第133話 奈落ノ石橋~アビスブリッジ~
世界は今、大きな戦争が起ころうとしている。
その火種を生み出したバルバドス軍は一足先にその戦地へと赴いていた。戦地とは正しく奈落ノ深淵。600人以上の軍勢たちの中には初めてその場所の景色を見た者もいるだろう。
1人の冒険者が荷馬車から外を見る。まず目に見えたのは地面が円形に繰り抜かれたようにできた巨大な溝。更に視界を辿ると中央に巨大な大穴が見えた。
あの大穴こそが原初のダンジョン奈落ノ深淵である。
奈落ノ深淵へ向かう為には巨大な溝を渡らなくてはならないのだが、その道は1か所しかなく、奈落へ導くかのように作られた巨大な石橋を人々は奈落ノ石橋と呼んでいる。
バルバドス軍は奈落ノ石橋の入口に軍団を配備し、奈落ノ深淵への道を完全に封鎖する作戦を取った。
軍団の指揮はロノウェーザに任命された。前回、玄武捕獲の命に対する汚名返上としてロノウェーザ自ら指揮をすることを提案したのだ。
バルバドスはそれを受け入れ、奈落ノ深淵の外での指揮をすべてロノウェーザに一身することになった。
こうしてロノウェーザ率いる軍団側にはエリゴース、ヴェルゼーブ、そしてレヴィ―アと9割以上の兵力が配置されることになった。一方で奈落ノ深淵内へ入る者たちはバルバドス、ウィーンドール、バルベリットと数十名の雑兵に決まった。雑兵を入れたのは捨て駒として使う為である。
兵達の配置が決まり、いつでもフール達を迎え入れる体制が整った。ロノウェーザは頭の切れる女であるため軍の配置などストラテジーな知識はお手の物だった。
「バルバドス様、兵の配備が完了いたしました」
バルバドス達の乗る荷馬車へ向けてロノウェーザが声をかける。
「ご苦労だった。では我々は向かうからな、後のことは頼んだぞロノウェーザ」
「はっ! お任せ下さい!」
ロノウェーザが跪く。
そして、バルバドスが乗る荷馬車と雑兵が乗る荷馬車が一斉に走り出す。走り出した荷馬車はその長く架けられた奈落ノ石橋を駆け走る。
石橋内で待機していた兵達が道を開け、荷馬車へ向けて敬礼を行う。
荷馬車の中ではバルバドスが外の景色を見ながらニヒルな笑みを浮かべる。バルバドスの隣には気を失い、横になっているセシリアの姿があった。
「バルバドス様、とっても楽しそうな顔をしておられますね」
正面に座っているウィーンドールは編み物をしながら笑顔で声をかける。
「ふふふ、今日は最高の日になる予定だからな」
「うっふふ、私も楽しみですわ」
「お前は相変わらず編み物がすきだなぁ」
「マルルクちゃんが戻って来た時のお洋服があと少しで完成いたしますの。今日のような特別な日にぴったりのお洋服をあの子にプレゼントしてあげたいのですわ♪」
そんなウィーンドールの隣で静かに座るバルベリッドが横目で外を見ていると、巨大な溝を隔てた遠くの方から影が見えた。
「"遠眼"」
遠距離を観察することができる魔法を唱え、遠くを見る。バルベリッドが見たのは全力疾走で馬を走らせる、フールの姿だった。
「フールか?」
「恐らく、見えるのは馬を操縦する男一人だ」
「馬鹿な。と言う事は……ノンナもアスモディー倒されたのか」
バルバドスの言葉にウィーンドールの手が止まる。
「ノンナちゃんが……死んだ? てことはまさか」
先ほどまでの明るい表情をしていたウィーンドールの顔が一気に青ざめる。バルバドスがノンナに対して、マルルクのバックアップ行うと言う命令を話していたことがウィーンドールが聞いていた最後の言葉だった。そのノンナが死んだということは言わずともその結果に察せざるを得なかった。
ウィーンドールは持っていた編み物を力が抜けたように手から落とすと酷く悲しむ様子を見せる。
「そんな、そんなぁ……私の、私の可愛いマルルクちゃん。そんなの嘘よぉ、嘘よぉ!!」
ウィーンドールの悲しむ姿を見て、バルバドスは一言だけ声をかけた。
「悲しいのならばフールを殺せ、ウィーンドール」
その言葉に泣いていたウィーンドールは泣くのをやめて顔を上げた。しかし、その顔は先ほどまでの優しい顔ではなく、憎悪に満ちた表情になっていた。
「そうよ、私の愛する者を殺した者には手厚い制裁を下さなければならないわ。思い知るが良いわ、愛する者が殺されると言う悲しみを」
悲しみと怒りの感情が入り混ざったウィーンドールから強い殺意がにじみ出ていた。
「死んでいった仲間達、そしてマルルクちゃんの活躍を私が無駄にはさせません。だからこそ、私は最後までバルバドス様を支えますわ。ですから、必ずこの計画を完遂させましょう」
バルバドスは返事をしなかった。何故なら、計画の完遂は当然のことだからだ。
バルバドス達の乗っていた馬車が動きを止める。雑兵によって馬車の扉が開かれた。先にバルベリットとウィーンドールが外へと出る。気絶したセシリアを馬車から引き出し、バルベリットが担ぐ。
「バルバドス様、足下の方、お気をつけください」
ウィーンドールに手を引かれて最後にバルバドスが外へと出た。
バルバドス達の眼前には巨大な大穴の底へと導く、螺旋階段があった。これが奈落ノ深淵の入り口である。
奈落ノ深淵は入る度にダンジョンの構造が変わるという不可思議な現象が起こる。まるで、生きているかのようなダンジョンなのだ。しかし、この階段の構造自体は変わることが無いため、階段を下ることで初めて奈落ノ深淵のスタートラインに立つと言えるのだ。もちろんだが、奈落ノ深淵にも魔物は出現する。出現する魔物は最上位クラスの魔物ばかりで、中には奈落ノ深淵のみを根城をとする魔物いる。そんな難攻不落のダンジョンを制覇して辿り着く場所が世界の中心なのだ。
雑兵達の人数確認が完了すると、1人がバルバドスへと報告する。
「こちら全員揃いました! いつでも突入できます!」
この言葉にバルバドスが不気味な笑みを浮かべる。バルバドスにとってこの日をどれほど待ちわびた事だろうか。
その気が高ぶった様子が笑みとなって現れ、隠しきれていないまま進軍の指示を行った。
「さぁ! 我が国の未来の為! 世界の為! 進軍を開始するぞ!!」
「「「「「うぉおおおおーー!!」」」」」
バルバドスの言葉に雑兵は大きなかけ声で返し、進軍が開始された。
この奈落ノ深淵にひとまず先に足を踏み入れたのはバルバドスたちとなった。
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本日、以前投稿していた作品をリメイクし、再投稿&連載再開をいたしました!!。
無能認定され王宮から追放された兵士、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれる。全てのスキルも魔法も使える最強なので世界の竜を統治することにしました。
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