第135話 戦争の開幕
「いけぇーー!! 突っ込めぇーー!!」
アルのテンションが高くなればなるほど、竜の動きがより激しくなる。恐らく、アルの気持ちとシンクロして竜の行動が反映されているのだろう。
アルの操作する大地巨竜の動きに翻弄されつつ、俺たちは振り落とされないように耐えていた。
「ア、アルちゃんもう少しゆっくり!!」
「何言ってるのよソレーヌ! これくらい激しい方が楽しいでしょ♪ アルちゃん、もっと飛ばしても良いからね!!」
「ひえぇーー!! ルミナも変なテンションになっているぅーー!!」
テンションが高まっているルミナの一方でソレーヌはたまらず、俺の身体にしがみ付く。
俺はずんずんと進んでいく竜の道先を警戒して見ていた。すると、1人の黒い鎧の騎士が単騎で立っているのが見えた。
「あいつは!?」
後ろからシュリンが反応を見せて、身を乗り出した。
「シュリン、分かるのか?」
「あいつは、私がダレンを探している最中に何度も私の事を襲ってきた魔人よ。名前は分からないけど、いつも現れては私の邪魔をして来たのよ。まさか、奴らの仲間だとは思わなかったけど……それと、あいつに会うたびに妙な違和感があるのよ」
「違和感?」
「ええ、何か変な感じが。ごめんなさい、うまく言葉にできないわ」
シュリンが感じる違和感については話をしていると、突然、大きな振動に襲われた。慌てて、周囲の様子を伺うと竜の移動速度が少しずつ低下してきている。
「え!? あれ!?」
「どうしたのお姉ちゃん?」
「竜が動かない!? どうしたの!? 動いて! 動いて!!」
アルが必死に願うが竜の進行はどんどん抑えられていく。明らかな異変が竜に起こっているのだろう。俺も原因を探るために周りを見る。
「フールさん! 竜の真下に誰かいます!!」
ルミナが慌てて、竜の足元を指さした。
「なに!?」
俺は竜頭から身を乗り出して竜の足元を見る。すると、そこには先ほどいた黒騎士が大地巨竜の懐に入り、腹の部分を自身の体一本で進行を押さえつけていたのである。
地面の砂利と黒曜の靴が摩擦によって火花が大きく散っている。黒騎士は超人的な体幹によって態勢を崩すことはない。
吠えながら少しでも石橋へと近づこうとする竜と黒騎士の押し相撲は続き、そして勝敗はそこまで時間が経つことなく決まった。
奈落ノ石橋を守る軍勢達が集まる所まであと100mと言うところで竜の進行が止まってしまったのである。
「止められたのか」
竜の進行を止めた黒騎士に驚く俺の正気を取り戻させるようにルミナが声を上げた。
「皆さん来ます!!」
俺が顔を上げると正面から無数の矢がこちらへ降り注いでくるのが見えた。
「結界展開します!! 皆さんは私の後ろに隠れて!!」
ルミナが素早く皆の前に立ち、盾を構えて矢を防ぐ。矢は何百本と雨の様に振り注がれ、ルミナが居なければ俺たち全員が矢の餌食になっていただろう。
俺はルミナに守られながら足元の黒騎士を見る。黒騎士は背中の大剣を引き抜き、竜の足へ向かって振りかぶろうとしてた。
「アル!! 右足で薙ぎ払うんだ!!」
俺は咄嗟にアルに指示をした。
「ふぇ!? わ、わかった!!」
アルは竜に薙ぎ払うことを命じると竜は右足を上げ、ガリガリと音を立てて地面を巻き込みながらその巨大な右足を水平に動かし、黒騎士へ向けて薙ぎ払う。
黒騎士は攻撃に備えて大剣を地面に突き立て、盾の代わりとして身を守ろうとするが、大地巨竜の質量による重い一撃を受け止めることができず、吹き飛ばされた。
大きく吹き飛ばされるが大剣によるガードと黒曜の鎧によって黒騎士自身には傷はついている様子はなかった。
道を遮っていた黒騎士をどけることができ、竜を進行できると思っていたが今度は俺たちに向けて魔法が飛び交ってきた。
「”魔法障壁”!!」
ルミナの隣に今度はシュリンも立って魔法を行使する。魔法から身を守る壁を俺たちの周りに覆い、こちらへ向かってくる魔法攻撃を防いでくれた。
こうしてルミナとシュリンによる二重防衛によって何とか身を守りながら進むことができる。
「アル! 進もう!!」
「わ、わかった!!」
俺はアルに、アルは大地巨竜に指示をしてまた進み始める。しかし、ここで新たなる問題が生まれた。
それは敵に近づけば近づくほど敵の攻撃が激しくなるため、ルミナとシュリンの防御への負担が大きくなるという事である。
「くぅ攻撃が止まない……でも、私は守る!」
必死に守るルミナの姿が後押しになったのか、シュリンは何も言わずとも必死に魔法を防いでくれた。
しかし、気持ちとは裏腹にルミナの盾の結界もシュリンの障壁もひびが入っており、限界が見えていた。
そんな辛い状況を見て、俺は火球ノ杖と妖精ノ杖を取り出す。
一か八かだ、この短時間でどれほどのものができるかわからないがこの杖に魔力を注いで発動させ、敵の数を減らすしかない。
俺が魔力を溜め始めたその時、敵の方で異変が起きていた。それは飛んできた矢や魔法が逆行し、敵が攻撃を受け始めたのだ。いや、よく見ると、逆行しているわけではなく、俺たちの遥か後方からそれは発生していた。
「フールさん見てください!! 援軍が来てくれたんです!!」
ソレーヌが嬉しそうな口調で後ろを指差す。俺が後ろを振り向くと、大勢の騎士達が弓を杖を構え、剣と盾をを持った者たちは全速力で進軍していた。その中でも馬に乗った者たちは見覚えのある者たちだった。
「フールに続け!! フールを奈落ノ深淵へと導くのだ!!」
ウォルターの掛け声によって、騎士たちは士気は高まる。
こうして、本格的に世界を守る為の軍と世界を支配する為の軍の戦争の幕が上がったのである。
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