座いまして、早急に会議に参加していただきたく思いまして」


「ふむそうか、分かったすぐ行く」


 バルバドスは2人に一礼すると早足で建物内へと戻っていった。


「すまない、仕事が入った」


「大丈夫、私は部屋に戻るから」


「ああ、では行ってくるからな」


 テリオンは赤ん坊の頭を優しく撫でると建物中へと入って行ってしまった。残されたケルディアの後ろ姿がどこか懐かしくなり、話しかけようとしたその時、視界が溶けるように暗転する。驚き思わず立ち止まり周りを見回すと今度は大きな書斎の中へと場面が変わっていた。先ほどとは打って変わり、薄暗く本棚に囲まれた場所だった。


「一体どうなっているの?」


 壁には大きな窓があり、外はだいぶ暗くなっており、空には満月が浮かんでいた。


 セシリアはまるで迷路のように入り組んだ書斎をゆっくりと歩く。明かりがあまり無く視界が悪い。その中をある程いくと光が灯る場所を見つけた。恐る恐る覗くと書斎のテーブルの一箇所がランタンで照らされていた。見ると、1人の人間が何やらブツブツと呟きながら何かを書いているのが見えた。セシリアは再び聞き耳を立てた。


「馬鹿な男だテリオン。君は魔人でありながら人間の為に善を全うしている。しかし、それで魔族が良くなるのだろうか。ますます人間に嘗められ、魔族は衰えていくのが目に見えている。いずれにせよ、人間が世界を牛耳り続けることになる。それを魔族が良しとするだろうか? ははは、そんなことは許されないのだよ」


 そう言いながら本を読見ながら薬草をすりつぶし、調合していく。


「即効性のある毒草を中庭でこっそり栽培していて良かったわい。だが、これ単体だけだと毒だとバレてしまう。だからこれに、赤ワインの味によく似たこの薬草と合わせれば……よし完成だ。今夜、テリオンは部屋でワインを飲むと言っていたからな。そのワインにこれを……ひひゃっはっはっ!」


「何ですって?」


 よく見ると、目の前にいるのはあの憎きバルバドスだ。バルバドスは先ほど見たテリオンと言う男を殺そうとしているようだ。何て下衆な男だ。


 そんなことを聞いてセシリアは黙っている訳には行かなかった。


 近くにあった出来るだけ分厚い本を本棚取り出すと、バルバドスの後ろにゆっくり近づき、本をおおきく振りかぶってバルバドスに振り下ろした。


 しかし、次の瞬間バルバドスが煙のように姿が消える。そして、持っていた本も煙の様に消えていくとまた視界が暗転し場面が変わっていた。


 今度はセシリアは城の回廊のど真ん中に立たされていた。この時、この城の構造がどこかで見覚えがあった。


「ここ、もしかして」


 そう、ここはセシリアが逃げ回っていたあのバルバドス城にそっくりだったのだ。


「ま、まずいわこのままじゃ!!」


 セシリアは思わず走り出した。今日がその夜ならテリオンはバルバドスにもられた毒で死んでしまう。それを止めなければとセシリアは城の中を走った。時々見回りの兵士がいたがセシリアが堂々と走っても気が付かない様子だった。


 しかし、今のセシリアはそんなことを気にしている様子はない。走り、いろんな部屋を開けた。一体テリオンの部屋はどこなのだろうか。そう考えた時、ふと急にこの城の構造が頭の中に入ってくる不思議な感覚が起こった。


「こっちだ!!」


 セシリアは階段を駆け上がり、1つの部屋の前へとたどり着いた。セシリアは間髪なく扉を開けるとそこにはテリオンがいた。しかし、もう遅かった。セシリアが着いたと同時にテリオンはワインを口にしていた。そして、テリオンはグラスを落とし、もがき苦しみ始めた。


「あ、ああ……」


 セシリアはもがき苦しむテリオンに近づき、触れようとするが身体がすり抜けてしまった。


「嘘そんな!! ねぇ!! しっかりして!!」


 しかし、セシリアの声どこらか存在すらも認識していない様子でテリオンはもがき苦しんだ後、最後の力を振り絞り言葉を残した。


「すま、ない、ケルディ、ア。セシリアを、頼む」


 そう言うとテリオンはそのまま絶命してしまった。


「そんな、こんなことって……でも、セシリアって……私の名前を……どうして」


 すると、さらに視界は暗転する。次に訪れたのは下水道の様な場所である。下水が流れる水路に黒いローブを着た人影が見えた。


「この子だけは何としても守らなければ」


 この声は恐らくの女性の声だ。腕には赤ん坊が抱えられている。横には樽が置いてあり、それに赤ん坊を入れる。


 その赤ん坊は母親の手から離れるとぎゃあぎゃあと泣き出す。女性は一瞬、樽の蓋を閉じるのをためらいそうになるがすぐに蓋を閉じ、そっとその樽を下水へと流した。


「どうか、強く生きてね。私と言う母はいつでもあなたを見守っていますから。セシリア」


 女性はローブのフードを取る。その女性と言うのはケルディア女王だった。その時、セシリアは全てを察する。


「まさか、あの赤ちゃんは私で……あの人は、お母さん?」


 セシリアは思わず物陰から飛び出し、ケルディアの元へと駆け寄ろうとする。


「お母さん!! お母さーーん!!」


 セシリアの呼びかけに答えるようにケルディアがセシリアの方へと向く。セシリアは両手を広げ、ケルディアに抱き着こうとした時、またしてもケルディアは煙のように消えた。それに合わせまた視界は暗転し、意識が薄れていく。


「おかあ……さん」


 そして、またセシリアは深い闇の中へと落ちたのだった。

最後までお読み頂きありがとうございます!


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「これからも続けて欲しい!!」



もし、以上の事を少しでも思ってくださいましたら是非評価『☆☆☆☆☆→★★★★★』して頂く事やブックマーク登録して頂けると泣いて喜びます!

それでは次回まで宜しくお願いします!

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