第142話 クラリス&ウォルター VS “渦巻いた天使”レヴィーア
一方、奈落ノ石橋の中央ではクラリスとレヴィ―アが戦っていた。
「っひゃはは!! 勢いが落ちてきてるんじゃないかしら聖騎士ちゃん!!」
「な、何をこれしき!!」
クラリスはウォルターとフールを奈落ノ深淵へたどり着くために時間稼ぎとしてずっと戦ってきた。1人でレヴィ―アの激しい猛攻に耐え続けていたのだ。ここまで戦っても息1つ切らさないレヴィ―アはやはり戦いに慣れている様子である。
一方でクラリスは少しずつ体力が消耗され、疲労が見え始めてた。
しかし、皆が戦っている中、副隊長として貢献しなくてはならない責任をクラリスは背負っていた。自分が隊長になってまだ間もないことは関係ない、やるしかないのだ。
「喰らいなさい! 【旋風陣】!!」
レヴィ―アは持っていた槍を振り回したことで生み出された風を使って魔法を詠唱すると、風の刃がクラリスに襲い掛かる。
「”魔法障壁”!!」
クラリスは咄嗟に魔法を行使する。クラリスの結界によって魔法は受け流されていく。しかし、その一瞬の隙をレヴィ―アは逃さない。
「隙あり!!」
「きゃああ!!」
クラリスへ向けてレヴィ―アが槍で切り上げるとクラリスの小柄な身体が吹き飛ばされ、橋の外へと落ちそうになる。しかし、ギリギリのところで踏みとどまり石のフェンスを掴みぶら下がっていた。武器としていたレイピアが橋から落ちて底が見えない奈落の中へと落ちていった。もう少しで自分が落ちてしまっていたと思うと肝が冷える。急いで橋に上がろうと顔を上げた時、そこにはレヴィーアがニヒルに笑って立っていた。
「ひひひ、いい気味ね♡ どうかしら、スリリングでゾクゾクするんじゃないかしら? このまま落っことすのも良いけどつまらないよねーー?」
そう言いながらクラリスの元にしゃがみ込み、指でクラリスの指小指を上げて楽しんでいた。何とも趣味が悪すぎる。
「ほらほら♡ ちゃんと握ってないと落ちちゃうよ♡」
「くぅ……」
クラリスは既に着ている金属鎧の重量と自身の体重を華奢な両腕で耐えるのには限界があった。しかし、どうにか死にたくないと言う気持ちだけで精一杯耐えているのであった。
そんなクラリスの気持ちなど気にせずレヴィーアは苦しむクラリスで遊んでいる。
今度、小指の次は人差し指を外す。一瞬、クラリスの身体のバランスが崩れるも踏ん張って何とか巻き返す。
「あははっ♡ 危ない危ない! ちゃんと掴んでないと、死ぬよ?」
「誰か、助けて」
心の声が漏れてしまうほどクラリスの体力は限界を迎えていた。
「うふふっ♡ そろそろお終いね。じゃあね聖騎士さん」
レヴィ―アが片足を挙げて、クラリスの手を踏みつぶそうとした時だった。
「ヒヒィーーン!!」
甲高い馬の鳴き声とヒズメの軽快な音が響いてくる。こちらに颯爽と馬が向かってきていた。その馬はレヴィ―アを突き飛ばし、クラリスの前へと現れた。
「大丈夫か!!」
「た、隊長!!」
馬の上にいたのはウォルターだった。ウォルターはすぐに馬から降りると、クラリスの手を掴み、橋の上へと引きずり上げる。
「ありがとうございます。フールさんたちは!?」
「しっかり届けたさ」
「そうでしたか。その、すみません、私あまりお役に立てず」
「何を言っている。君はよくやっている。それに、反省の時間をするなら全てを終わらせてからだ」
ウォルターは横を向く。そう、今は戦わなくてはいけない敵がいるうちは弱音を吐いてはいられない。
「そうですね」
クラリスは立ち上がり、レヴィ―アへと構えた。レヴィ―アはすでに戦闘態勢を取っていた。
「ふーーん、もう戻ってきちゃったんだウォルター。まぁでも丁度良かったーー。そこの新人じゃ全然歯ごたえなかったし。あんたなら私を楽しませてくれるんでしょ? ね?♡」
レヴィ―アはいやらしく舌なめずりをしながら大槍をくるくると回す。ウォルターは腰から剣を抜き構える。
「クラリス、戦えるか?」
「私は魔法で支援します!」
「よし、行くぞ!!」
ウォルターはレヴィ―アへ向けて切りかかった。レヴィ―アはそれを受け止めると、涙目をウォルターに見せた。
「いやぁーーん♡ 女の子には優しくしないとだめなんだよぉ?」
「相変わらず嘘泣きが上手いな。私は女だからと言って容赦はせん」
「はぁーーん、そう言う男、私嫌いなのよね!!」
レヴィ―アは再び鬼のような形相へと変わる。ウォルターは見事な剣さばきで連撃を行うが、勿論、レヴィ―アの槍さばきも健在でその連撃を見事に受け流していった。
その戦いの中で生まれたレヴィ―アの隙をクラリスが魔法で畳み掛ける。
「”氷槍”!!」
手の中で溜まった魔力が氷の槍を生み出し、それを射出する。氷の槍はレヴィ―アに向けてまっすぐ進んでいく。レヴィ―アは避け切れずに、横腹に鎧を貫通して突き刺さった。
「や、やりました!!」
レヴィ―アは自身の脇腹から流れる血を見つめ硬直する。手で脇の血をなぞり、手に着いた血を自分の顔に持ってきて嗅ぐ。すると、彼女は狂ったような笑顔を見せた。
「この匂い、このかぐわしい匂い!! すぅーー、はぁ……頭ぶっとんじゃう♡♡♡」
レヴィ―アはゆっくりとふらつきながら、石橋の柵に上がる。そして、大きくけたたましく笑った。
「あははははははははっ!! 私はここで死なないわ!! 素敵素敵素敵!! 良いわぁ私血の匂いが大好きなの♡ お礼に面白いものを見せてあげるよ」
そう言ってレヴィ―アは後ろへ倒れ、自ら奈落の底へと落ちていった。
「ああ!! 隊長!! レヴィ―アさんが!!」
「クラリス!! 今すぐこの橋から離れるぞ!!」
「え!?」
ウォルターはクラリスの手を握り、馬へ乗せた。そして、自分も乗り込むと颯爽と馬を走らせ始めた。クラリスは一体どうしたのだろうと慌てる様子だったが、何よりもウォルターが焦っている様子を見て、冷静さが生まれた。
すると、突然橋が揺れ始める。橋が揺れているのではなくここの周辺地全体が揺れている。揺れが徐々に激しくなるとともに橋の下の奈落から生命の気配を感じたと思った時、大きな影が天へと向かって昇って来たのを見る。
それは巨大な蛇の様な形をした龍だった。白い鱗に赤い目を光らせてこちらを睨みつける巨大な大蛇が奈落の底から現れたのである。
「隊長!! あれは一体!?」
「あれはレヴィ―アの世界的特異能力【巨大蛇化】、奴は自らを巨大蛇の姿に成り、暴走するつもりだ!!」
レヴィ―アが能力によって巨大な化け物の姿となり、戦争中の大地に響く大きな雄叫びを上げる。レヴィ―アは巨大な口を使って石橋に噛みついた。石橋が大きく揺れ、崩れていく。
ウォルターとクラリスが乗る馬の後ろは徐々に崩れていく橋が襲い掛かってくる。ウォルターの手綱を握る力が強くなる。急げ、急げと焦る気持ちもあるが最後の入り口まで気を抜かずに馬を走らせた。
あと少し。あと100m、70m、50m……あと少し!! ……と言うところで、バキッという嫌な音が下から聞こえた。馬が瓦礫の破片を踏んでしまい、足の骨を折ってしまったのだ。
馬が転倒し、あと少しのところで包囲していく橋と共に奈落の底へと2人は転落しようとしていた。
「きゃああああああ!! ウォルター隊長ぅうううううううう!!!!」
「くそっ!!」
あと少しだった。あと数mで助かったはずなのに、ここで終わるのか。クラリスは運命を受け入れ、瞳を閉じた。
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