第139話 “魔鎧ノ王”エリゴース戦②
エリゴースはシュリンにへ向けて突撃を試みる。大剣を両手に持ち、シュリンへと振り下ろす。
「“瞬間移動”!」
大剣が直撃しようとした刹那、シュリンの身体がその場から消える。
「こっちよ」
エリゴースが背後へ振り向くとそこにシュリンはいた。シュリンは魔法を唱えるとエリゴースへ向けて複数の火球が投擲された。
「炎の聖霊よ、その誇り高き紅の炎をその怒りと共に発し続けることを許そう。その怒りが静まるまで……”連射豪火球”!!」
無数の火球がエリゴースに直撃する。周りには煙が立ちこみ、エリゴースの姿が隠れた。シュリンが目線を煙の中へと向けるがさっきまでいたエリゴースの姿が見えない。
「あいつ、どこへ行ったの?」
エリゴースの姿を探していると、シュリンの横へなびいて行く砂煙の中に違和感がした。横を振り向いた時、シュリンの首に大きな手が掴み掛かる。
「なっ!?」
煙の中から腕が伸びている。ゆっくりと砂煙が落ち着いていくと野太い腕の持ち主であるエリゴースが姿を現した。
「フシュウ……」
息を漏らしながらゆっくりとシュリンの首を絞める力が強くなる。このままでは簡単にシュリンの首が折れてしまうだろう。だが、シュリンは冷静だった。
「わざわざ、そっちから来てくれたみたいね……私の魔法の餌食になりたくて!」
シュリンはエリゴースの顔面に手を置き、魔法を詠唱する。
「"紅蓮大爆裂"!!」
エリゴースの兜とシュリンの手のひらの間から眩い閃光が生まれた途端、爆音と共に大爆発が起こった。お互いが吹き飛ばされたものの、シュリンは軽快に受け身を取る。
煙が上がるとともにシュリンの元に何かが飛来し、地面に落ちた。それはエリゴースのかぶっていた兜だった。
茸雲のように立つ砂が風で靡き、エリゴースがその素顔を見せた。
「なっ!? まさか、そ、そんな……嘘でしょ」
素顔を見てシュリンは絶句した。シュリンがここまで旅をして来た理由、それは愛する者の行方を探るためにフールと旅をして聞いたのだ。そう、その愛する者の名はダレン。
そのダレンの顔があの黒い仮面の下から出てきたのである。
「シュ……シュリン」
シュリンの見たダレンの顔は紫がかっており、目もうつろで髪も白く老け切っていた。ふらつきながらもゆっくりと歩み寄るダレンにシュリンは駆け寄り、その身体を抱きしめた。
「貴方がダレンだったなんて、私はなんてことを!! ああ、貴方はずっと訴えていたのね……一体どうしてこんな姿に……会いたかった、ずっと探してたのよダレン」
シュリンは大粒の涙を流しながらボロボロのダレンを抱きしめ、小動物を扱うようにダレンを撫でる。
「シュ……リン、す、まな、かった」
擦れ、しわがれ声で話すダレン。そんな姿になっても今まで彼の為にしてきた旅なのだ。今までの旅がやっと報われたとシュリンは思った。
「話は後で、さぁ戻りましょう」
「だ、だめだ、シュリン……いま、すぐ、はな、れ……」
「え?」
シュリンはダレンの胸元に違和感があり、目線を落とす。するとダレンの鎧が一気に膨らみ始めていた。その様子を見て、シュリンは驚愕する。
「一体何よこれ!?」
シュリンが驚き慌てる間もなく、ダレンはシュリンを振り払い投げ飛ばす。その間も、鎧をまとっているダレンの身体は肥大化していた。
「そ、そんな!! いやよダレン!!」
「シュリン、すまな……かった、フールにも、伝えて……くれ。本当に、すまなかった、と」
「ダレ――――――ーン!!!!」
誰はその言葉を最後に身体が鎧ごと破裂した。周りには鎧の破片と肉と血が飛び散り、そこに確かにいたダレンの姿形はもうなくなっていた。
全てが急展開の出来事にシュリンは呆然として、その場にへたり込んだ。
「ダレン、そんな」
頭が真っ白な状態が続き、シュリンはどうしたら良いのか分からなかった。だが、そんなシュリンに休んでいる暇も悲しむ余裕も与えてくれそうになかった。ダレンの居た場所の後ろからこちらへ歩いてくる影が見える。
「あらあら、到頭、貴方も死んでしまったのねエリゴース……いいえ、ダレンよ」
やって来たのはあの蛇の尾をした下半身を引きずらせ歩いてくる魔人ロノウェーザであった。
「き、貴様! ダレンに、ダレンに何をしたの!?」
「何って? そうね……力を与えただけよ」
「力?」
「ええ。彼、バールの国で恥をかき、挙句の果てには居場所だったギルドも無くなって途方に暮れていたみたいね。そこでダレンはバルバドスの国までやってきて力が欲しいと懇願した。彼の瞳には情熱があった。何かを見返したい、仕返しがしたい復讐、憎悪を感じたの。私は気に入ったの、彼の目を。だから、私は特別な鎧を与えた。この鎧を着れば世界的特異能力が与えられる代わりに素顔を見られたら死ぬ呪いが駆けられてるの。勿論、私は忠告したわ。でも、彼は躊躇なくその鎧を身に付けた」
「そ、そんな、ダレン」
シュリンはショックで項垂れ、地面に手を着いた。私が傍に居たのに、私はどうして少しでも、一緒に居てあげられなかったのか……どうしてダレンが居なくなるあの日だけ、目を離したのだろうか。
シュリンは当時の自分を恨んでも恨み切れなかった。
「シュリン、良いことを教えてあげるは。この鎧のね、呪いは私とバルバドス様が考えて作ったの。彼が死ぬとき、どんな言葉を最後に死ぬのか楽しみにしていたのだけど、何て言って死んだのかしら?」
その言葉を聞いた時、シュリンの中で何かが弾けた。到頭、堪忍袋の緒が切れた。躊躇なくシュリンは魔法を詠唱する。
「【火炎槍】!!」
瞬時に作られた炎の槍が即座にロノウェーザへと飛んで行く。ロノウェーザはそれを紙一重で回避するが、右頬に切り傷ができており、血が流れる。
シュリンはゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。涙を流すその目は真っすぐとロノウェーザへ殺意を向けていた。
「私は、貴方を絶対に許さない! ダレンの仇!! ここで討つ!!」
「あら、私と魔法の力比べかしら。良いわよ、お前も彼のところへ送ってあげるわ!!」
こうして、シュリンは旅の終焉にダレンを失った。しかし、シュリンは悲しみを超えて旅を終わらせなければならない。旅の終わり、それは仇であるロノウェーザを討つこと。
シュリンとロノウェーザ、2人の大魔導師同士の一騎打ちが始まった。
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