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第132話 ソローモ同盟軍、進軍す

 フール達の裏でも世界を救う為に動いてる者達がいる。商都ウッサゴの人々を導くウォルターは民から戦う意志のある者を徴収し、兵の数を揃えていた。戦の準備である。

 騎士でも何でも無い、ただの商人も、貧民も全て受け入れた。それくらい、しなくては兵の数が足りないのだ。今ウォルター達の兵力は頑張ってもおよそ200。それに対してバルバドス軍の兵力は600以上。さらに、魔人と四大天も合わせるとかなりの兵力だ。

 また、バルバドス軍は優秀な冒険者と騎士達の寄せ集めで構成されており、戦闘経験も合わせれば絶望的な状況である。

 そんな状況下でもウォルターには考えがあった。それは他の国と協力する事だった。他国からの力を総動員すればバルバドス軍の兵力に追いつける。

 ただ、協力要請をおいそれと送って直ぐに承諾されるわけでは無い。今回の戦いはリスクが大きいのだ。この世界の中で大きい国に成り上がったバルバドスの国へ挑み、敗戦したらそれこそ国自体に影響を及ぼす可能性がある。

 お互いが協力して外交し、手を出してこなかったからこそ国が保たれていたのだ。戦争とはその境界線から一歩出てしまうことを意味する。そうなってしまってはこの世界は終わってしまうだろう。

 けれども、遅かれ早かれ戦うことになる事は決まっていたのだ。その運命に抗う国なのか、怖気付くのか今日に掛かっている。

 実は3日程前からクラリスがアガレスの国とバールの国、そして、エルフの畔へ協力要請を伝える為に伝令へと向かっていたのだ。


 伝令を申し出たのはクラリス本人からだった。


「私が行きます! 行かせてください! 私だって皆さんの役に立ちたいんです!」


 パウロやアイギスはあまり賛成してはいなかった。なぜならクラリスは副団長になりたてで、まだ若い。冷静に話をできるのか、話を通せるのかなどあったが、やはり1番の問題は人望だ。

 若く、未熟な彼女の言葉より、ウォルターの様な実力者や名の知られた者の言葉は多くの人々が信用する。それは世界の理と言っても過言では無い。

 だが、ウォルターはクラリスに命を与えた。3日後、太陽が中央に昇ってくるまでと言う期限を設けて。


 そして今日、その期限の日となった。ウッサゴの国の入り口で俺たちはクラリスの帰りを待つとともに奈落ノ深淵へ出向する態勢を整えていた。騎士や国から徴収した兵団達は荷馬車の中で待機させている。

 後は、クラリスと協力要請に応じてくれた者たちと合流して進軍を開始するだけだ。

 しかし、いくら待ってもクラリスが帰ってくる様子が見られない。太陽はまだ東の方角にある。時間としてはまだ昼になっていないが、待っても2時間後には太陽は中央の位置へと昇ってしまうだろう。

 もし、クラリスが帰ってこなかった場合、このまま進軍することになるだろう。そして、ほぼ勝ち目のない戦いを強いられることになるのだ。


「くそっ!! もう時間がねぇぞ!! あいつに行かせて大丈夫だったのかよ!!」


 パウロが苛立った様子で焦り始めていた。クラリスを協力要請の使者として送らせることに一番反対していたのはパウロだった。


「きっと大丈夫よ、あの子なら……多分」


 アイギスもやはり不安なのだろう。落ち着きがない様子でその場でウロウロしていた。まるで、我が子の帰りを心配そうに待つ母親の様だった。

 そして、更に時間が経った。ウォルターは空を見上げると太陽はあと1時間程で真上に来てしまう様子だった。

 仲間たちの殆どがもうクラリスの事を信じてはいなかった。


「ウォルター!! お前のせいだぞ、お前があいつを向かわせたせいで、この戦争の、俺たちの、勝利の可能性を失わせたんだ!!」


 パウロはウォルターの胸座を掴み、鋭い眼差しをウォルターへと向ける。


「パウロ!!」


 アイギスが間に入って止めようとするが、それをウォルターは静かに制止した。そして、ご乱心のパウロへ向けて視線を向ける。


「パウロ、そう考えるのは早すぎないか? まだ俺たちの勝利の可能性は失っていない」


「何言ってやがる!! あと少しで日が昇っちまうんだぞ!! で!? 今、あいつが来る気配があるか? 無いだろ!!」


「お前はあいつを、仲間を信用できないのか?」


「信じるも何も、もう時間がねぇだろうが!!」


「まだ時間はある!!」


 パウロへ向けた真っすぐな視線でウォルターが叱咤する。パウロは反論したがったが、言葉が詰まる。


「クラリスを信じるんだ、あいつは必ず来る」


「で、でもよ……」


 パウロは力なくウォルターの胸座から手を放す。

 アイギスはお互いの喧嘩が大事にならかったことに安心する。その時、アイギスは何かに気が付いた。


「ウォルター! 前方から何か近づいてくる音がするわ!!」


 アイギスはその道へ向けて、耳を澄ませる。


「これは……馬の走る音?」


 ウッサゴとは反対側の一本道の街道の遠くの方から軽快に馬が走ってくる音が聞こえる。そして、等々太陽が天の中央に昇った時、金属鎧を身に纏った見覚えのある顔が1頭の白い馬を走らせてやって来たのだ。


「皆さんお待たせいたしましたぁ!!!! 周りの国々が戦争に協力していただけるそうです!!」


 大声でそう叫んで近づいてくるのは皆が待ちわびた副隊長クラリスだった。そして、クラリスの後ろからはバールの国とアガレスの国の兵士と下級から中級の冒険者、そしてエルフの畔からやって来たエルフやピクシーたちの軍団を引き連れてきていた。その数、ざっと1000人以上である。


「う、嘘だろおい……」


 パウロは開いた口がふさがらない様子だった。


「うふふ、あはは! これは、正直驚きね!」


 アイギスも笑ってしまうほど驚いているようだった。しかし、ウォルターだけは分かっていたかのように口角を少しだけ上げる。

 クラリスが俺たちの元に近づくと馬から降りてウォルターの方へと駆け寄り、騎士の敬礼を向ける。


「大変遅くなってしまい申し訳ございません!! しかし!! 私、クラリスは仕事を全うし、他国との一時的な同盟を結んできて参りました!! 現在のバルバドスの状況について説明しましたら、バール王もアガレス王も協力していただけるとのことで兵士と冒険者ギルドからすぐに出動できる冒険者を集めてくださいました! エルフやピクシーさんたちはフールさんの話をしたら是非協力したいとのことで、戦闘ができる方々が来てくださいました!!」


 ウォルターは熱心に説明するクラリスの肩に手を置き、硬い表情を少しだけ緩ませた。


「信じていたぞ、クラリス」


「は、はい!! 信じていただきありがとうございます!!」


 クラリスはウォルターに褒められ、目を輝かせながら元気の良い返事をした。ウォルターがパウロの方を見ると、パウロは焦った様子を見せたが、観念したようで頭を掻き始めた。


「はぁ……分かった分かった、俺が悪かった。すまねぇクラリス」


「へ? 何のことですか?」


「私も、謝るわ。ごめんなさいね。でも、よく頑張ったわね」


 アイギスもクラリスの頭を撫でながら謝る。


「わわわ!? なんでみんなが私に謝っているのですか!? 謝るのは私の方ですよ!! うう……思ったよりも遅れてしまって申し訳ございません」


「でも、あなたも大義を成してきたんだから前を向いてしっかり胸を張りなさい。副隊長なんだからね♪」


「クラリスさん……はい!」


 アイギスの言う通り、クラリスは確かに大きな成果を持って帰って来た。後の事は、このウォルターに引き継ごう。

 ウォルターは改めて集められた軍団を見る。そして、皆に向けて話始めた。


「諸君! 協力感謝する!! クラリス副隊長からも聞いていると思うが我々の世界の秩序が大きく乱れようとしている。それは、バルバドスの国の国王、バルバドスが四神の力を行使し、世界を制圧しようとしているのだ!! この計画を阻止するために我々は原初のダンジョン『奈落ノ深淵(アビスフォール)』へと向かう!! そこにはフールと言う、この世界の命運がかかった男が先行して向かったのだ。我々はそのフールのバックアップ及び、バルバドス軍との対峙を行う! 準備は良いか!!」


 ウォルターの言葉の後、多くの兵士や冒険者、そしてピクシーやエルフが高らかな叫び声を上げて答える。

 これで、バール、アガレス、エルフの畔、そしてウッサゴの全ての者たちが団結し、ソローモ同盟軍が誕生したのだった。


 こうして、ソローモ同盟軍は奈落ノ深淵へと進軍を始める。今から、大きな戦争が始まるのだ。


最後までお読み頂きありがとうございます!


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「これからも続けて欲しい!!」



もし、以上の事を少しでも思ってくださいましたら是非評価『☆☆☆☆☆→★★★★★』して頂く事やブックマーク登録して頂けると泣いて喜びます!

それでは次回まで宜しくお願いします!

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