第145話 奈落ノ深淵
薄暗い螺旋階段を進んでいる。フール達は奈落ノ深淵の入口へと向かっていた。冷たく黒い岩々が周りを囲い、その整備されてできた石造りの階段を下りてゆく。
降りて行けば降りるほど気温は徐々に下がり、不気味さが増してくる。まさに底へと向かう、そんな様子から奈落ノ深淵と呼ばれている由縁である。
皆に託された思いを胸にフール、ルミナ、ソレーヌ、パトラは底へと向かう。
底へと降り着くと奈落ノ深淵の入口である鉄格子の扉が見えた。鉄格子の錠が開けられているのが、この先の向こうへとバルバドスが向かって行った痕跡だろう。
「良いか? 入るぞ?」
俺が後ろの仲間に声をかけると皆がうなずく。俺はゆっくりと鉄格子の扉を開く。鉄と岩が擦れる嫌な音と共に開かれた扉の先は暗く、うごめいている。まるで、このダンジョン全てが生きているかのようにだ。
しかし、それは比喩表現などではなく本当に生きているのだ。この奈落ノ深淵と呼ばれるダンジョン内は毎回入る毎に構造が変わると言う謎のダンジョンなのだ。だからこそこのダンジョンの調査は難解とされ、普通の冒険者は愚か、熟練の冒険者でさえも帰還する者は少なかった為、現在は立ち入りが規制されていたのだ。
このダンジョンの先に何が待ち構えているのか想像もつかない俺たちは、緊張感が漂う。しかし、仲間のセシリアの為、そして世界の為に俺たちはその一歩を踏み出した。
奈落ノ深淵へ入るために松明に火を灯して先を進む。視界に映っている光の照らされた場所は一見普通のダンジョンのようにも見える。しかし、その照らされていない闇の先ではダンジョンの作りが俺たちの調査と同時進行で生成されているのだ。運が良ければ魔物に出会わないし、運が悪ければ罠やモンスターハウスに遭遇することだろう。ダンジョン内では絶えず何か大地が歪む音が聞こえているのはそう言う事だ。
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ダンジョン内に入ってから数十分が経ったが、運が良いのか一向に魔物と出会う事がなかった。しかし、気を抜いてはいけないと意識を周りに集中しながら歩く。
しかし、おかしいのは魔物が出ないだけではない。この奈落ノ深淵と呼ばれるダンジョンは迷宮のように道が入り組み、冒険者たちを迷わせると言う性質がある。なので途中で道が何本も分かれていたりすることなどが当たり前なのだ。
だが、おかしい事にいくら歩いても一本道で分岐路に出会うことがなかった。
運がいいだけなのだろうか?
疑問をそう捕らえながら進んでいくと、ある道に差し掛かった。それは明らかに分岐路があったであろう道だ。なぜ、そう言う表現をするのかと言うと、他の道は不自然に岩の壁ができており一つの道しか進めなくなっていたからだ。
「こんな事ってありえるのか」
俺は周りをみて、1つの道の壁に触れる。まるで元から石の壁であったかのようにそびえ立っており、進むことができない様子だった。
「でも、この道しかないなら進むしかないですよ! さあ! 進みますよ! ほらほら!」
ルミナに押されて、俺達は1つしかない道を進み始める。皆は何も気にしていない様子だったが、俺は少しこのスムーズに進む様子に違和感を持っていた。まるで何者かに導かれているような気がした。
それから、ある程度歩いていくと行き止まりに差し掛かった。しかし、ただの行き止まりではなくボロボロの木箱が置かれているのが見えた。最初見たときは罠だと思い、警戒しながら進むが周辺に罠などがある気配がなかった。
恐る恐る俺たちは木箱へと向かい、ゆっくりとその中身を空けた。まず目に入ったのは大杖だ。先端が2体の蛇がたがいに巻き付き合っている様子が施された古い大杖だった。
更に、その杖には2つのペンダントがぶら下がっているの見えた。そのペンダントには青色の石と橙色の石が付けられている。
「これは、宝箱なのかな?」
「それにしても、ボロボロ過ぎではありませんか?」
「でも凄い珍しそうなものなんだぞ……どこかで見たような……」
3人が木箱の中に入っている物を興味津々に見ている間に俺は木箱の中をさらに調べた。すると、木箱の隅に汚れた巻物が置いてあるのを発見した。ゆっくりとその巻物を開くと文字がびっしりと書いてあった。
誰かに宛てた手紙の様である。
いったい誰が書いたのだろうか? そう思いながら本文を読まず、巻物の最後の行を見た。そこには聞き覚えのある人物の名前が書かれていたのだ。
「……ケルディア」
「え!? ケルディアってまさか、エリザベスさんから教えてもらったあの!」
この手紙にはある重大なことが掛かれていそうで、俺の手は思わず強張る。ここに一体何が掛かれているのだろうか。俺はゆっくりとその手紙を読み始めた。
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”
こんにちは。この手紙を読んでくれていると言う事はようやく見つけてくださったと言う事ですね。貴方がこの手紙を読むころには私はもうこの世には居ないでしょう。私からあなたに事を伝えることができれば良かったのだけれど、それが難しいのでこのような形でお話いたします。どうかお許しください。
今から話すことは嘘のように聞こえるかもしれませんが全て真実です。でも、エリザベスと会った貴方なら全て信じてくれると思いますが。
まず、私はとある国の女王でした。それは貴方の知る記憶だと”バルバドスの国”とでもなっているのでしょう。しかし、元々は私の夫であるテリオン王の国である”テリオンの国”だったのです。私は獣人族、夫は魔人と言う他の国では珍しい混種族国家だったのです。魔人全てが悪の心を持っているわけではありません。テリオン王は善の心を持った魔人で、人々を魔物から守ってくれていたのです。その様な彼を支持する者達が居たからこそ、この国は混種族国家を許してくれていたのです。その時、父が同じ善の心を持っている魔人として連れてきたのがバルバドスだったのです。
バルバドスはもともと私たちの国の大臣で、夫を裏から支えておりました。国も大きくなっていく中で、更に幸せなことが起こります。何と私と王の間に可愛い娘が誕生しました。私は獣人、王は”鬼人ノ王”と呼ばれた魔人の間に生まれた混血種の亜人。私はその子にセシリアと言う名前を授けました。
しかし、そんな幸せも長くは続きませんでした。なんと、バルバドスが夫を毒で殺したのです。バルバドスは魔物達と手引きをし、裏で国を乗っ取っていたのです。それから私はどうすることもできずにやつの言いなりとなっていました。
等々、バルバドスに言われ、私は【記憶操作】を使用し、この世界の記憶を改変させてしまったのです。『元々はバルバドスは王であった』と言うようにと。
しかし、ここで私は愛するセシリアを巻き込みたくないと思い、私の力でセシリアを世界の人々の記憶から消し、誰かに拾って貰えることを祈ってセシリアを下水道へ捨てたのです。
色々話してしまいましたが、これが真実なのです。
時間がありません。貴方には単刀直入に言います。どうかバルバドスを止めてください。貴方が手紙を見つけるのは10年後だと聞いております。恐らく貴方の時代ではバルバドスは自身の名で国を築き上げ、大きな力を手にしていることでしょう。その力を利用してバルバドスはあることを行おうとしてます。それは”竜魔神”の完成です。バルバドスは”竜ノ王”と呼ばれる竜族の魔人です。バルバドスは四神の力を自身の体内に取り込み、生態系の最上位に君臨する存在になろうとしています。この世界に竜魔神が解き放たれた時、世界は終わりを迎えるでしょう。そうなってはいけません。
しかし、貴方ならバルバドスを止める可能性を持っている存在なのです。
この箱には貴方の力に必ず役立つ物を入れておきました。この手紙を読めているのならば恐らく無事に届いていると思われます。
どうか、世界を、私の愛する娘を救ってください。この世界の救世主、フールよ。
テリオンの国 女王 ケルディア
”
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